ハリウッド・スターと数学顧問、男女賃金格差に立ち向かう

ラジニ・バイディヤナタン、BBCニュース、ワシントン

ロビン・ライトさん Image copyright Getty Images
Image caption ロビン・ライトさん

米人気ドラマ「ハウス・オブ・カード」のスター俳優、ロビン・ライトさんは17日、共演スターのケビン・スペイシーさんと同額の報酬を要求していたことを明らかにした。しかし、映画スターではない一般女性が賃金の平等を求めた場合、どういう闘になるのだろう?

「ハウス・オブ・カード」で切れ者のクレア・アンダーウッドを演じるライトさんは、実生活でもまさにそのままだ。

ライトさんはこれまで4シーズンにわたり、策略に長けたマキャベリストを演じてきた。良心の呵責なく野心のために邁進(まいしん)する政治家、フランク・アンダーウッドのパートナーだ。

ライトさんとスペイシーさんは共に、いくつかのエピソードでプロデューサーと演出も兼任した。2人とも同じくらい重要な役割を果たしてきた。しかし報酬はずっと不平等なままだった。

「ケビンと同じ額を払ってほしいと、はっきり言いました。私の状況はまさにうってつけのケースだった。映画やテレビ番組で男性と女性が対等にリーダー役を務めることはめったにないけれど、ハウス・オブ・カードではそれが実現しているので」 米ニューヨークのロックフェラー財団での講演で、ライトさんはこう語った。

ライトさんがデータを調べたところ、自分が演じるクレアの方がスペイシーさんの役より人気が高かった時期もしばらくあった。

「なので、それを活用しました。『払わないと公表するから』と。そうしたら応じてくれたんです」

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Image caption 賃金格差に対抗して戦った経験を語るライトさん

ライトさんがこうして賃金の平等を獲得したことは、注目に値する。成功例は今でも非常に珍しいからだ。

「ライトさんは連続ドラマで人気の高い、重要な役を演じている。交渉に使える影響力があるわけで、活用して成果を得たというわけだ」。米大学女性協会(AAUW)で行政との調整を担当するリサ・マーツ副会長はこう指摘する。AAUWは賃金格差の問題全般について研究を続けている。

「彼女が(番組側に)はっきり要求したのは素晴らしいことだと思う。ただし、だれもが同じようにうまくいくわけではない。同じような賃金差別の例はあまりにも多い」と、マーツ氏は話す。

米政府統計によると、男性に支払われる報酬1ドルにつき、女性が受け取る額は平均79セントにとどまっている。

ホワイトハウスによると、米国の女性が1年間フルタイムで働いた場合の賃金の中央値は約3万9600万ドル(約440万円)。男性の年収中央値5万400ドルの79%にすぎない。

この統計はあらゆる業界にまたがるもので、男女間の賃金格差を説明する際に広く使われている。

カリフォルニア州フレスノのアイリーン・リゾさんも、ライトさんと同じように雇い主に賃金を男性並みにするよう要求した。自分と異なり修士号を持たない新人男性スタッフが、自分より給料が高いと知ったからだ。

リゾさんは4年前からフレスノ郡教育事務局で数学顧問として働いてきた。そこで、新人男性の給料ランキングは最高の「9」だったが、自分は最低の「1」だと知ってしまったのだ。

Image caption アイリーン・リゾさん

人事部に問いただすと、ミスではないと説明された。「私の以前の給料をもとに今の給料を計算しているからだと言われた」という。

リゾさんは2013年に職場を提訴した。対するフレスノ郡は、職員の直前の給料に5%上乗せして給与水準を決めていると反論。経験は考慮しないと説明した。

さらにフレスノ郡は、リゾさんと同じ部局で働く別の女性はもっと高給を得ているし、同じ部局で同じもしくは似た仕事をする男性よりも女性が高給を得るケースは過去25年間で増えていると反論した。

しかし法廷はリゾさんの訴えを支持し、別の女性がリゾさんより高給だからと言ってリゾさんが公平な給与を得られない理由にはならないと判断した。フレスノ郡は控訴し、まだ係争中だ。

提訴して以来、リゾさんは男性職員と同額の賃金を得ているが、過去にさかのぼって同額にするようリゾさんは要求を続けている。カリフォルニア州で同一賃金法を成立させた州議会で証言したこともある。

雇用する側がもっと透明性と公平性のために努力する必要があるとリゾさんは考えている。しかしその一方で、女性の側にももっとできることがあるはずだという。

「もっと交渉上手にならなくては。私は組織が公明正大に動いてくれるものと信じ込んでいた。それが大前提のはずだと、たかをくくっていた」

Image caption リゾさんと家族

「提訴するにしろ、要求して手に入れるにしろ、女性は周りの女性を応援して、まだあからさまなこの問題について社会を教育していかなくては」とリゾさんは言う。

しかし果たしてどの程度の問題なのかについては、さかんに議論されている。

「1ドルにつき79セント」という統計は誤解を招くものだという批判もある。同じ資格や経歴で同じ仕事をしている人同士を比べていないからだ。同一条件で比較した場合にも男女間の賃金格差はある。ただしその差は7%と、かなり少ない。

保守派の政策団体「啓蒙女性ネットワーク」のキャリン・アグネス会長は、「若い女性が卒業後、同じ仕事をする男性の賃金1ドルにつき79セントしかもらえない、どの業種でもそうだというのは、作り事です」と批判する。

「79セント」という数字のせいで、これから就職しようという若い学生たちが自分の職場について誤解させてしまうとアグネスさんは言う。

「女性に被害者意識を植え付けてしまう。自分は女性だというだけで自分は被害者なのだと、若い女性がそう思い込んで働き始めるのは良くない」

Image caption 米国の高賃金職種における男女比(左のえんじ色が女性)、週給中央値(単位ドル)。職種は左から看護師、フィナンシャルマネージャー、コンピュータープログラマー、医学研究者、弁護士、薬剤師。出典:米労働省、米大学女性協会(AAUW)。

AAUWのマーツさんは、どちらの指標も有効だという意見だ。片方は全般的な差を表し、もう片方はその中でも近似条件の場合の差を示す。男女で賃金格差があることはどちらも同じで、どちらも是正しなくてはならないのだと。

この問題についてホワイトハウスの報告書は、「男女賃金格差には多くの原因と要因がある。教育、経験、職種、業種、家族への責任分担などの違いが、そこには含まれる。しかしそうした違いを考慮に入れたとしてもなお、男女の収入には格差が残る」と指摘している。

ヒスパニックや黒人女性の賃金データはさらに大きい格差を示している。業種によっては類似職種でも、激しい賃金のばらつきがあった。類似職種に限定しても、管理職や役員に昇進する女性の賃金格差はさらに広がっていく。

Image caption 管理職・役員レベルの男女賃金格差。類似職の男性と比較した女性の報酬中央値の差(%)。職種は上から社員、マネージャー、部長、役員。

マーツさんにとっては、賃金格差の問題で是正が必要な部分はほかにもある。たとえば、看護師や秘書や教師など女性だというだけで低く見られる、いわゆる「ピンクカラー」職種の増加がそのひとつだ。

しかしロビン・ライトさんの経験は、男女の賃金格差があらゆる職業の女性に問題だと、あらためて浮き彫りにした。ライトさんは自分の経験を知って、他の女性も声をあげてほしいと期待する。

「この社会では、職場は男性が優位。ずっとそうだった。歴史的にそうだったというだけです。でも今となっては、そんなことは受け入れられない。そうならなくては」

(英語記事 Robin Wright: A movie star and a maths expert fight for equal pay

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