トランプ氏にとっての台湾 中国との取引材料か

バーバラ・プレットアッシャー記者

中国・上海の新聞スタンドで(先月14日) Image copyright Getty Images
Image caption 中国・上海の新聞スタンドで(先月14日)

ドナルド・トランプ次期米大統領と中国の台湾をめぐる意見衝突で、トランプ氏の中国政府に対する敵対的な態度にあらためて関心が集まった。

トランプ氏は、台湾の蔡英文総統との電話会談に応じたことで、ほぼ40年来の対中政策を揺るがした。

台湾は中国の一部で独立国ではないとする、「一つの中国」政策を支える外交慣習に対する、前例のない違反だった。

トランプ氏が選挙期間中の約束通り、中国政府との交渉により厳しい態度で臨むのかという懸念も再燃させた。

中国は台湾問題を最も核心的な利益と位置付けている。共産党との内戦に負けた国民党が1949年に台湾に逃れて以来、中国は台湾を、いつかは本土と統一されるべき反抗的な地方だと主張してきた。

1979年、米国はこの中国の考えを受け入れることにし、台湾の政府ではなく、北京の政府を承認すると決めた。以来、「一つの中国」政策は両国関係の基盤を成してきた。


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Image caption ニクソン大統領は共産党政権下の中国を訪問した最初の米大統領となった(写真は、1972年の訪中時に周恩来首相と乾杯するニクソン氏)

電話会談は計画的だったのか

事の重大性に鑑み、中国に詳しい一部の専門家や政治家たちは、場当たり的な外交をしそうなトランプ氏が、理解なく微妙な領域に足を踏み込んでしまったのだと説明している。

米下院情報特別委員会で民主党の最も有力なメンバー、アダム・シフ議員はBBCに対し、電話会談の経緯に関する情報が錯綜していることを挙げて、会談は偶発的に起きたようだと語った。

「背後に戦略のようなものは全くなかったと思う。実は方向性を変える熟慮されたものだというような解釈や説明は、非常に疑わしい」。

政権移行チームの説明は矛盾していた。ペンス次期副大統領は、台湾から当選の祝辞を述べる儀礼的な電話がかかってきただけで、政策には触れられなかったと語り、軽く扱う態度を当初は取っていた。

一方でトランプ氏は、会談後にツイッター上で相次いで出したコメントで、経済や安全保障に関する中国の行動を批判した。電話会談への反省も示さなかったし、一つの中国政策への支持をあらためて表明することもしなかった。

その後、対中国強硬派と親台湾派がトランプ氏の顧問として持つ影響力や、彼らが会談をセットした経緯の詳細について報道が次々と出た。会談を斡旋したのは、台湾がトランプ氏周辺とつながりを得ようと、活動費を払っていたボブ・ドール元上院議員だったと報じられている。

保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のウォルター・ローマン・アジア研究所所長は、「事前に準備された意図的なもので、トランプ氏も何を意味するか理解していたと思う」と述べた。

電話会談の意味

では、何を意味するのか。電話会談それ自体は、政策転換ではない。

一つの中国をめぐる合意は、米国と台湾の指導者の接触を特に禁止していないが、これまでの米大統領たちは中国を怒らせないために、受話器を手に取ることはしなかった。

また1979年の当時から、ワシントンでは台湾の扱いへの批判があったと、ウィルソン・センター・キッシンジャー米中関係研究所のロバート・デイリー所長は指摘する。

台湾と長年にわたる個人的、また時にはビジネス上の関係を持つ人が多い共和党員の間では、特にそうだった。民主主義政権の台湾は北京の政府よりも考え方が近い同盟国に思えた。

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Image caption 2015年の習近平主席の訪米時、公式晩さん会を開いたオバマ大統領

ローマン氏は、トランプ氏の顧問たちが話題にしているのは台湾を国家として承認するかどうかではなく、台湾との関係の正常化で、一つの中国政策を覆すわけではないと語る。

中国政府が同じように考えるかどうかは疑わしい。

中国を罵ってきたトランプ氏

トランプ氏について言えば、対台湾、もしくはより幅広い対中国政策は存在しないし、戦略らしきものも明らかになっていない。

しかし、選挙期間中にトランプ氏は非常に激しい口調で中国を批判した。

大統領候補のトランプ氏は、中国が貿易政策で米国を「レイプ」したと非難し、懲罰的な関税を中国からの輸入品に課すと脅した。

共和党の強硬派は蔡総統との電話会談を、トランプ氏が大統領になっても中国に強い態度で臨む証しだとして歓迎した。

デイナ・ローラバッカー下院議員(カリフォルニア州)はフォックス・ニュースに、電話会談が「彼(トランプ氏)は言いなりになるような人間じゃないと、中国の独裁者たちに分からせた」と述べた。

あるいは、トランプ氏は中国との経済交渉を有利に運ぶための取引材料として、台湾を利用したいのではないかという意見もある。

米シンクタンク「センター・フォー・ア・ニュー・アメリカン・セキュリティー」のパトリック・クローニン氏は、「台湾との接触や支援のレベルを上げ、強化するという考えは、中国を激怒させるだろうが、同時に中国に影響力を行使する材料になる」と述べた。「もし我々が両国関係全般に満足していないなら、これが新しい常態(ニューノーマル)になる可能性がある」。

これまでの中国の反応は抑制されており、電話は蔡総統による「くだらない策略」だとしている。

その一方で、トランプ氏のツイッターでのコメントに対する反応はもっと厳しかった。中国共産党機関紙、人民日報の社説は、「中米関係に問題を起こせば米国自身に問題が起きる」と警告した。

しかし中国政府は、トランプ次期政権と新たな関係を築く外交の余地は残している。

前出のデイリー所長は、次期政権は両国関係を根本的に競争関係と捉えているとみられることから、より対立的な雰囲気への調整期間が長く続くと予想する。

このため、気候変動といった世界的な問題での協力や、北朝鮮による核兵器開発の抑止で、オバマ現大統領が訴えるような協力関係は、より難しくなる可能性がある。

デイリ―氏は、「トランプ氏に台湾についてアドバイスしている人々は(電話会談の)結果に満足しているだろう」と指摘し、「将来、同じようなことがまた起きる可能性が高い」と語った。

トランプ氏は相反するメッセージを送り続けている。電話会談で外交の嵐を起こした数日後には、中国指導部と長年の親交があるテリー・ブランスタッド・アイオワ州知事が駐中国大使に起用されることが明らかになった。

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Image caption 蔡総統は今年5月に就任した

それでも、中国は今後の挑発にさまざまな形で反撃できる。

ユーラシア・グループのメレディス・サンプター氏は、「直接的かつ、おそらく同じくらいの」反撃になるが、「米国のビジネス、商業上の利害を損なうものになるだろう」と指摘する。

経済面では、多くの貿易や投資の成否がかかっている。

安全保障面では、中国政府は南シナ海と北朝鮮に対する経済制裁について、大方同じように態度を硬化させることができる。

また台湾の独立をめぐっては、武力行使の警告は終わっていないので、一番大きな犠牲を払うのは台湾の人々になるかもしれない。

米中関係の試金石の一つになり得るのは、蔡総統が来年1月の中米歴訪で米国を経由するかどうかだ。

台湾総統府は、蔡氏がトランプ氏の政権移行チームと会おうとしているとの報道を否定している。

もう一つは、4月に米財務省が半年に一度出す為替報告書で中国を為替操作国として認定するかどうかだ。トランプ氏は選挙期間に中国を為替操作国に指定すると語っていた。

(英語記事 Is Taiwan a bargaining-chip for Trump on China?

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