女性50人以上が髪の毛を奪われ……インドで不安広がる

髪を奪われたスニータ ・デビさん
Image caption 髪を奪われたスニータ ・デビさん

インド北部のハリヤナ州とラジャスタン州で50人以上の女性が、意識を失っている間に何者かに髪の毛を切りとられたと訴えている。警察の捜査が難航するなか、女性たちは不安を募らせている。BBCのビカス・パンディ記者が報告する。

「いきなりの鋭い光で意識を失い、1時間後に自分の髪の毛が切られているのに気づいた」。ハリヤナ州グルガオン地区ビムガル ・ケリ地域に住む主婦のスニータ・デビさん(53)はこう言う。

先月28日のこの「襲撃」が、スニータさんにとってトラウマとなった。

「眠れないし、何にも集中できない。ラジャスタンで同じようなことがあったとは読んでいたけど、まさか自分の身に起こるとは思ってなかった」

「幻の理髪師」の出没が最初に報告されるようになったのは、ラジャスタン州。7月初旬のことだった。しかしその後は、同様の事件がハリヤナ州やデリーでも多く報告されるようになった。

スニータさんは、住民同士のつながりが強い商人や農民のコミュニティーに暮らす。彼女がショックから抜け出すまで、交代で一緒にいてくれる近所の人たちもいる。

自分を襲ったのは「明るい色の服を着た」年配の男性だったとスニータさんは言う。

「家の1階に一人でいて、義理の娘と孫が上の階にいる時、午後9時30分頃に襲われた」

家族は何も気づかなかったという。

Image caption ムネシュ・デビさん。近所の人は脅えていると話す

他に誰か襲撃犯を見た人はいるかと尋ねると、謎は深まるばかりだ。

スニータさんの近所に住むムネシュ・デビさんによると、民家約20棟が立ち並ぶ狭い路地は、午後9時から10時の間はにぎわっているのが普通だ。

「夕食を終えた人たちが集まって、お喋りしたりのんびりしたりして過ごしている。当日も普段と同じだったのに、見知らぬ人がスニータの家に出入りするところを、誰も見ていない」とムネシュさんは言う。

しかも、それでおしまいにはならなかった。

翌日には、すぐ近くで主婦のアシャ・デビさんが同じように襲われ、髪の毛を切り取られた。

だがこの時の襲撃犯は女性らしかった。

アシャさんの義父スラジ・パルさんは、事件後にアシャさんをはじめ一族の女性を北部ウッタルプラデシュ州の親類の家に行かせたと話す。

「事件のせいであまりに神経質になっていたので、しばらくここを離れるようにと指示した。この辺の住民は脅えている」

アシャさんが午後10時頃に家事を済ませるため外に出た時、パルさんは家にいたと話す。

「30分以上たっても戻って来なかったので、外に探しに出た。すると、浴室で意識を失っているのを見つけて。髪の毛が切られて床に落ちていた」

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Image caption デリーでも襲撃が相次いでいる。写真は、デリー郊外のカンガンヘリ村で髪の毛を切り取られた50歳女性を調べる、インドの鑑識捜査員たち(1日)

パルさんによると、アシャさんは1時間後に意識を取り戻し、女に襲われたと話した。10秒以内のことだったという。

同様の事件がグルガオンから約70キロ離れたレワリ地区の農村地帯でも起きている。

  • ジョナワサ村のリーナ・デビさん(28)は先月27日に襲われたと話す。この時の犯人は猫のようだ。「家事をしている時に猫に似た大きな姿を見た。そしたら誰かが私の肩を触るのを感じた。覚えているのは、それが最後」だとリーナさんは言う。リーナさんも「信じがたい話」だと分かっている。「あり得ない話に聞こえるのは分かっている。でも実際にそれを見た。自分で髪の毛を切ったのではという人もいるけど、どうして私がそんなことをするんですか」。
  • 近くのカルカッラ村に住むスンダル・デビさん(60)は先月29日に襲われて以来、寝たきりの状態だ。スンダルさんは、「近所の人の家に行く途中で、後ろから誰かに肩を叩かれた。振り返ると、誰もいなかった。それが最後に覚えていること」と振り返る。
  • リーマ・デビさん(28)は先月27日、携帯電話でゲームをしている時に髪の毛を切られた。「夫も子供たちも同じ部屋にいた。髪の毛を引っ張られた感じがして、振り返ると、髪の毛が床に落ちていた」。

「集団ヒステリー」

グルガオン警察のラビンダ・クマル報道官は、通報内容は捜査中だと話す。

「異様な事件だ。犯行現場では何の手がかりも見つかっていないし、被害者を診察しても何も異常はない」

犯人らしき人物の目撃者もいないという。

複数地区の警察が協力して、一連の事件を「何かしら解明」しようとしているとクマル報道官は言う。

「被害者たちだけが犯人を見たか、感じたと言っている。我々は真相を解明するが、それまでは噂を信じないよう市民に強く求める」

Image caption スンダル・デビさん(60)は7月29日に襲われて以来、寝たきりだ
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Image caption デリーの一部地域の女性たちは、髪の毛を守るお守り入りの髪留めを使い始めている。写真は、ヒンズー教のシバ神の絵を髪につけた少女(1日、デリー郊外)

そして噂は尽きない。

村から村へと移動するにつれ、一連の襲撃に対する様々な説を聞いた。

一つの村では年配の男性が、犯罪組織が関与しているのだと話していた。別の人は、タントラ教に関わるいわゆる呪術医が、背後にいると思うと話した。今のような状況になれば、おはらい治療をしてもらおうという人が増えるからと。

「超自然的な力」が働いていると力説する女性もいた。別の人たちは、「被害者たち」が注目を集めるために自分の髪の毛を切り取ったに違いないと非難した。

作家で理性主義者のサナル・エダマルク氏はBBCに対し、一連の事件は典型的な「集団ヒステリー」の例だと考えていると話した。

作家で理性主義者のサナル・エダマルク氏はBBCに対し、一連の事件は典型的な「集団ヒステリー」の一例だと思うと話した。

「奇跡や超自然的な力が原因ではない。被害を通報した女性たちは、何らかの心理的な葛藤を抱えているに違いない」

「こういう事件の話を聞くと、つい同じような話をしてしまうのでしょう。場合によっては、無意識に」

だが、リーナ・デビさんは同意しない。

「何年もかけて伸ばした髪で、長い髪が好きだった。それがなくなってしまって、私がどれだけ辛い思いをしているか、わかりっこない。女性が自分で髪を切り落としただなんて、ばかげてる」


インドの集団ヒステリーの事例

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  • 1990年代半ばには世界中のヒンズー教徒数百万人が、牛乳を「飲む」デリーの聖像に夢中になった。1995年9月21日早朝、ゾウ頭の神様ガネーシャが、スプーンから牛乳を少しずつ飲んだとの噂が国中に広がった。神様に食事や牛乳等の飲み物をお供えすることは、ヒンズー教の儀式では重要な行為。
  • 2001年、「サル人間」がデリーで数百人もの人を襲ったとの情報があった。その後、これが集団ヒステリーだったと報告書で示唆された。
  • 2006年には、海水が甘くなる奇跡が起きたと噂が広がり、数千人がムンバイの人気ビーチに押しかけた。

(英語記事 Hair thieves striking fear in India

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