【米大統領選2016】トランプ氏発言は米安全保障を損なう=米国防総省

ドナルド・トランプ氏 Image copyright Getty Images
Image caption ドナルド・トランプ氏

2016年米大統領選に共和党から出馬している有力候補の実業家ドナルド・トランプ氏が、イスラム教徒の米国入国を禁止すべきと発言したことについて、米国防総省は発言は過激派勢力「イスラム国」(IS)を勢いづけて米安全保障を脅かすものだと警告した。またホワイトハウスは、トランプ氏の発言は大統領候補として失格だと強く批判した。

共和党から出馬している候補で支持率トップを走るトランプ氏は7日夜、カリフォルニア州サンバーナディーノ郡で14人を殺害した乱射事件の容疑者夫妻がイスラム過激主義者だったかもしれないとの情報から、すべてのムスリム(イスラム教徒)の米国入国を禁止すべきだと文書で表明した

サンバーナディーノ郡の乱射事件の容疑者夫妻は、共にイスラム教徒で、過激思想の影響を受けていたとされる。妻のタシュフィーン・マリク容疑者は事件当日、インターネットにISに忠誠を誓う書き込みをしていた。

しかし国防総省のピーター・クック報道官は、このような発言は「ISILの主張を後押しする」と批判した。「ISIL」は米政府関係者が「IS」を指して使う名称。

報道官はトランプ氏の名前を挙げずに、ムスリムに国境を閉ざすようなことは過激派思想と戦う米国の努力を損なうものだとして、「ISILの主張を後押しし、イスラムの信仰に敵対するものとしてアメリカを位置づけるようなことはすべて、この国の価値観に背くだけでなく、この国の安全保障に背くものだ」と批判した。

トランプ氏の発言に対しては米国内外から非難の声が相次いでいる。ホワイトハウスの大統領報道官は、トランプ氏は大統領候補として失格だと批判。ムスリム指導者や国連関係者のほか、共和党関係者たちも発言を批判しており、ジョン・ケリー米国務長官も8日朝、ISとの戦いにおいてトランプ氏の発言は「建設的でない」と述べ、非難の輪に加わった。

【米大統領選2016】トランプ氏、ムスリムの米入国を全面禁止せよと

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Image caption サンバーナディーノ郡では犠牲者の追悼が続く

共和党幹部は強い口調でトランプ氏の発言を非難し、ポール・ライアン下院議長は「昨日提案されたようなことは、この党を象徴するものではない。何より、この国を象徴するものでもない」と述べた。

民主党の有力候補ヒラリー・クリントン前国務長官もツイッターで、トランプ氏の発言は「私たちの価値に背くだけでなく、テロリストの思うつぼだ」とツイートした。

他の共和党候補も、ジェブ・ブッシュ氏がトランプ氏は「たがが外れている」とただちに非難するなど、ほぼ一様に批判に回った。例外はテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)で、トランプ氏の提案そのものには同意しないがトランプ氏が「この国の国境をしっかりしたものにしなくてはならないと、アメリカ国民の意識をそこに向けてそのために立ち上がった」ことは称賛した。

トランプ氏は声明で、ムスリムが米国を「憎悪」しているため、「これはいったい何事なのかこの国の代表たちが見当をつけられるまで」ムスリムの入国を禁止すべきだと主張した。すでに米国在住のムスリムは除外されると発言を後に修正したものの、8日にも、自分の提案は第2次世界大戦中に米国内の日系、ドイツ系、イタリア系の住民に対してルーズベルト大統領がとった対策に類するものだと、その有効性を強調した。

内外からの非難に対して発言の正当性を強調するトランプ氏は、ロンドン市内には「過激思想があまりに蔓延していて、警察も身の危険を感じる地域がある」と発言。

しかしロンドン市長のボリス・ジョンソン氏はこれについて「ばかげている」と一蹴し、「私がニューヨークの一部地区に行かないのは、ドナルド・トランプに出くわす本当の危険があるからだ」と付け加えた。

トランプ氏が反ムスリム発言で批判されるのはこれが初めてではない。11月13日のパリ連続襲撃の後には、米国内のムスリムの行動をデータベースにして監視し、シリア移民の入国を全面禁止すべきだと発言している。


<分析>アンソニー・ザーチャー、BBCニュース、ワシントン

トランプ氏の今回の派手な発言のおかげで、共和党はおそらくムスリム系米国市民の支持獲得は完全に諦めたほうがいいだろう。

トランプ氏はラテンアメリカからの移民も相変わらず罵倒し続けているで、ヒスパニック系市民の支援を手にするのも無理だ。

たとえ共和党の候補指名を獲得しなかったとしても、トランプ氏は移民反対で排外主義的な右側へと共和党と他の候補たちを引きずりこんだ。これは来年11月の本選の時点で、共和党の足を引っ張ることになるかもしれない。

そもそも保守勢力がリベラル勢力との戦いで大いに駆使した論点を、トランプ氏は共和党エスタブリッシュメントや米国メディアとの戦いで武器としてふるっている。もしかするとこれが何よりの皮肉なのかもしれない。


(英語記事 Trump's Muslim ban call 'endangers US security'

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