ドイツで長引く連立協議 欧州に広がる不安

カティヤ・アドラー欧州編集長

アンゲラ・メルケル氏はキリスト教社会同盟(CSU)と社会民主党(SPD)の党首と連立協議を行ってきた Image copyright Getty Images
Image caption アンゲラ・メルケル氏はキリスト教社会同盟(CSU)と社会民主党(SPD)の党首と連立協議を行ってきた

欧州において、議会選挙後に連立政権を発足させるのは、期待に胸を躍らせると言うには程遠い。

傍観者どころか当事者の各党にとっても、連立協議は多くの場合、骨が折れ退屈な道のりだ。オランダ人に聞けば分かる。

そのため、連立政権を組もうとするアンゲラ・メルケル独首相の身を削るような努力が、ほぼ偏執的な国際的関心を集めているのは、なおさら驚きだ。

「欧州で今、繰り返し話題に上ることが一つある」とドイツの欧州議会議員、ヨー・ライネン氏はやや憤慨して筆者に話す。「ドイツで一体いつ政権ができるんだ?」

ライネン氏は、スペインでもオランダでも皆知りたがっているというが、最も気にしているのはフランス人だという。

もちろんそうだろう。

ドイツで起こることは、欧州全体に直接影響がある。巨大な国、巨大な経済は多大な影響を意味する。

過去十年ほどの間、欧州を取り仕切るとは言わないまでも、先導してきたのがドイツであることは、ほぼ間違いない。

野心的なエマニュエル・マクロン仏大統領は、フランスにスポットライトを取り返しフランスが欧州の主役だった頃の古き良き時代に戻りたいと考えている。

しかし、フランスはドイツの助けなくしては欧州という舞台でさらなる存在感を取り戻すことはできないと、マクロン氏は知っている。

マクロン氏は現在、躊躇(ちゅうちょ)ない親欧州的な立場に加えて、明確で広範囲に及ぶEU改革の目標を掲げている点で、欧州連合(EU)首脳の中で孤立している。

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Image caption マクロン氏はフランスが欧州でより大きな役割を果たすことを望んでいる

しかしマクロン氏の言葉を注意深く聞くべきだと、ブリュッセルのシンクタンク「カーネギー・ヨーロッパ」の上級研究員ジュディ・デンプシー氏は話す。例えば去年9月にソルボンヌ大学で行いEU改革案を示した演説では、ユーロ圏や防衛、移民問題などについてEUの統合深化を呼びかけた。

ドイツに対するマクロン氏のメッセージは明白だ。「あなたなしではやっていけない」。

ドイツを参画させることの不可欠さを認識する新たな世代の言葉だ。

仏独連合の強力なエンジンがEUの推進力になるという見通しは、英国のEU離脱(ブレグジット)投票で失われた欧州官僚たちの笑顔を取り戻すことになる。

しかし、マクロン氏がさかんに秋風を送るアンゲラ・メルケル氏はかつては全能と思われたが、マクロン氏がソルボンヌ大学でEU改革の演説を行っていたちょうどその頃、総選挙で浴びた一撃によろめいていた。

政権が発足できなければ、ドイツは何の政治的進展も望めない。

そして連立協議が長引けば長引くほど、マクロン氏と欧州首脳のいら立ちは増してくる。

「時間に余裕はない」とジュディ・デンプシー氏は言う。

米国では行動を予測できないトランプ大統領がホワイトハウスにいる。東欧のEU加盟国はEUが欧州の価値観と呼ぶものをあざ笑っている。ブレグジット交渉をまとめ上げなければならないし、来年には欧州議会選挙もある。その上、今年はイタリア、ハンガリー、スウェーデンと大荒れしそうな選挙がそろい踏みだ。その中で有意義なEU改革の合意に達することができる見込みは、非常に少ない。

したがって、ドイツ情勢と、欧州中のニュースを騒がせるだろう独西部ボンで21日に行われるドイツ社会民主党(SPD)臨時党大会の行方をみんなが真剣に、そわそわしながら見守っているのだ。

SPDは先週、連立政権継続に向けた暫定協議を終えた。果たしてメルケル氏率いる保守派との正式な交渉入りに合意するだろうか?

そして合意したとしても、SPDの党員たちが連立合意を承認するのか?

見通しは非常に不透明だ。

SPDにとって昨年9月の総選挙の結果は芳しくなかった。党員の多くは、連立政権に長居しすぎて、メルケル首相の影に覆われ弱体化したことが原因だと考えている。

彼らにとっては、威張る「ムッティ(お母さん)」の下、さらに4年過ごすのは魅力的ではないのだ。

マクロン氏や強いEUを望んでいる人たちは、SPDに「ヤー(はい)」と答えてほしいと願っている。

マクロン氏らにとって合意によって得られるものは大きい。

SPDと保守派が達した28ページに及ぶ暫定合意を読み込まなくても、欧州が最優先事項だと気づくだろう。

Image caption ドイツ連邦議会の勢力図

メルケル氏は常にEUを強く擁護してきたが、欧州について明確なビジョンのある演説は、首相の任期期間中に一度たりともしたことがない。

しかしSPDのマルティン・シュルツ党首は欧州議会の元議長で、ジャンクロード・ユンケル欧州委員長とも親しい。マクロン氏と同じくらい熱心なEU支持者だ。

しかしその一方で、もし連立交渉が失敗すれば、再び活性化し、統合深化したEUという構想は砕けてしまうだろう。

シュルツ氏は党首を辞任するだろうし、マクロン氏のEU改革は困難になり、国内外での評価にも傷がつくだろう。

欧州諸国がドイツからの知らせを待つ間、ピリピリするのも無理はない。

18日、影響力があるマンフレート・ヴェーバー議員が欧州議会で、欧州が岐路に立っていると述べた。

政治にポピュリズムの波が押し寄せていると警告し、「憎悪か希望かの二者択一だ。野心的な欧州か、欧州そのものが消えるかのどちらかなのだ」と締めくくった。

ドイツがいわゆる大連立への合意が失敗すれば、ブレグジットにも直接関わってくる。

ブレグジットの交渉官たちがEUと離脱後の英国の将来の貿易や関係のあり方をめぐって、これから意見を戦わせようというところで、EUで最も力がある国が再選挙の大混乱に陥るかもしれないことを意味する。

そんな可能性を想像するだけで、目を潤ませている。それも英仏海峡の両側の関係者が。

(英語記事 European jitters over German coalition talks

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