「みんなシリアに送り返す」 トランプ氏の難民危機「解決策」はどこから

Donald Trump speaks at a rally in Keene, New Hampshire. Image copyright Getty Images

もし自分がアメリカ大統領になったら、アメリカ入国が許されたシリア内戦の難民は全員、シリアに強制送還する――。2016年米大統領選に出馬している実業家ドナルド・トランプ氏の公約だ。トランプ氏の遊説先でのこの発言は、内容的に数字的にも根拠薄弱だと批判されている。

大統領選で重要な意味をもつ北東部ニューハンプシャー州の遊説先でトランプ氏は9月30日、過激派勢力のいわゆる「イスラム国」(IS)支持者「20万の軍隊」が難民のふりをしてアメリカに入国しようとしているかのようだと警告した。

「あんな移動を見たことがありますか? みんな男なんですよ。みんな頑丈そうだ! 見ました? 歩いてる。男がやたらといて、女はそんなにいない。見ながら私は『どうしてシリアのために戦わないんだ? どうしてみんなヨーロッパに移動してるんだ』と思ったわけですよ」

シリア難民危機に対するトランプ氏の発言と同じようなことを、世界各地でいろいろな政治家が口にしている。ニュージーランドの中道右派ニュージーランド・ファースト党のウィンストン・ピーターズ党首は、男性のシリア難民受け入れに反対。「女子供は受け入れて、男たちには自分の国の自由のために戦えと言おうじゃないか」と発言している。

総選挙を控えるカナダで9月に行われた党首討論で、難民の受け入れが不十分だと野党党首2人に攻撃されたハーパー首相は、「この2人に任せていたら、この2週間というものカナダは国境を全面開放していただろう。そんなことをしたら何十万もの人が、何の入国審査も必要な書類もないまま入国していたはずだ」と反論。「それは大間違いだ」と述べた。

トランプ氏は遊説先でさらに、難民に偽装した「秘密の軍隊」のアメリカ入国は成功すれば「史上最高の大作戦のひとつだ」と言い、トランプ大統領ならそれを阻止できると強調。

「優しさが足りないと、そう言う連中はたくさんいるはずだ。でも優しくしてる余裕なんてないんだ」

トランプ氏の主張は、インターネットで拡散している噂や投稿や右派のコメントを根拠の一部としているようだ。インターネットでは、中東からあふれ出る難民のほとんどが若い男性で過激派の武装勢力だと決めつける発言が飛び交っている。

9月初めには、「この難民は元IS兵だ」という噂が数万人によって共有されたが、後にBBCによって事実ではないと証明された。

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Image caption This viral Facebook post, debunked by the BBC, purportedly shows an Islamic militant posing as a refugee

筋肉隆々のシリアの男たちが難民のふりをしている噂と共に流布した写真数枚は、実際には写真はオーストラリアからのものだった。

オンラインニュースサイト「Vice」のライター、フィリップ・クラインフェルドさんは、シリアの若者たちがミュンヘンの駅構内を歩く写真に「こいつらは女子供を戦地に残してきた」とキャプションがつけられて拡散するのを見たが、写真の出所をたどると、それは周りに女性や子供も大勢映ったビデオから切り取られたものだと判明した。

アメリカの保守系メディアも、難民危機に関するデマの拡散に参加している。保守系のラジオ司会者ラッシュ・リンボー氏は9月、シリア難民は「スリーパー」(一般人を装い敵国に潜入する工作員)かもしれないと発言。「オバマはシリア難民をこの国に空輸するつもりだ。顔ぶれは一緒。8割が男で、ほとんどが18、21、22とかの現役兵の年齢だ」とも述べた。

保守系の論客カート・シュリヒター氏は雑誌「IJReview」で、男性難民は女子供を置き去りにした「卑怯者」と呼び、「アメリカは勇者のふるさとのはずだ。臆病者のホステルじゃない」と書いた。

地中海を渡り欧州に到着するシリア人難民のうち、7割が男性だ。年齢はさまざまだ。男性が多いのは、すし詰めの船で海を渡るのが危険だからかもしれない。しかし国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、シリア内戦で故郷を追われたシリア人400万人のうち半数余りが女性だと推定している。

リバタリアン系雑誌「Reason」でマット・ウェルチ氏は「とんでもないことだ」とこうした難民批判を批判する。「アメリカで生まれ育った誰一人として経験したことのないような困難に立ち向かってる人たちの勇気を、こうやって非難するなんて」。「ユダヤ人は1980年代のロシアに残ってた方が良かったのか? ボートピープルはポルポトみたいな連中にも立ち向かった方がよかったのか?」。

「難民20万人がアメリカに向かっている」と言うトランプ氏の発言の根拠がどこからくるのか、はっきりしない。アメリカはこれまでシリア人1500人の入国を認めており、男性はその52%だ。ケリー国務長官は2017年までに世界全体からアメリカが受け入れる難民の数を10万人に増やしてはどうかと提案しているが、男女比がそう大々的に変わる兆候はない。

同じく共和党から米大統領選に出馬しているジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は、トランプ氏の発言に鋭く反論した。

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Image caption ギリシャ・アテネでフェリーを降りるシリア難民たち。国連によると過半数のシリア難民が女性という

「全員を送り返すって? あの地獄に? ちなみに彼は、シリアでのプーチン台頭を支持するかのような発言もしてるんですよ。そんなのがアメリカにとって正しい政策であるはずがない」とブッシュ氏は30日、ニューハンプシャー州の遊説先で非難した。

トランプ氏の脊髄反射的な発言にこれといった意外性はない。そもそも同氏の選挙戦がこれまで成功してきたのは、「ポリティカリー・コレクト」な「良識」に縛られず、言いたいことを言いたいように発言してきたからだ。

トランプ氏は9月24日にも同じく共和党から大統領選に出馬しているルビオ上院議員(フロリダ州選出)をやり玉に挙げ、上院外交政策委員のルビオ議員が外交政策について杓子定規すぎると批判。

「いいか、マーコ・ルビオはたまに机に向かっていろいろ読んで、委員会に出てる。それだけだ。私は1日中、仕事を作り出してるんだ。連中全員をひっくるめて、私の方がこのことについてよく知ってるよ」とトランプ氏はCNNで述べた。

トランプ氏はさらに、ルビオ議員と異なり自分にはシリアについて「勝算」があるが、その一方で、ISに手の内を知らせたくないので内容は明らかにしないとのことだった。

しかしすでにアメリカに住むシリア難民は別の話なのだろう。もちろん。

共和党から大統領選に出馬している候補たち(一部はすでに撤退)