アジアのアイドル業界、その暗い側面

  • 2016年01月30日

BBCニュース

大井真理子

韓国グループTWICEの台湾人メンバー、チョウ・ツウィさん Image copyright Reuters
Image caption ビデオで台湾の旗を振ったため、韓国グループTWICEの台湾人メンバー、チョウ・ツウィさんは激しい批判にさらされた

彼らは「アイドル」と呼ばれ、その仕事は「夢を売ること」だ。日本や韓国の若いポップスターは何十年も前から、10代の若者のあこがれの的だった。

しかし、華やかな表面の裏には鉄のこぶしで、アイドルを管理するタレント事務所がある。

最近、日本と台湾のアイドルが、相次いで公の場で謝罪する羽目になった。その様子は、タレント事務所がどれほど力を持っているかを、まざまざと浮き彫りにした。

日本と韓国のポップミュージックはそれぞれJ-POP、K-POPと呼ばれる。どちらも数百万ドル、数億円規模の産業だが、スターのほとんどは給料制で、それほどの収入はない。

若者たちはさらに、アイドルらしくふるまうよう、厳しい規則で縛られている。たとえば日本ではアイドルの多くはデート禁止で、結婚には許可が必要だ。

契約書の「デート禁止」条項を破ったアイドルが、評判を落としたと訴えられることもあった。人気女性グループAKB48の峯岸みなみさんは2年前、恋人と一夜を過ごして所属事務所の規則を破ったため、髪を剃って涙ながらに謝罪した。

作られたアイドル・グループは男女を問わず珍しくない。しかし音楽雑誌「ビルボード・マガジン」の東京在住アジア支局長ロブ・シュワルツさんは、「事務所がスターの私生活を管理するなど欧米では聞いたことがない」と話す。

「考えようによっては、映画会社が映画俳優を強力にコントロールした1940年代のアメリカと似ていると言えるかもしれない。しかし当時でさえ、たとえスターのデートや結婚を奨励はしないにせよ、これほどの強制はなかった」

韓国では日本よりも堂々と、アイドルがデートしたり結婚したりできるが、それでも事務所はスターの日常生活を非常に細かく管理している。

K-POP業界に詳しいマーク・ラッセルさんは、「1990年代にいくつか派手なスキャンダルが相次いだせいで、事務所は所属タレントのイメージをとても気にしている」と説明する。

「タレント事務所に行けば、若い研修生がみんな実に礼儀正しくお辞儀をしてくれる。壁にはタレントとしてのふるまい方について、事務所の規則を書いた張り紙が念押しするように貼ってある」

事務所が一部の若いスターに、美容整形手術を受けるよう勧めているのではという憶測もある。

アイドルの政治発言も、タブーの1つだ。16歳の台湾人スター、チョウ・ツウィさん(16)は先日、ウェブサイト番組の中で台湾の旗を振ったことが問題視され、台湾独立を支持していると騒がれてしまった。

チョウさんが所属する韓国のJYPエンターテインメントは、本人の謝罪ビデオをネットに掲載して対応した。

Image copyright Youtube - JYP Entertainment
Image caption 地味な服装で深々と頭を下げ、繰り返し謝罪したチョウ・ツウィさん

怒る中国人ファンをなだめるために無理やり謝罪させたわけではないと、事務所は強要を否定した。しかし、スキャンダルは本人だけでなく事務所全体の問題なのだと、話し合いが行われたはずだとラッセルさんは指摘する。

しかしK-POPが人気の他の市場で彼女の謝罪ビデオがどう受け止めらるか、事務所側は考えていなかった。謝罪は若いスターだけでなく、台湾にとっても屈辱的だと多くの台湾人が受け止め、強く抗議した。

ラッセルさんは「韓国では謙虚な態度をとても重視するが、韓国以外ではやりすぎだと受け止められることもある」と説明する。

その数日後には隣国の日本で、ベテラン男性アイドルグループSMAPのメンバーが黒い服装で自分たちのレギュラー番組「SMAPxSMAP」に登場し、沈痛な面持ちで深々と頭を下げて謝罪した。

SMAPの過ちは、所属するジャニーズ事務所から独立しようとしたことだった。

解散の噂に対する謝罪はファンにだけ向けたのではなかった。SMAPは、日本の芸能界で最も影響力が強く、かつ毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい存在のひとり、ジャニーズ事務所の創業者で84歳のジャニー喜多川さんにも謝罪したのだ。

喜多川さんはこれまで3回、ギネス世界記録に認定されている。そのうちの1つは「チャート1位のシングル曲を最も多くプロデュースした人物」で、1974年から2010年の間にナンバーワン・シングルを232曲手がけている。

とはいえこれは、日本の少年アイドルグループをほぼ独占的に手掛けてきた人の業績の、ほんの一部に過ぎない。

Image copyright Courtesy of Fuji TV
Image caption 5人のうち4人がすでに40代だが、アイドルグループ「SMAP」は日本の芸能界の中心的存在だ

謝罪する5人の中心に立っていたのは、ひとり事務所に残るつもりの木村拓哉さんだった。ほかの4人は長年のマネージャー、飯島三智さんと共に事務所を出るつもりだったと言われている。飯島さんは、創業者ジャニー喜多川さんの姉で副社長のメリー喜多川さんと衝突したと伝えられている。

向かって左端に立ったのは、いつもなら5人の中央に立つリーダーの中居正広さんだった。この細かい違いの意味は伝わりにくいかもしれないが、日本でSMAPを見てきた人にとっては、実に象徴的なことだった。大衆紙「日刊ゲンダイ」はその一面に「中居 公開処刑」と見出しをつけた。

このSMAPの姿は、会社に逆らえないホワイトカラーのサラリーマンに似ていると受け止めた人もいた。

謝罪放送の後、「社畜」という言葉がソーシャルメディアでトレンドし始めた。ほぼ同じころにツイッターが15分間ダウンしたため、日本のファンの間では、SMAP関連のツイートのせいだろうと憶測が飛び交った。

Image copyright AFP
Image caption 2012年6月のAKB48。中央上に峯岸さん

パワーハラスメントだとして、日本の報道監視機関に抗議するファンも複数いた。

しかし、興味深いことに日本の主要メディアはこの騒ぎからは距離を置き、SMAPが解散しないと知ってファンは安心という論調の報道に留まった。

そのため、人気タレントをほかにも大勢抱える強力なジャニーズ事務所を批判したくないから、主要メディアは腰が引けているのではないかという非難が次に飛び交った。

BBCは議論についてジャニーズ事務所に問い合わせたが、事務所側はコメントを断った。韓国のJYPエンターテインメントにもチョウ・ツウィさんの件についてコメントを求めたが、回答はなかった。

ビルボード・マガジンのシュワルツさんは「日本の主要メディアで働くジャーナリストは、何を書いて良いか悪いかよく理解しているので、自己検閲している」と話す。

ジャニーズ事務所ほどメディアに強力な影響力を持つ特定の事務所は、韓国にはない。しかしK-POPに詳しいラッセルさんによると、「以前は事務所とメディアのもちつもたれつがもっと多かった」。しかしそ主にソーシャルメディアでファンが活発に反応できるようになったのを機に、韓国の芸能スキャンダル報道は変わってきた。

世界の他の国と同様、日本や韓国の子供たちも、華やかな芸能界に憧れる。

しかし最近相次いだ一連の出来事は、アイドルが売っているはずの夢の世界と、業界の実態がいかにかけ離れているか、ファンの間でも浮き彫りにした。

(英語記事 The dark side of Asia's pop music industry

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