【米大統領選2016】トランプ氏、変身か ニューヨークで分かったこと色々

アンソニー・ザーチャー北米担当記者

The back of Donald Trump's head as he greets a smiling supporter in Buffalo Image copyright Reuters

ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏は2人とも、ニューヨークを「地元」と呼ぶ。そして19日、ニューヨークは2人を家族のように扱った。

ほかの州では踏んだり蹴ったりの目にも遭ってきたが(特にあのひどいウィスコンシンときたら!)、民主・共和両党で大統領レースの先頭を走る2人が地元に戻ると、おなじみの2人を愛してくれる地元の住民はもろ手を挙げて歓迎した。

「ビッグ・アップル」ことニューヨークの決戦から、主に4つのポイントが浮上した。

1.新生トランプはいけるかもしれない

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ドナルド・トランプ氏は圧勝しなくてはならなかったし、圧勝してみせた。ニューヨーク州の29議会選挙区にはそれぞれ代議員3人ずつが割り当てられており、最終結果はまだ確定していないが、トランプ氏は同州の共和党代議員全95人の大部分を獲得する見通しだ。

トランプ氏がひとつの州で単独過半数を得るのは、今年の予備選が始まって以来2度目に過ぎない。勤労世帯の多いニューヨーク市スタテン・アイランド地区など一部の選挙区では、8割近くを得票した。来週に控える次の予備選は、今回同様トランプ氏にとって有利とされる東部州が続く。2週間前のウィスコンシン州での敗北を受けて相次いだ否定的な報道の数々は、もはや遠い記憶に過ぎない。

しかしもしかするとそれよりも、ここ数日のトランプ氏の変身ぶりの方が大事なのかもしれない。新しいトランプ氏は、今までにない落ち着きと自制ぶりを見せていた。対立候補(およびその配偶者)への罵倒ツイートはすっかり姿をひそめた。代わりに19日夜の勝利演説では、経済についての考え方を力説し、自分が代議員の数でも有権者の得票数でもリードしていることを強調。自動的に候補指名される過半数の代議員1237人を獲得できなかったとしても、党の候補になるべきは自分だという主張の下地を築いていった。

しばらく有為転変を繰り返したトランプ氏の選挙戦だが、このほど選挙対策のベテランを数人、陣営に招き入れた。トランプ氏の様子が変わったのは、その選対人事の影響だとするなら、他候補にとって今後もしかすると今まで以上に手ごわいライバルになるのかもしれない。トランプ氏は今後、投票所の有権者だけでなく、党候補としての適性を極めて疑っている党関係者をも説得しなくてはならないからだ。

勝利演説の中でトランプ氏は、「明日からまた仕事だ」と述べた。とてもトランプ氏らしからぬ物言いで、対立候補たちはかなり気にするべき発言だ。


2. ハンドルを握っているのはヒラリー・クリントン

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バーニー・サンダース氏はニューヨークで激闘を繰り広げた。いかにこのニューヨーク州予備選が重要な分水嶺かの表れだった。州内のテレビ広告に使った費用は、クリントン氏の300万ドルに対して700万ドルに上った。巨大規模の支援者集会を繰り返し開き、今月半ばのマンハッタンでの集会には実に2万人以上を集めた。

それでも足りなかった。

バーモント州選出のサンダース上院議員はニューヨーク州予備選に至るまで5連勝していたのだが、ニューヨークが深刻な難関となった理由はいくつかある。秘密投票の予備選で、投票するための党員登録要件は煩雑だった。これまでサンダース氏を支持してきた浮動層がこのせいで投票できなかった可能性は高い。クリントン氏はニューヨーク州選出の上院議員を7年間務めただけに、地元との関係は深い。そして同州の民主党支持者にはマイノリティが4割と多い。ブルックリン生まれのサンダース氏が、なかなか支持を獲得できずにいる有権者層だ。

そうこうした言い訳はともかくとして、サンダース氏がいかに残る19州の指名レースで巻き返すにしても、もはや追いつきがたいほどの差をつけられつつあるというのが現実だ。残る予備選のほとんどすべてで2ケタ差をつけて勝たなくてはならない。代議員の多いペンシルベニア州の予備選は来週、カリフォルニア州は6月だが、すでにペンシルベニア州の世論調査ではクリントン氏に後れを取っている。

「民主党の指名獲得レースは最終コーナーを回り、勝利が見えてきた」とクリントン氏は勝利演説で述べた。

サンダース氏は19日夜、バーモント州の自宅に戻り、1日休憩すると発表した。予備選の最後まで戦い続ける資金と選対の組織力はある。しかし代議員数の計算がつきつける事実は、実に冷徹で厳しいものだ。


3. 民主党は言うほど割れていない

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クリントン氏とサンダース氏の戦いはここしばらく、お互いに相手の判断力や展望を攻撃しあう苦々しいものと化していた。しかしこの舌戦は、特に民主党を痛めつけてはいないのかもしれない。

ニューヨーク州民主党予備選の出口調査によると、仮にクリントン氏が候補となったら支持しないと答えた人は13%に過ぎなかった。2008年にオバマ氏を支持しないと答えたクリントン支持者よりははるかに少ないし、その人たちも結局はオバマ氏を支持したのだ。

一方の共和党は対照的で、トランプ氏が候補になったら支持しないと答えた共和党支持者は26%に上った。

もちろん民主党支持者の間にも、鮮明な分断はまだ残っている。出口調査によると、18~29歳の有権者の69%がサンダース氏支持だったのに対して、65歳超の実に75%がクリントン氏を支持すると答えた。人種別には、サンダース氏がぎりぎり白人有権者で優勢だが、クリントン氏はヒスパニック票の63%と黒人票の75%を確保している。

激しい予備選は全体として、民主党にはプラスに作用しているようだ。予備選に参加した支持者の68%が、おかげで「党が活性化した」と答えている。

選挙戦の当初はクリントン氏は楽勝で指名されるものとみられていた。しかし、苦労して指名を獲得した方が、最終的には良いのかもしれない。


4. クルーズ氏はつぶされた

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テッド・クルーズ氏が先週、ニューヨークでの選挙活動を中断してカリフォルニア州で支援者集会を開いたのには理由がある。テキサス州選出の上院議員が1カ月以上先のカリフォルニア州予備選で健闘するチャンスはあるが、トランプ氏と戦える唯一の対抗馬としての前途は多難なものになるだろう。

クルーズ氏はニューヨークで惨敗し、トランプ氏とジョン・ケーシック・オハイオ州知事に遠く及ばない3位だった。なぜそこまで大敗したのか。選挙戦初期に「ニューヨークの価値観」という表現を、トランプ氏への罵倒として使ったことが一因ではあるかもしれない。しかしその一方で、北東各州の共和党支持者たちはただ単純に、テキサス州の上院議員が掲げる説教くさく強硬な保守主義を好まないのかもしれない。

来週から予備選が相次ぐペンシルベニア、メリーランド、デラウェア、コネチカット、ロードアイランド各州は、ニューヨークと似たような有権者の構成なだけに、クルーズ陣営は警戒する必要がある。

選挙戦がその後、西部各州に移った時点でクルーズ氏はまた勝ちを重ねられるかもしれないが、そのころには計算上もはやほぼ確実に敗退が決まっているはずだ。残る望みの綱があるとすれば、7月の党大会で舞台裏の取り引きの末に、指名が自分のところに転がり込んでくるのを待つしかない。

トランプ氏は今後、選挙戦を戦う上で新しいシナリオ通りに動いて、本筋から外れた個人攻撃を止めることができるだろうか。かつそれをしながら、代議員と票の数で圧倒的にリードしている自分を指名しないような手続きを「歪んでいる」と、とことん罵倒し続けられるだろうか。もしトランプ氏にそれができるなら、クルーズ氏にとっては厳しい展開となる。党大会会場でのとっくみあいに向けてどれだけ準備したとしても、トランプ氏の手から候補指名を奪い取るのは、かなり難しいはずだ。

(英語記事 Trump's surprising new style and other New York lessons

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