出馬すべきか止めるべきか――バイデン米副大統領のハムレット的瞬間

US Vice-President Joseph Biden - looking down Image copyright Reuters

ジョセフ・バイデン米副大統領は外交政策に精通している。事実関係を細かく入念に精査し、選択肢を計りにかけるのが得意だからこそ、外交政策の妙手なのだが、それだからこそ大統領候補としてはいかがなものかという見方ができる。実際、まだ出馬するべきかどうかさえ決められずにいるのだ。

ワシントンには「バイデン時間」という言い方がある。副大統領は話好きなので、それに合わせた予定の組み方になるのだ。

最近では誰もが、果たして大統領選に出るのか出ないのか、結論が出るのを待っている。

アメリカ大統領の職は、世界で最強の仕事とも言える。それだけに選挙戦に対する副大統領のアプローチを見ておくのは大事なことだ。その選挙戦略は本人の性格の「癖」を浮き彫りにするし、大統領の世界戦略策定をどう支えているのかも見えてくるからだ。

候補としてバイデン副大統領は、自らの豊富な外交経験を選挙戦にもちこむだろう。上院外交委員会の委員長を経験し、今では世界情勢についてオバマ大統領に助言する立場だ。

バイデン氏は外交課題に対して慎重な姿勢をとる。アメリカの軍事的役割の縮小を提唱し、大々的な部隊の投入よりも無人機や特別部隊を限定的に、的を絞って投入する方法を好む。外交方針は最低限のことで効果をねらうミニマリストで、米軍をリスクにさらすことを比較的嫌う。

外交に対する姿勢と同様、大統領選の戦略についても慎重に熟慮を重ねてきた。だからこそ、少なくとも候補としては、逆効果なのだ。

政治評論家たちは、バイデン氏が出ると決めるなら今で、迷っている余裕はなくなりつつあると指摘する。しかもたとえ出馬したいのだとしても、10月13日の民主党候補討論会で本命のヒラリー・クリントン氏が見事だっただけに、今となってはとても歯が立たないだろうと。

バイデン氏が出馬を検討しているという報道は今年8月に始まったが、政治ニュースサイト「ポリティコ」によると、最終的に決断するにはまだ数日かかりそうだ。

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Image caption ヒラリー・クリントン氏はバイデン氏の動きを注視してきた

しかしバイデン氏も、そしてバイデン氏の相談相手のオバマ大統領も、行動しないことも行動の一種だと承知している。行動しないという行動は、外交においても選挙戦においても意味があるのだ。

大統領選に関していえば、バイデン氏はほとんど何も行動していない。それでも外交政策や大統領の政策決定においてあまりに役割が大きいため、候補になっていなくても、大統領選に影響を与えている。

ヒラリー・クリントン氏はかつて、オバマ大統領が推進してきた環太平洋連携協定(TPP)を「通商協定の黄金律」と呼んで、支持していた。しかし今では反対に回った。ニューヨーカー誌のライアン・リザ記者によると、反対に回ったのは、TPPを支持する「バイデン候補」と自分の差別化を図るためでもあるという。またTPPに反対することで、TPPを嫌う労組幹部などの支持を取り付けられるかもしれない。

14日朝にはホワイトハウス前に数十人のカメラマンや記者が集まっていた。アメリカの「インフラ・プロジェクト」イベントのために、それほどの報道陣が集まるとは異例のことだった。記者たちのお目当ては、基調講演の話者だった。鉄道や港湾について話した後に、もしかしたら大統領選について話すかもしれないという期待があったからだ。

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Image caption バイデン副大統領は近く出馬するかどうか判断するとみられている(写真は2013年撮影)

ホワイトハウスの隣にあるアイゼンハワー行政府ビルの3階で行われたイベントに、バイデン氏は遅れてやってきた。楽しそうな様子だった。

パリッとした白いシャツとブルーのジャケットを着たバイデン氏は、木製テーブルを囲む席に着き、政府関係者や高速鉄道会社の幹部たちを前にした。

招かれていたジェフ・ジーンツ国家経済会議(NEC)委員長はバイデン氏を見て、「来てくださってとてもありがたい」とあいさつした。

民主党か共和党かを問わず、ワシントンでは大勢がこれに同意するはずだ。かつてブッシュ政権で対テロ政策担当の幹部だったホワン・ザラティ氏は「バイデンを尊敬する人はたくさんいる」と話す。

オバマ政権で国務次官補代理だったスザン・ノッセル氏は、ワシントンで42年にわたって働いてきたバイデン氏の仕事ぶりは、党派を問わず尊敬されていると言う。「とても長いことキャリアを築いてきたので」。

その一方で42年もワシントンにいるにも関わらず、お約束のワシントン・インサイダーというレッテルを張られずにいるバイデン氏は、「同席していても、思った通りのことを言うとは限らない」とノッセル氏。

運輸インフラを話し合うイベントでは、バイデン氏は周りを見回してから、「みんなにとっては朗報だ。断れない相手と昼を食べる約束があるんで。向こうが遅れてくるといいんだが」と語った。

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Image caption オバマ大統領はバイデン副大統領に外交政策について助言を求める

バイデン氏は毎週、大統領と一緒に昼食をとる。世界情勢だけでなく、個人的な話もするという。食事は1時間程度で終わる。しかしバイデン氏の思考プロセスにはもっと時間がかかる。問題を熟慮し、判断し、大統領に助言する作業が、1時間程度で終わる

「確かにずいぶん時間をかけてじっくり考えている。それがある時いきなり、答えが飛び出るんだ」 外交問題評議会のレスリー・ゲルブ名誉会長は副大統領について言う。

大統領選出馬についても、同じようなアプローチで臨んでいるようだ。インフラに関するイベントで発言を終えたバイデン氏は、黒いフォルダーを手に取ってドアへ向かった。そして出がけに振り向き、部屋に集まった報道陣に目をやった。

ブルームバーグ社のマーガレット・タレブ記者が質問を投げかけた(本人が後に語ったところでは「オペラ的に」)。民主党討論会をどう思ったか、そしてあなたは出馬するのですかと。

バイデン氏は黙っていた。

72歳の副大統領はしわがれ声で、顔色は青白い。常に何かに気を取られているような風情で、時にためらいがちに見えることもある。ほかの候補なら、そしてもしかしたら次の大統領は、物事に頭から飛び込んでいけるのかもしれない。記者の質問に答えるのでも。国際問題に分け入っていくのでも。

その先にあるのは良い結果かもしれないし、悪い結果かもしれない。その候補をどう思うか、そして世界におけるアメリカの役割をどう思うかによって、判定は違ってくる。しかし今のところ、副大統領が大統領選の展開にもっと活発に関わっていくのかどうか知っているのは、ただひとりだ。

バイデン氏はやがて、最初の質問には答えた。民主党候補の討論会については、壇上に上がった候補が「みんな全員、よくやったよ」と。

しかしあとは「ありがとう」とだけ言い、部屋を出ていったのだった。

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