【米大統領選2016】 ドナルド・トランプ氏と「18禁」の大統領選

ジェシカ・ルッセンホップ記者

自分の手は小さくないと討論会で主張したトランプ氏 Image copyright Reuters
Image caption 自分の手は小さくないと討論会で主張したトランプ氏(3日)

今回の米大統領選で候補たちが交わすやりとりは、罵倒と性的に含みのある皮肉と、奇妙な振る舞いにあふれている。この様子を子供にはどうやって説明したらよいのか? そもそも子供に政治を見せてよいのか?

最近の共和党討論会を子供と一緒に見ていた親は、微妙に気まずい思いをしたはずだ。ドナルド・トランプ氏が自分の手について話し始めた時のことだ。

かつて1980年代の大昔にトランプ氏について「指の短い下品な男」と書いた雑誌記事があった。共和党のマーコ・ルビオ氏がバージニア州で遊説中にこの罵倒を復活させた。トランプ氏が繰り返し、ルビオ氏の身長を馬鹿にしていたからだ。

「あの男の手を見ましたか? 手の小さい男はなんと言われるか知ってますよね? 信用できない」

ルビオ氏のこの発言を受けてトランプ氏は、フォックス・ニュース主催の3日夜の討論会で、観客に自分の手を掲げて見せた。

「私の手について『手が小さいなら、ほかのものも小さいはずだ』と言われたが、保証します、何の問題もないです。保証します」とトランプ氏は発言した。

ニュージャージー州メープルシェードのミシェル・リバートンさんはテレビでこれを見ていて、娘と一緒だったために困ってしまったという。BBCニュースへのメッセージでリバートンさんは「討論会をテレビで13歳の娘と観ていました。あの発言があってすぐに、娘に目をやりました。どう反応しているか確認するため。『げえ、気持ち悪い。もしかしてあのことの話をしてるの?』というのが娘の反応でした」と書いた。

米NBCテレビのトレイシー・ポッツ記者はツイッターで、「いつもは討論会を子供と一緒に観るが、今日は違う。良かった。トランプの『男ぶり』について子供たちに説明したくないので」と書いた。

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Image caption 最初の共和討論会でトランプ氏と激しく対立したフォックス・ニュースのメギン・ケリー氏(中央)

3日夜の討論会を待つまでもなく、あまりに低レベルな悪口が飛び交い展開が予測しにくい今回の大統領選で、政治討論会を幼い子供に見せていいものか、そもそも政治報道そのものを見せていいものか、多くの親が迷い始めている。

候補者たちが罵倒語をさかんに使い始めているというだけでなく、討論会で厳しく追及されたトランプ氏がフォックスのアンカー、メギン・ケリー氏について「あそこらへんから血が出てる」と述べた場面もあった。トランプ氏が、先天性の筋肉障害のある記者の真似をしてからかったように見えたこともあった。共和党候補たちが互いに、誰が汗をかきすぎるとか、誰がズボンを濡らしたかなどとなじりあう場面もあった。

ハーバード・メディカル・スクールの助教授で児童精神医学が専門のスティーブン・シュロツマン氏は、「討論会を子供たちと一緒に観ていいものか、安心していられるか、わざわざ考えたのは初めてかもしれない。こんなことは覚えがない」と話す。「大統領候補がなぜたったいま、自分の性器の大きさについて発言したのか、10歳の子供にどう説明したらよいのか。使えるテンプレートがない」。

シュロツマン助教授は、子供たちは小学校に入ると同時に、選挙というものの基本的な概念は理解するようになるという。校内のどこかには大統領の写真があるし、教師たちが廊下で時事の話題について会話しているのを耳にするからだ。

政治イベントはテレビで子供と一緒に観るのがいいというのがシュロツマン氏の持論だが、今回の大統領選は今までにない問題があり、悩ましいという。討論会の参加者たちは往々にして、他人への礼儀や正しい意見主張の仕方について子供たちに教えようとすることの、正反対の振る舞いをしているからだ。

「実際に親としてあえて言わなくてはならないこともある。『この政治家の言うことに賛成か反対かでさえない』と。いい年をした大人が、あるいは大人でなくても人間が、他人に異を唱える時に、こんな言い方をしてはならないと、親として言わなくてはならない」

一方で、児童心理学者で子供の発達に関する著作が6冊あるラリー・カトナーさんは、幼児への影響はそれほど心配していないし、むしろ一連の討論会は10代の子供への教材として使えるという意見だ。

「10代の子供は、他人にだまされたり、いいように操らされたりすることにとても敏感だ。討論会を子供が観ているなら、一緒に観るといい。そして『ほら、聞かれたのことに答えなかったの、気が付いた? 代わりに感情に訴えかけてきたよ』などと指摘するのがお勧めだ。子供の感情的な成熟を助ける」

他方で、ニューヨークのアラブ系米国人協会のリンダ・サルスールさんがあるとき帰宅すると、「パレスチナ自治政府はテロリズムと密接につながり、ユダヤ人殺害は素晴らしいことだと幼い子供に教えている」というルビオ議員の発言を11歳の娘が耳にしたところだった。

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Image caption リンダ・サルスールさんはムスリムの保護者たちに、討論会を子供に見せないよう促している

「そんなことが言われていると知って、(子供たちは)傷ついています」とサルスールさんは言う。「誰のことを指しているのか分からない、もしかしたら自分のことかと脅えています。『この中の誰かが大統領になったらどうなるの? うちはどうするの?』と子供たちに聞かれます」。

サルスールさんは、パレスチナ移民二世のサルスールさんは、自分の子供たちに大統領選討論会を見せないようにしているし、フェイスブックで他のムスリムの親たちにも子供に討論会を観せないよう、観るなら一緒に観るよう勧めている。

シュロツマン助教授は、サルスールさんが子供たちだけで討論会を見せないようにするのはおそらく賢明だろうと同意する。そして一般的に、選挙報道は内容を親が事前にチェックしてから一緒に観るのがいいと言う。何より最悪なのは、選挙報道を一緒に観ていて親が脅える姿を子供に見せてしまうことだと。

「親は自分がパニックする様子をできる限り子供には見せないようにしなくてはならない。子供はたちまち気づくので。まだその時期ではないと私は思う。子供には『怖いのは分かる。そうだと思う。でも自分が怖いと思ったら必ず教えるから』と言っておくといい」

家庭内で討論会の視聴を禁止するだけではだめだろうとカトナーさんは言う。家で観なくても、学校やソーシャルメディアで知ることになるからだ。

「この話題は触れてはならないものだという印象を子供に与えてはならない。子供はいろいろ尋ねたがるはずだ。どのテーマにせよ、同性愛差別だろうが人種差別だろうが、所得の再配分だろうが、子供には質問する能力を持ってもらいたい。質問することで子供は、こういう複雑な問題にどう接するべきか、その方法論を学んでいくので」

(英語記事 Donald Trump and the 'X-rated' election

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