北朝鮮、観光はどうなる 米大学生死亡

アンドレアス・イルマー、BBCニュース

北朝鮮観光は厳しい目にさらされている Image copyright Reuters
Image caption 北朝鮮観光は厳しい目にさらされている

北朝鮮への観光旅行は、同じ観光でも他人とは違う場所に行きたがる人にとってかねてから、ニッチな冒険だった。

さらに北朝鮮と交流するには、数少ない選択肢の一つでもあった。

しかし米大学生オットー・ワームビアさん(22)の死を受けて、観光を検討している人たちは今一度考え直しているかもしれない。世界で最も秘密主義的な国への旅行は、物珍しさ目当てに行く甲斐が本当にあるのかどうか。

ワームビアさんは、政治宣伝看板を盗もうとした罪で有罪となり、昏睡(こんすい)状態で米国に帰国した1週間後、そのまま死亡した。

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Image caption 北朝鮮で観光中のワームビアさん(写真右)

インターネット上の観光専門掲示板では、北朝鮮観光について実に意見が割れている。とても行ってみたいという人もいれば、行くべきでないと非難する人もいる。

観光に反対する人たちがなぜ反対するのか、理由は様々だ。安全への懸念から反対する人もいれば、そもそも「残酷な政権を資金援」することになると非難する人もいる。団体旅行をボイコットするよう呼びかける人もいる。

それでも行きたいと言う人たちは、北朝鮮が「奇妙」な目的地だから魅力を感じていて、ルールをしっかり守っていれば安全だと指摘する。

「魔法のような国」

北朝鮮観光を売り出している旅行会社はだいたいにおいて、北朝鮮の特殊性をセールスポイントにしている。

「世界からひきこもった魔法のような国」、「残り少ない手つかずの場所」、「非現実的な一生の経験ができる」――などなどと。

危険性への懸念については、各社もちろん承知している。ほとんどの旅行会社は、危険性の問題にはっきり答え、北朝鮮は安全な場所だと口を揃えて強調している。

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Image caption 観光客は特に北朝鮮の行進や祝賀行事を見たがる

しかしワームビアさんの死を受けて、BBCが取材を申し込んだ旅行会社のほとんどは断ってきた。メディア向けに発表した文書を参照してほしいというだけで、それ以上の情報は提供しかねるという反応だった。各社とも、自分たちの事業にとって大問題になりかねない事態に直面しているのだ。

ワームビアさんは英国人のギャレス・ジョンソン氏が2008年に設立した、中国拠点の「ヤング・パイオニア・ツアーズ」社で北朝鮮旅行を予約した。

この代理店は主に北朝鮮観光を専門とするものの、チェルノブイリ立ち入り禁止区域など、同様に「人がめったに行かない」場所への観光も提供。「#darktourism(ダークツーリズム)」のハッシュタグで宣伝している。

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Image caption 「ヤング・パイオニア・ツアーズ」は「一風変わった週末の息抜きはいかが?」と、チェルノブイリの廃墟でガスマスクを着けた人形の写真をツイート

「ヤング・パイオニア」は声明で、ワームビアさんの家族に対し「心からのお悔やみ」を伝えると同時に、「ワームビアさん拘束への対応は恐ろしいものだった」と書いた。

ウェブサイト「nknews.org」とのインタビューで同社は、用心すれば今でも北朝鮮観光は安全だと信じていると話している。またワームビアさんのように観光客が逮捕されたのは過去10年で初めてで、これまで観光客8000人以上を北朝鮮に連れて行ったと説明した。

ベルリンに拠点を置く「ピョンヤン・トラベル」のアンドレ・ビティッヒ氏も、北朝鮮は安全な場所だと賛成する。

「これまで少しでも難しい状況に置かれたことは一度もない」と、ビティッヒ氏はBBCに対して話した。

ビティッヒ氏はさらに、ワームビアさんの死は二度と繰り返してはならない恐ろしい悲劇だと強調しつつも、観光客の増加傾向に水を差すようなことはないだろうと話した。

米国人の観光は終わり?

ヤング・パイオニア・ツアーズは声明で、米国人の北朝鮮へのツアーはもう運営しないと発表した。

北朝鮮ツアーを運営する他の旅行代理店も同様の声明を出し、米国人のツアー参加を今後も受け付けるか、検討すると発表した。

一般的に、米国人による北朝鮮への旅行は合法だが、米国務省は国民に対し、北朝鮮を訪問しないよう警告し、同国への訪問を完全に禁止することを検討している。

レックス・ティラーソン国務長官はこれについて、「北朝鮮への渡航査証に何らかの制限をかけるべきか精査している」と表明した。「最終的な結論には至っていないが、検討中だ」。

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Image caption 息子を亡くしたフレッド・ワームビアさんは北朝鮮ツアーを運営する旅行会社を厳しく批判した

オットー・ワームビアさんの父フレッドさんは、米国人を北朝鮮へ「誘い込む」旅行会社を厳しく批判。各社は「北朝鮮にえさを与えている」に等しく、「自分の息子はその北朝鮮のえさになった」のだと非難した。

高まる緊張

北朝鮮への観光は依然としてニッチなものだが、ここ数年の間、北朝鮮に安定した収入をもたらしてきた。

正確な数字は非常に入手しづらく信用もできないが、この1年で約10万人の外国人が訪れたと考えられている。ただしその大多数は中国人で、中国人以外の観光客は毎年約8000人から1万人と推定される。

首都・平壌とその周辺を回る一般的なツアーの他に、地上最後のスターリン主義独裁国家の奇妙な面だけを取り上げるのではない、より「普通の」観光を提供するツアーも増えている。人里離れた砂浜でのサーフィンから、山間の新しいリゾートでスキーを提供するものもある。

しかし、ワームビアさんの逮捕と死去は、ただでさえ北朝鮮と米国の緊張が高まるなかで起きた。両国間の緊張はさらに高まるだろう。

北朝鮮による核弾頭開発と一連のロケット発射実験を受けて、米国は北朝鮮を最優先課題に位置付け、同盟国に圧力をかけるよう中国に働きかけている。

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Image caption 北朝鮮の軍事パレード(4月15日)

観光業はもちろん、不安定な情勢の影響を受けずにはいられない。

ビティッヒ氏は、「米国と北朝鮮の緊張が高まる時は決まって、予約に影響が出る。明らかにみんな、不安に思っている」と説明する。

「トランプ政権が北朝鮮への軍事攻撃の可能性も辞さないと、発言の調子を強めて以降、当然ながら誰もが北朝鮮旅行の予約を前よりためらって、心配している」

朝鮮半島の緊張悪化によって、北朝鮮政府が外交駆け引きの駒として使うため、観光客を手当たり次第に逮捕するのではないかと、懸念が高まっている。その場合、当然ながら一番狙われるのは米国人だ。

北朝鮮には現在、ビジネスマン一人と平壌の大学に勤務していた教員二人の、合計3人の米国人が拘束されている。


「この状況では戻りたくない」

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米ロサンゼルス在住のメガン・ラシーナさん(28)は今年4月、平壌マラソンを走った。しかし、今ならばそうはしないはずだと話す。BBCのケビン・ポナイア記者が話を聞いた。以下は、本人談話。

出発前に友達には、「もし拘束されたら一生をかけて私を解放してね」とお願いしました。当時は冗談でしたが、今となっては色々な話が聞こえてきます。

米国人としてどのように扱われるか心配でした。でも北朝鮮側は、何をしてよくて、何をしてはいけないか、とても明確に伝えてきます。

みんなとても親切でした。会った人たちは内気で控えめでしたが、無愛想ではなかった。

当時拘束されていたオットーさんが、ホテルのスタッフ以外立ち入り禁止の階で宣伝看板を取ったのだと聞きました。とても居心地が良いホテルなので、自分が今どこにいるのか忘れてしまうのも理解できます。

マラソンの最中、スタジアムは約5万人で満員でした。席を埋めるように命令された人たちだと、誰かに聞かされました。

行く前は、北朝鮮に行くべきか、色々な人から色々な意見を聞かされました。でも私は北朝鮮とそこに住む人たちについて、画一的で偏った考えを持ちたくなかったんです。一番の思い出はマラソンです。北朝鮮の人と交流できました。ハイタッチしたり、声援を送ってくれました。

北朝鮮に行って色々経験できたのはよかったけれど、もし予定が来週だったら、行かなかったはずです。この状況で、そしてワームビアさんに起きたことの後で行くのは、考えられません。


(英語記事 Warmbier death: Will people still travel to North Korea?

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