北朝鮮は平昌冬季五輪に参加するのか 専門家が分析

北朝鮮の最高指導者、金正恩朝鮮労働党委員長は韓国に向けてオリーブの枝を差し伸べているように見える Image copyright Reuters
Image caption 北朝鮮の最高指導者、金正恩朝鮮労働党委員長は韓国に向けてオリーブの枝を差し伸べているように見える

北朝鮮と韓国は両方とも、来月韓国で開催される平昌冬季五輪への北朝鮮選手団の参加にかなり前向きのようだ。しかし、北朝鮮指導部に詳しいマイケル・マッデン氏は、北朝鮮のスケート選手らが平昌のリンクにたどり着くまでにはいくつかのハードルを越えなければならないと指摘する。

今月9日、金正恩氏の誕生日の翌日に北朝鮮の祖国平和統一委員会と韓国の統一省の代表団が板門店にある施設で会談する可能性が相当ある。

両者の目的は、朝鮮民主主義共和国(北朝鮮の正式名称)が来月韓国で開催される平昌冬季五輪に選手団を派遣するかどうか話し合うことだ。

北朝鮮選手団が参加しても長年にわたる半島の危機が解決することはないだろうが、双方が述べている通り平和の意思表示となる。

しかし、今のところフィギュアスケート選手2人の北朝鮮選手団と、金正恩氏の妹で側近の金与正(キム・ヨジョン)氏が含まれるかもしれないVIP代表団が平昌に現れるのを待つ前に、そして今月9日に南北会談が行われる前に、双方は注意深く一連の意思疎通をしなければならず、事態が間違った方向に進む可能性はまだ少なくない。

どのように南北会談は提案されたのか?

「新年の辞」での金正恩氏の発言を受けて、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が会談を提案さえした事実から、アナリストたちからは興奮した大胆な指摘が相次いだ。

アナリストたちは北朝鮮との宥和策や、北朝鮮が五輪参加の意志を示すことで戦略地政学的な問題で譲歩を引き出そうとしているとの見方を口にし、北朝鮮が米韓同盟にくさびを打ち込もうとしているという大げさな見方も広がっている。

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Image caption 韓国と北朝鮮の間の緊張が高まるなか直接対話は2年間なかった

しかし、五輪に関する文在寅氏の提案と金正恩氏の発言は、去年12月に中国で行われた韓国と北朝鮮のスポーツ政策を担当する高官による秘密会談の結果だということを指摘しておきたい。

双方の高官は2018年にスポーツ交流に参加することで意見が一致した。

北朝鮮からは副体育相が派遣され、文大統領の指示を受けていたかどうか不明の韓国の同等の高官と会談した。韓国と北朝鮮はこの秘密裡の接触とスポーツ交流に関する一般的な合意を利用して今月9日の南北会談開催の目途を付けた。

秘密会談と双方の指導者の発言からは実現への高い熱意が明白で、双方ともに注意深く進めていることがうかがえる。

次に起こることは?

第一歩は、電話会談で今月9日に向けて代表団と議題について話し合うことだ。

一つの不安要素としては、韓国が両国間のホットライン(直通電話回線)にダイアルした際に北朝鮮が応答していなかったことだ。

しかし金正恩氏は北朝鮮側の回線を再開させる指令を出しており、2年ぶりに両国間の直接対話が実現した。

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Image caption ソウルの北にある坡州(パジュ)市と北朝鮮を結ぶ回線をテストする関係者(2005年)

今後数日間で韓国と北朝鮮の代表らが、五輪について話し合う今月9日の会談の議題と出席者について電話会談する。

それがうまくいっても、2つの要因が今月9日の会談実現を阻む可能性がある。

第一に、北朝鮮の代表は合意した議題以外の内容に触れようとする可能性があり、対話の進行を遅らせてしまうかもしれない。

第二に、議題に合意しても外交儀礼をめぐる意見の対立で会談が実現しないかもしれない。

過去には、双方の高官のレベルが適切かどうかをめぐって意見が一致せず、会談が流れてしまったことがある。

外交儀礼の問題は部外者の観測者にはささいな問題のように映る。

しかし北朝鮮の観点からすると、拘束力のある決定権を持ち、北朝鮮の五輪参加について文大統領の承認待ちの状態に持っていける対話者を望んでいる。

韓国の観点からすると北朝鮮には、意思決定できる権限を与えられ、もし暫定的な合意をした場合、金正恩氏に直接伝達でき、北朝鮮の政治的文化に則して信頼を持って提唱できる者を望んでいる(北朝鮮の高官たちが政策問題について互いに異なる視点を持っており、互いに討論しているというのは注目すべき点だ)。

他に誤った方向に進む要因は?

他に重要な議題や出席する高官について 意見の不一致がなかった場合、そして南北会談が実現した場合、次の落とし穴になる可能性があるのは合意に至らないかもしれないということだ。

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Image caption 北朝鮮唯一のフィギュアスケートペアは冬季五輪出場権を獲得している

北朝鮮は韓国から、援助や経済制裁の解除など譲歩を引き出そうとするかもしれない。

韓国側としては、試合に出席するチアリーダーの人数について制限を設けるかもしれないし、北朝鮮選手の追加出場を拒否するかもしれない。

今のところ、五輪出場権を獲得している北朝鮮選手は2人のみだが、文大統領の裁量で何人かの北朝鮮選手を追加で出場させられる。

金正恩氏の動機は?

北朝鮮が冬季五輪参加に向けた対話を国際社会の北朝鮮に対する経済制裁と北朝鮮の弾道ミサイル実験と核兵器拡充を制止しようとする外交努力を弱体化させるための秘密手段として利用しようとしているとみる外部アナリストもいる。

これは短絡的で誤解を招く見方だ。

これはほぼ間違いなく北朝鮮の前指導者金正日氏が用いた手法だが、金正恩氏は父親とは異なる指導者だ。金正恩氏は確かに弾道ミサイル発射実験を命令し続けるだろうが、韓国との緊張緩和も望んでおり、北朝鮮の核危機に関して不必要な混乱を避けたいと望んでいる。

北朝鮮の政策決定者たちも、文大統領が近いうちに実施される米韓合同軍事演習を中止させられはしないという現実意識の下で動いている。韓国に対して演習を中止するように要請することはできるが、演習ははるか以前から計画されたもので韓国側からどのような軍事装備を最終的に配備するか意見を述べられるという現実を理解している

また北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験、あるいは核兵器の実験を行えば(北朝鮮の大量破壊兵器計画がかなり進行していることを考えると、これは可能性の問題ではなく、いつ起こるかの問題だ)、韓国政府が北朝鮮を非難し、あるいは国連安全保障理事会で追加制裁を求めることさえあり得る。

しかし北朝鮮が五輪に出場し、対話の窓口を開いておくことができれば、軍事衝突に発展しかねない(双方で)計算違いが起こる可能性を減らすことができる。

文在寅大統領はどうか

文大統領は「必死」であるとか、「考えが甘い」といった誤ったレッテルを貼られている。文氏は北朝鮮とのやり取りにおいては、文氏を批判だけする人たちよりは、はるかに経験豊かだ。

文氏の提案した北朝鮮の五輪参加は、最終的に南北のより重要な交流につながる可能性のある一歩だ。

金氏と文氏、そして朝鮮半島を注視する人たちにとって、北朝鮮の五輪参加は素晴らしい宣伝チャンスであり、地域の地政学的緊張を一時的に弱らげることにもなる。

2016年に北朝鮮と韓国の体操選手が撮った自撮り写真は大きな話題を呼び、スポーツ選手たちがお互いの政府の政治体制の違いや挑発行動を脇に置いて、尊敬とスポーツへの愛の雰囲気の中で競い合うことができることを示した。

文大統領を批判する人たちへ、質問しなければならない。南北に対して、スポーツで競い合いお互いに話し合って欲しいか、それともお互いを殺し合うと脅して欲しいか。

マイケル・マッデン氏はジョンズ・ホプキンス大学米韓研究所の客員研究員で、北朝鮮分析サイト38ノース」の関連組織、「NK指導部ウォッチ」のディレクター。

追加取材:「NK指導部ウォッチ」北朝鮮政府専門家、シエラ・マッデン氏

(英語記事 Will North Korea compete in Winter Olympics?

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