【米大統領選2016】解説――ドナルド・トランプ氏、ホワイトハウスへの道

アンソニー・ザーチャー、BBC北米担当記者

中西部の工業地帯で勝てばトランプ氏は大統領になれる Image copyright iStock
Image caption 中西部の工業地帯で勝てばトランプ氏は大統領になれる

ドナルド・トランプ氏が5月3日に共和党候補指名を確実にして以来、なぜ秋の本選で大統領になれないのかを説明するため、大量のインクや放送時間が費やされてきた。

いわく、共和党はひどい分裂状態だから。トランプ氏の言動は扇動的すぎるから。共和党支持者は「馬鹿」かもしれないが、一般国民はもっと賢いから。大統領を選ぶ選挙人地図は人口の多い特定の激戦州で勝敗が決まる仕組みになっていて、それは共和党に不利だから――などだ。

激戦州の動向については10日、フロリダ、オハイオ、ペンシルベニアという3つの激戦州で行った世論調査で、両党の最有力候補がまったく伯仲しているという結果が公表された。

この3州がもつ選挙人は合計67人。2008年と2012年はいずれも、民主党のオバマ氏が勝利した。そこに2012年に共和党のミット・ロムニー氏が勝った州を加えると、獲得選挙人の数は273人。大統領になるために必要な270人よりも3人多い。

さらに11日には、トランプ氏の支持率は急増してヒラリー・クリントン氏に肉薄しつつあるという、全国調査の結果が公表された。

こうしたすべてを足し合わせると、民主党が過呼吸に陥るためのレシピができあがる。

でも……でも……でも……と、冷静な人たちは反論する。

ロイター社とイプソス社合同の全国世論調査によると、クリントン氏の支持率41%に対してトランプ氏は40%。未定が19%だった。しかしこれはオンライン調査だった。

激戦州3州でのクイニピアック大学調査は、白人有権者の回答が多すぎた。白人はそもそも、共和党支持者が多いグループだ。加えて、昨年秋の調査結果からそれほど大きな変化はなく、トランプ氏の支持が拡大しているという説の裏付けにはならない。

世論調査はトランプ氏支持拡大を示しているという報道に、世論調査のご意見番のようなネイト・シルバー氏はツイッターで大反論を展開した。世論調査結果をもとに州ごとの選挙人の行方を云々し始めるにはあまりに時期尚早だというシルバー氏は、「選挙ではこれから色々なことがあるのだから」「個々の世論調査結果や短期的な上下に慌てたらだめだ」などと書いた。

しかし世論調査に慌てるのはまさに、米国の政治評論家やコメンテーターのお家芸だ。そして、トランプ氏の支持率がクリントン氏に迫っているという結果から少なくとも、民主党が秋の本選で(得票率6割以上で勝った1964年並みに)圧勝するだろうという初期の予想には疑問符がついてしかるべきだ。

トランプ氏が大統領になる道筋は、あるのだ。

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Image caption 最近のいくつかの世論調査は、本選は激戦になるのではないかと示唆している

道はあっても目的にはたどり着かないかもしれない。たどり着くのが最もあり得る結果ではない。しかし、道筋は確かにある。

トランプ氏勝利の決め手となるのは、いわゆる「ラスト・ベルト」、前述のペンシルベニアやオハイオのほか、ミシガンやウィスコンシンなど工業地帯の各州だ。ヒスパニック人口が急速に増えつつある大票田フロリダ州でクリントン氏が勝ったとしても、トランプ氏が工業地帯の各州をすべて抑えれば、大統領になれる。

トランプ氏もこの戦略をすでに承知している様子だ。

4月にインディアナ州で開いた支援者集会で、トランプ氏はこう言っている。「いろんな人が勝てない、共和党は勝てないというところで勝ってみせる」と。

「最高の例がミシガンだ。誰もミシガンに行かない。我々はミシガンにどっかり居座る。勝てると思うので」

しかし中西部は難関ではある。特にウィスコンシンとミシガン両州は民主党にとって、共和党を食い止める防火壁の役割を果たしてきた。共和党は1988年以来この2州を打ち破れずにいる。

米誌アトランティックのロナルド・ブラウンスタイン氏は、「(ウィスコンシンとミシガン)両州をどう攻略するか、共和党の大統領選戦略担当は絶えず苦心してきた。民主党がこの2州で有利なのはもっぱら、政治的奇跡のおかげだ。民主党は重力に逆らい続けて、白人労働者階級の支持をほんのわずかに他所より多く獲得し続けている」と書く。

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Image caption 現状に不満を持つ白人有権者の支持を中西部でいかに確保するかが、トランプ氏にとって鍵となる

トランプ氏が成功するには、強固に民主党を支持してきたこの中西部の有権者をついに説得しなくてはならない。さもなければ、政治ニュースサイト「RealClearPolitics」のショーン・トレンデ氏が「行方不明の白人有権者」と呼ぶ人たちを奮い立たせるか。

トレンデ氏は2008年と2012年の大統領選を比較して、人口増によって白人有権者が150万人増えたはずにもかかわらず、白人票が全国的に350万票以上も減っていると指摘する。

2012年に投票しなかった白人有権者は主に、労働階級の白人ではないかというのがトレンデ氏の意見だ。白人労働者の多くはたとえば1992年には、自由貿易反対の独立派候補ロス・ペロー氏のような異端派に投票している。

そしてそういう有権者が、今年は共和党予備選に現れ、経済について大衆的な主張を掲げるトランプ氏に票を入れているのだ。

2012年にオバマ氏はおよそ500万票差でロムニー氏を抑えた。もし今年の選挙で、現状に不満を抱く白人有権者がトランプ氏を支持して投票所に再び出向くとしたら、その500万票差はかなり削られる。オバマ氏の時は若者やマイノリティーに圧倒的に支持され、この2つのグループの記録的な投票率を実現したのだが、もしクリントン氏にそれができなかったら、500万票差はさらに縮小する。

もちろん、たくさんの「もし」が重なっている。それに若者やマイノリティーは、特にヒスパニックは、今年も投票所に大挙するかもしれない。トランプ氏に反対票を入れるためだけにでも。すでにカリフォルニア州などでは、ヒスパニック住民の有権者登録が記録的な規模に達していると言われている。

トランプ氏が繰り返す大衆的なレトリックや、批判の多い移民政策が原因で、ホワイトカラー有権者の票がクリントン氏に集中する可能性もある。現状に不満な労働者の票を1票得るごとに、都会周辺の母親や大卒ビジネスマンの票を失うのかもしれない。

トランプ氏寄りに考えて最近の世論調査結果を一時的なものではなく長期的な傾向だと解釈したとしても、来年からホワイトハウスの住むのはクリントン氏という結果に至るシナリオはまだほかにもある。

トランプ氏が勝つには、様々な情勢変化が必要だ。クリントン氏にとっては、大統領選が従来通りに進めばそれはおそらく勝利を意味する。

(英語記事 How Donald Trump captures the White House

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