スキャンダル相次ぐ日本の角界――何が起きているのか

レベッカ・シールズ記者、BBCニュース

引退を表明した横綱日馬富士(写真は2014年撮影) Image copyright Keith Tsuji/Getty Images
Image caption 引退を表明した横綱日馬富士(写真は2014年撮影)

強烈なカメラのフラッシュを浴びながら、1人の力士が決然として立ち、目を潤ませながら即時引退を表明した。

「心から深くお詫び申し上げます」とこの力士は30秒近く深々と頭を下げて話した。

日馬富士は22日まで「横綱」と呼ばれる、最も強い力士の一人だった。日馬富士は10月25日、宴席で年下の力士に暴行を加え、頭部を骨折させたとされる。メディアは何週間も暴力事件を大々的に報じ、警察の捜査も行われた。

事件は日本古来の国技に暗い影を落としている。そして、それは決して今回が初めてではない。10年前、17歳の序ノ口力士が複数の兄弟子からビール瓶や野球のバットで暴行を受けた後に死亡し、相撲の評判は地に落ちた。

2010年には、暴力団を胴元とする野球賭博に力士や親方が関わっていると発覚し、角界はさらに打撃を受けた。同年、日馬富士と同じモンゴル出身で先輩の朝青龍が泥酔して、東京のナイトクラブの外の路上で一般人を殴ったとされる事件が明らかになり、引退した。

その後、十両の力士らが八百長に関与した証拠が明るみに出た。

これは相撲の生まれた国、日本で相撲が衰退しており、相撲においてかつて非常に重要だった規律が失われた徴なのか。それともただ、1500年の歴史の後、ようやく暗部が明るみに出たということなのか。

「モンゴル人たちがやって来る!」

この質問に答えるには、力士たちの出身地と猛烈に厳しい稽古を見てみると、分かりやすい。

相撲は1500年~2000年前に日本で神社の儀式として行われたことに始まるが、日本人力士はもはや圧倒的に強いわけではない。今週の引退劇が起こるまで、4人の横綱がいたが、そのうち3人は日馬富士を含め、モンゴル人だった。

東欧やロシア、ハワイ、サモアから日本の相撲「部屋」に有望な力士がやって来る。相撲部屋は実質的に男性の寄宿舎で、「相撲部屋の師匠」がぶっきらぼうな10代の若者たちに、かつて皇室をも魅了した技を仕込む。

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Image caption 今年の正月に東京・明治神宮で土俵入りを披露する日馬富士

日出づる国の日本で相撲はただのスポーツではない。伝統に根差した過去、そして日本人とは何かを垣間見ることができる儀式だ。厳格な儀礼に基づいて行動規範が決められ、海外出身であることは、手を抜く言い訳にはならない。

全ての力士は人前で伝統的な服を着て、侍のようにまげを結わねばならない。力士は取組で勝っても負けても同じように、感情を表に出してはいけない。謙虚さを持ち、穏やかに話す、「品格」のある振る舞いを求められる。そのような存在であるため、力士たちが通りを歩いていると、一般人がお辞儀をするほどだ。

非常に保守的な日本相撲協会の規定により、45カ所の相撲部屋ではそれぞれ常時、外国人を一人だけ入れることができる。

相撲部屋に入る多くの外国人はわずか15歳で、最年長でも23歳だ。それから、食事も、話し方も、戦い方も、服装も何でも日本人のように振舞う。

料理と掃除をして、朝は何も食べない

「基礎訓練中のかなり下っ端の兵士のようだ」と英字紙ジャパン・タイムズの元コメンテータ―兼コラムニストで、相撲専門家のマーク・バクトン氏は話す。

「だから、力士たちは料理や掃除、ジャガイモの皮むきまでやっている。それにみんな日本語を学ぶ。みんなやる」

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Image caption タンパク質が豊富に含まれるちゃんこ鍋をよそう力士

相撲部屋には厳しい上下関係があり、元力士の親方がその頂点に立っている。

バクトン氏はBBCに対し、「サッカーみたいに、マンチェスターユナイテッドから別のチームに移籍できるといったものじゃない。ずっと同じ相撲部屋に所属する。相撲部屋を出るには、相撲を辞めるしかない」と話した。

全ての力士が髪の毛を背中の真ん中あたりまで伸ばす。それで、相撲部屋の住み込みの理容師が髷を結うことができる。髪は週に1、2回しか洗わず、鬢付け油(びんつけあぶら)で髪の毛を整える。力士が歩く所には、甘い香りが漂う。

食事は野菜と一緒に肉がたくさん入った鍋であることが多く、稽古と同じように厳しく統制されている。稽古では、若者たちが何時間も土俵の上で、大柄な男たちを押し出そうと励んでいる。

「力士はかなり食べる」とバクトン氏は語る。「でも彼らがやっていることで重要なのは、

食べ終わるとすぐに寝ることだ。朝は何も食べない。午前中に全ての稽古をやって、昼食を食べる。普通の人が食べるようなものか、それよりちょっと多いくらいの量だ。でも、それを山盛りのご飯と一緒に食べる。それから大事なのは、その後に寝ること。午後の中頃まで起きない」。

「それからまた夜に食べる。いっぱい食べる。その後、夜はかなり早く寝る。朝5、6時に起きて、稽古をするためだ」

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Image caption 稽古中の力士たち

バクトン氏は厳しい稽古をした方が良い力士が生まれるかとの質問に対し、「絶対そうだ。間違いない」と答えた。

給料はなく、恋人と携帯電話は禁止

大相撲では年に6回、プロの力士たちによるトーナメント戦が行われ、全て日本で開催される。昇進し、番付を上げるには勝ち越す必要がある。相手力士を土俵から押し出すか、相手の足以外が地面につくと、勝ちとなる。

大相撲には6つのリーグがあり約650人の力士がいるが、上位のリーグには約60人しかいない。下から4つのリーグ、幕下までの力士は全員、無給。非常に有能な力士でも、夢に描いた給料をもらうまで、2、3年かかることがある。

いったん給料をもらえるようになると、その額はかなり良い。上から2番目のリーグの十両でも月に約1万2000ドル(約135万円)、最上位の幕内ではスポンサー料も含め、月に約6万ドル(約675万円)程度もらえる。

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Image caption 相撲の服装は、力士が海外に行くと目を引くものだ

しかしそれを上回って強い動機も豊富にある。

若手力士は、たとえ真冬でも薄い浴衣を着て下駄を履くこととされている。

車の運転は許されていないが、幕内以上になると運転手を持てる。ステータス・シンボルでもあるが、必要性からでもある。力士のお腹は大きく、ハンドルに手を伸ばすのが大変だからだ。

携帯電話や恋人については、関取と呼ばれる幕内と十両より格下の力士は厳密には禁止されているが、時には見逃される場合もある。女性は相撲部屋に住めず、力士は少なくとも十両に到達するまで、結婚して妻と共に相撲部屋の外で暮らすことはできない。

もっとひどいのは、力士がけがをして幕下以下に降格となった場合、妻や子供を置いて相撲部屋での生活に戻らなければならない。

もし若い弟子たちが親方が求める基準を満たさなかったら、またはまるで修道生活のようなその厳しさに抗議したら、どうなるのだろうか?

「あーそれは恐ろしいことになる」とバクトン氏。「2007年に序の口力士が死亡した事件の前は、暴力は習慣的だった。頑張りが足りないというのが理由で、背中や脚の裏側にみみず腫れがある力士がいたものだった」。

報道によると昨年、日常的な暴行で片目が失明状態になったとして、力士が約3200万円の損害賠償を受けている。

モンゴルの首都ウランバートル出身の横綱白鵬は、この「かわいがり」について衝撃的な説明をしたことがある。「かわいがり」とは、最長45分もの激しい殴打の湾曲表現だ。

当時17歳だった斉藤俊さんが相撲部屋から脱走しようとしたことが原因で暴行され死亡した事件を受けて、白鵬は次のように語っていた。

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Image caption 高い人気を誇る白鵬は、自身も受けたという暴行について率直に話した

白鵬は、私の顔は今幸せそうな顔をしているように見えるかもしれないが、(かわいがりを受けいていた)当時は毎日泣いていた、と語った。力士は、最初の20分はただただすごく痛いが、殴られても痛みが感じにくくなってくるので、それまでよりは楽になる、と話した。

白鵬は当然泣いたと言うが、兄弟子に「お前のためだ』と言われてまた泣けた、と振り返った。

秘密主義のしきたりを破る

才能ある人材に対し厳しい体罰を何年も与え続けるスポーツなのに、なぜ自分より若い幕内力士を殴った日馬富士は引退に追い込まれたのだろうか?

「まあ、日馬富士が殴ったのは酒の席だったので……」とバクトン氏は話す。問題はそこにあるのだ。

30年にわたり相撲を見てきた相撲専門ライター、クリス・ゴールド氏は、沈黙の規律は強力だと話す。

「何十年にもわたり行われてきた稽古や罰則には、複数の相撲部屋の間で驚くほどの一貫性がある。それはつまり、日馬富士のような出来事が起こると、集団を守るためにそれについて口を割らないことになる」

「怪我を負った力士の親方の貴乃花親方が出過ぎた発言をしたとして、秘密主義の規律を破ったと批判する人がいるのは興味深い。他のほとんどのスポーツなら、内部告発をした英雄として称賛されるところだろうに」

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Image caption 記者会見で謝罪し、頭を下げる日馬富士(右)と師匠の伊勢ケ浜親方(先月29日)

このような姿勢で、若きスポーツマンたちが入門し続けてくれると、相撲は本気で思っているのだろうか?

1日2度のしっかりした食事の約束が、田舎の大家族出身の貧しく飢えた新米力士を惹きつけた日々は、幸いにも現代の日本では過去のものとなった。そしてサッカーや野球など他のスポーツの方が、暴力の危険なくもっと稼げるのだ。

こうしたこと全てをもってしても、相撲人気は高まっている。1月には、ほぼ20年ぶりに日本生まれの横綱が誕生し、ファンは喜びに沸いた。

日本相撲協会はまた、洗練された宣伝活動で一役買っている。

ゴールド氏の見方によると、相撲の衰退を説くのは時期尚早だ。

「将来についてパニックを起こす時期ではまだない。しかし相撲協会は、相撲が支持するもの、支持しないもの、そして相撲の基本的な価値観について、詳しく説明する必要がある。それがない限り、偉大な力士の才能を持ちつつ入門してこない人材は増え続けるだろう」

(英語記事 Inside the scandal-hit world of Japan's sumo wrestlers

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