【ロンドン火災】 生存者の一人は青酸中毒と診断

ケイティー・ラザル記者、サラ・モラリオル記者、BBCニュースナイト

写真手前右のルアナ・ゴメスさん(12)が青酸中毒と診断された
Image caption 写真手前右のルアナ・ゴメスさん(12)が青酸中毒と診断された

6月14日未明にロンドン西部で発生した高層公営住宅「グレンフェル・タワー」の火事で、被害者のうち少なくとも1人が、シアン(青酸)中毒と診断されていたことがBBC番組「ニュースナイト」の取材で分かった。

診察記録によると、12歳のルアナ・ゴメスさんは青酸ガス中毒の症状で治療を受けた。きわめて毒性の高い青酸ガスは、断熱材やプラスチックなどが燃えたことで発生した可能性がある。

ルアナさんの妹と母親も、青酸中毒の恐れがあると手当てを受けた。

母親アンドレイア・ゴメスさんは当時妊娠7カ月で、胎児は亡くなってしまった。

これまでにグレンフェル・タワー火事の生存者3人が青酸中毒の治療薬を投与されたと伝えられていたが、実際の診断は今回初めて確認された。

アンドレイアさんと娘たちは、ロンドンのキングス・コレッジ病院に搬送され、症状の進行を遅らせるため薬物で誘発した昏睡状態で治療を受けた。

アンドレイアさんは4日間意識不明で、ルアナさんは6日間、妹のメガンさんは一週間、昏睡状態にあった。

ルアナさんの退院記録には、「煙吸引による負傷」と「青酸化合物中毒」と書かれている。

Image caption グレンフェル・タワー火災で被害に遭ったルアナ・ゴメスさんの退院記録。主な診断として「Smoke inhalation injury(煙吸引による負傷)」と「Cyanide poisoning(青酸中毒)」と書かれている

息子を殺された

ルアナさんが「青酸中毒」の治療として、ヒドロキソコバラミンの投与を受けたことも書かれている。母娘3人全員が、青酸治療薬を投与されたが、実際に青酸中毒だったと診断されたのは、ルアナさん一人だ。

青酸が体内に入ると、頭痛、めまい、混乱、嘔吐、ひきつけ、呼吸困難などが症状として起きる。大量に吸収した場合は即死もあり得る。

臨床毒物学と救急医療の専門医、ヨハン・グルンドリン医師は、「(青酸ガスは)即効性が非常に高い(中略)浴びる量によっては数秒で死亡することもある」と話す。

「酸素を正常に吸い込むと、人間の細胞はエネルギーを作り出す。しかし青酸を吸収すると、酸素からエネルギーを作り出すことができなくなる」

アンドレイアさんは、断熱効果の低い、より安価な外装材をグレンフェル・タワーに使うと決めた責任者に、強い怒りを抱いている。

「その人が私の息子を殺したんです。普通の状態だったら私は外に出られた。あの子は7カ月で、生き延びられた(中略)けれどもああいう状態だったから、息子は死んでしまった」

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「息子は殺された」 グレンフェル火災でおなかの赤ちゃんが

夫のマーシオ・ゴメスさんはBBC「ニュースナイト」に対して、22階の家の寝室に炎が達し始めた午前4時ごろ、家族を連れて脱出する決心をしたと話した。

煙が充満した階段を手探りで、息も絶え絶えに降りていく間、何人かの遺体をまたがなくてはならなかったという。

「どれだけ大勢の体につまづいたり、踏んでしまうか、予想していなかった。人の腕や脚を踏み越えて進んだ」

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外壁の断熱材が燃えれば青酸ガスが

家族はキングス・コレッジ病院に搬送された。煙を吸い込みながらも意識があったのは、父マーシオさんだけだった。

誰かにはっきり言われたわけではないものの、生まれる前の息子は死んでしまったようだと感じていたマーシオさんは話す。夫妻はすでに「ローガン」と名前を付けていた。

「アンドレイアは誘発昏睡状態だったので、何が起きているか分かっていなかった。娘たちも誘発昏睡で集中治療室にいた。こういう場合は母親を優先するのだと言われ、何かがおかしいとすぐに気づいた。だから何を言われているのか、はっきり言われなくても分かったので、泣き崩れてしまった。その後になって、赤ちゃんが亡くなったと言われた」

民家火災でプラスチック製品が燃えて、被害者が青酸中毒になる事例は珍しくない。

グレンフェル火災で何が青酸ガスの発生源になったかは、まだ不明だ。ただし、建物の外壁に使われたフォーム断熱材が燃えると、青酸ガスが発生することは分かっている。

グレンフェル・タワーでは2015~2016年にかけて、1000万ポンド(約15億円)規模の大規模修繕工事が行われた。この際に外壁に使用された素材の上層部は、アルミの間にプラスチックを挟んだ、耐火性の低いものだと判明し、炎の延焼との関係が注目されている。フォーム断熱材を覆うアルミとプラスチックのパネルが、建物のエネルギー効率を向上させると期待されていた。

「プラスチック製のフォーム断熱材は要するに、もとは原油だ。そのため、ほかの石油化学製品とだいたい同じように燃え上がる」と、セントラル・ランカシャー大学のリチャード・ハル教授(化学・火災科学)は説明する。

「窒素を大量に含むため、燃えると一酸化炭素とシアン化水素が発生する」

シアン化水素の気体は青酸ガスだ。

英硬質ウレタンフォーム製造業者協会(BRUFMA)の広報担当は、どの素材が有毒ガスの発生源になったか、思い込みで判断すべきでないと指摘する。BRUFMAは、グレンフェル・タワーで使われた種類を含め、ウレタン断熱材製造業者の業界団体。

「燃える素材から出るガスはどれでも有毒だ。ほとんどすべての火事で最も危険なのは、一酸化炭素だ」

「ポリイソシアヌレート(PIR)がとりわけ危険だと示唆する証拠はない。英国建築研究所・火災研究ステーションがPIRパネルを使った建物を試験したところ、使っていない建物に比べて特に危険な煙や有毒ガスが増えるという結果は得られなかった」

(英語記事 Grenfell survivor was diagnosed with cyanide poisoning

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