土星の衛星に「生命育む環境」 米NASAなど水素分子を確認

ジョナサン・エイモスBBC科学担当編集委員

エンケラドスの南極から放出される水。これらによって探査機の観測が容易になる Image copyright NASA/JPL-Caltech/SSI
Image caption エンケラドスの南極から放出される水。探査機はこの中を通過することで地下の様子を容易に観測できる

土星の衛星エンケラドスから噴出する水に、微生物のエネルギー源になる水素分子が含まれていることが分かった。もしかするとこの衛星こそ、地球以外で生命を見つけるための有力候補なのかもしれない。

無人探査機カッシーニが、直径500キロの衛星エンケラドスの地下海から宇宙に吹き出す水を観測した。

カッシーニの観測結果を化学分析したところ、エンケラドスの海底には、熱水噴出孔が存在する可能性が高いと分かった。地球ではこうした噴出孔には、生物が大量にいる。

ただし、熱水系が存在するからと言って、この小さな衛星に生物がいると保証されたわけではない。全く無生物だという可能性も、依然としてある。しかし、今回の研究成果によって、より高度な機器と共にこの月を再訪すべき理由ができた。生物の明確な証拠を見つけるため、より高度な技術で噴出水をあらためて観測すべきだ。

米テキサス州サンアントニオにあるサウスウェスト研究所のカッシーニ担当、ハンター・ウェイト博士はBBCに対し、「エンケラドスの地下海で命は存在可能なはずだ。その点については、かなり確信しているし、再度あの場所でさらに調査する必要がある」と語った。

「もし生命がいない、それはなぜか。生命がいる方が良いけれども。もし生命がいないならいないで、それは気になる。あの状況で生命が見つからないのも同じくらい興味深いので」

Image copyright WHOI/NSF/NASA
Image caption 地球では熱水噴出孔の近くに存在する微生物が、より複雑な生物の生育を助けている

衛星エンケラドスの地下海は深さ数キロに及ぶと考えられている。巨大な土星の引力によって圧力が常時かかっているために地中に熱が発生し、その熱で水は液状を保っていると考えられる。

既にカッシーニの探査では、噴出水からナトリウムやシリカを検出。これは、衛星の膨大な水と岩盤が作用しあっている証拠となっている。

しかし、科学者たちが何よりも確認したいのは、蛇紋石化作用と呼ばれる地球上と同じ現象が起きているのかどうかだ。

地球の海底にある海嶺では、鉄やマグネシウムを豊富に含む岩石が噴出している。岩石のミネラルが水分子を取り込む過程で、水素が副産物として放出される。一部の微生物はこの水素をエネルギー源に、代謝を行っている。

カッシーニは今回、エンケラドスからの噴出に水素が含まれていると突き止めた。

カッシーニ探査を主導する米航空宇宙局(NASA)のクリス・マッケイ博士は、「微生物にとっては水素はキャンディーみたいなもの。大好物だ」と説明する。

「とても良質なエネルギーだ。微生物の繁栄を助けることができる。水素の発見は大きな前進だ。生命の居住可能性議論において、不可欠な要素ではないが、とても面白い要素だ」。

マッケイ博士がここで挙げている微生物はメタン細菌とよばれるもので、水素と二酸化炭素を反応させてメタンを作り出す。

Image copyright Source: NASA
Image caption 想定されるエンケラドスの構造。氷の表面(Ice crust)の下に海(Global ocean)があり、その水が宇宙に噴出(Water jets)している

NASAは当初、2015年10月にカッシーニ探査が最後にエンケラドスの噴出水を通り抜けた数カ月後には、水素の確認を発表する予定だったが、延期していた。

探査機に搭載されたイオン中性質量分析計の内部に、特殊な形で水が入った場合、分析計自体が水素分子を独自に作ってしまうかもしれないというのが、懸念のひとつだった。

ウェイト博士のチームは入手データを1年かけて分析し、水素分子が確かに噴出水から検出されたもので、計器の作用で生成されたものでないと確認した。水素分子が検出された理由としては、蛇紋石化作用が最有力だが、非常に原始的な隕石に熱を加えるとガスが発生する可能性もある。

カッシーニの探査はもうすぐ終わりを迎える。土星を12年間周回していた探査機の燃料は尽きつつあり、9月には土星の大気に突入させる予定。エンケラドスに衝突して汚染させる可能性をなくすためだ。

Image copyright NASA/JPL-Caltech/SETI Institute
Image caption Europa holds a vast, salty ocean beneath its fractured ice shell

カッシーニには高度な技術を使った機器が搭載されているが、白く輝くエンケラドスで生命を見つけるために設計されたものではない。そのためには全く別種類の計測器が必要だ。現在、2026年に新たな探査機を飛ばす提案がされている。

NASAは既に木星の衛星エウロパの探査にゴーサインを出している。エウロパでも、蛇紋石化作用の可能性は高いとみられているが、表面を覆う氷がずっと厚いため、宇宙に放出される水は非常に少ないかもしれない。

エンケラドスの場合、多数の噴出孔から物質が宇宙に放出されているため、地下の調査がきわめて容易なのが利点だ。探査機は放出物質の中を通過するだけで調査ができる。

研究に参加する英国のアンドリュー・コーツ博士は、「カッシーニ計画によって、太陽系内の地球外生命探査において、エンケラドスの重要性が高まった」と話す。

「生命が存在するかもしれない候補のトップ3は、今では同点1位だと私は思う。火星は38億年前、今とはかなり異なる条件下で生命が存在していたかもしれない。地表の下に海があるエウロパ、そして今回のエンケラドス。この3つの天体には生命に適した環境がある、もしくはあった可能性がある」

ウェイト博士はさらに、「生命には、液状の水や有機物、そしてCHNOPS(炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄)が必要だ。確かに、エンケラドスではまだリンと硫黄が観測されていない。けれども同時に、何らかの代謝エネルギー源が必要で、カッシーニによる新発見はその点において重要な貢献だ」と述べた。

今回の研究成果は14日付のサイエンス誌で発表された。

Image copyright Cassini Imaging Team/SSI/JPL/ESA/NASA
Image caption カッシーニは土星の大気に突入して任務を終える

(英語記事 Saturn moon 'able to support life'

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