【寄稿】北朝鮮と森友問題で安倍首相に高まる圧力

ジョン・ニルソン=ライト博士、ケンブリッジ大学および英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)

日本政府は米国に置いてきぼりにされるのか Image copyright Reuters
Image caption 日本政府は米国に置いてきぼりにされるのか

ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮の最高指導者、金正恩・朝鮮労働党委員長との会談を約束するという、全く予想外の展開は日本政府に大きな衝撃を与えたと言っても過言ではないだろう。

北朝鮮に政治、経済面で圧力を絶え間なくかけ続けるという、慎重に計画された米日協調下の作戦は、米国の一方的で新しい穏健政策に取って代わった。米国の政策が長続きしない可能性もあるが。

米国の政策転換は、トランプ氏の自信に満ちた楽観に基づいている。トランプ氏は、交渉を通じて北朝鮮に、核兵器および高度ミサイル技術の開発を放棄させようという腹積もりだ。

しかし、予想外の会談はおそらくニクソン訪中並みの衝撃を日本に与えるだろう。当時のリチャード・ニクソン米大統領は1971年7月、中国を訪問し、毛沢東主席と会うといきなり発表した。

当時の日本政府は、それまで20年近くにわたり回避しようと苦心してきた「悪夢」を経験した。

歴代の米政権に促されるまま日本政府が忠実に守ってきた、冷戦時代の中国に対する「封じ込め」政策は、あっという間、わずか20分の事前連絡で、一方的に放棄されたのだ。

力で勝る同盟国に裏切られ、置いてきぼりにされた日本には、米国への不信感が澱(おり)のように残り、そのせいで米日関係は何年にもわたりぎくしゃくとした。

見捨てられるか窮地に追い込まれるか

車のハンドブレーキを使って急なUターンをしたかのような、トランプ氏による北朝鮮政策の急転換は、日本の安倍晋三首相にとって最悪のタイミングで起きた。

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Image caption 安倍首相は、トランプ氏が大統領に就任する前に会いに行った

安倍首相は2016年11月に、大統領選に当選したばかりのトランプ氏と会談する初の外国首脳になるため、いち早く訪米した。また、移り気で自己愛の強い米国の新指導者をより良く理解し、それに対応するため、外交的な準備を慎重に重ねてきた。「トランプ・タワー」での会談成功から、トランプ大統領と特別な関係ができたと安倍氏が自信を持ったとしても当然だろう。

この自信は突然、煙のごとく消えてしまった。安倍政権は、米朝首脳会談について米国から相談がなかったことに落胆しうろたえているだけでなく、2つのシナリオを非常に警戒している様子だ。

日本は長年、米国に見捨てられる、あるいは窮地に追い込まれるのを恐れてきた。5月に予定される米朝首脳会談で何が起きるのかを不安げに見極めようとする日本政府内で、この恐怖が渦巻いている。

最も懸念されるのは、取引をまとめるのが好きなトランプ大統領が、ロバート・ムラー特別検察官によるロシア疑惑捜査から生じる国内問題から世間の目をそらすため、過去の大統領が成し得なかった北朝鮮との合意を急ぎ、米日同盟を犠牲にすることだ。

Image caption 東アジア各地に駐留する米軍の数

北朝鮮の安全保障の要求に応じるため、トランプ大統領が地域の駐留米軍の大幅削減に同意したり、同盟国の利益を犠牲にして米国の戦略的利益のみ優先すると同意したりするのでないか――。日本はそのように懸念している。駐留米軍兵士は、韓国に2万8500人、日本に約5万人いる。

トランプ氏は、米国に到達可能な核弾頭を搭載した長距離ミサイルの脅威のみに注目し、日本が直面する中距離ミサイルの問題、あるいは1970~80年代に北朝鮮工作員に日本から連れ去られた「拉致被害者」をめぐる未解決の問題など、ほかの政治的懸念を無視あるいは見過ごしたい誘惑に駆られる可能性がある。

2つ目の懸念は、5月の米朝首脳会談で合意ができない場合だ。いらだったトランプ氏が、外交手段が尽きたとして、北朝鮮を軍事攻撃する以外に選択肢がないと考えやしないか、日本は懸念している。

朝鮮半島で戦争が起きれば、米国と同盟関係にある日本も多くの犠牲と破壊を伴う戦争に巻き込まれ、国と国民全体が存亡の危機に直面する。

平和的解決を志向するレックス・ティラーソン国務長官を解任し、北朝鮮への武力行使を擁護する強硬派のマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官を後任にするとトランプ氏が今週発表したことは、同盟関係のために窮地に追い込まれるという日本の懸念をいっそう高めるばかりだった。

国内スキャンダル

この戦略的、外交的危機に加えて、安倍氏は国内の問題にも直面している。

朝鮮半島問題に直面するさなか、昨年来くすぶり続けていた汚職と利益誘導疑惑が急速に再浮上した。

このスキャンダルでは、安倍首相の昭恵夫人の責任が問われる可能性がある。大阪府にある学校法人「森友学園」は、小学校建設地として国有地を鑑定価格から86%と大幅に値引きされた価格で買収した。この売買取引を昭恵夫人が手助けしたのではないかと、疑われているのだ。

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Image caption 森友学園については、大阪府の国有地が鑑定価格を大幅に下回る価格で売却されたことが問題視されている

進歩的な論調で知られる朝日新聞は今月初旬、国有地売却を管轄する財務省の官僚が、国会提出した森友学園への土地売却関連書類から、昭恵夫人への言及や、取引の「特殊性」に関する部分を、選択的かつ意図的に削除していた可能性があると報じた。

森友問題はすでに、劇的な影響を周囲に及ぼしている。今月9日には、財務省近畿財務局で国有地売却を扱う部署にいた職員が自殺したとみられることが明らかになり、森友問題が理由ではないかとの見方が広がった。

国政レベルでは、安倍内閣と国会の間の緊張関係が高まっている。野党の有力議員たちは、政府が国会を意図的にだまそうとしたと主張。国会のチェック機能が重要な政治制度において、これは深刻な問題だ。

公文書書き換え問題を受けて、土地売却問題が発覚した際の財務省理財局のトップだった佐川宣寿氏は、国税庁長官辞任に追い込まれた。直属の上司にあたる麻生太郎副総理兼財務相についても、野党だけでなく与党・自由民主党の一部議員たちからも辞任を求める声が出ている。

高まる圧力

安倍首相にとっては、森友問題が自分への辞任要求につながり、内閣そのものが倒れる可能性が懸念される。

森友問題が最初に発覚した昨年2月に安倍首相は、自分や妻が国有地売却で影響力を行使したと明らかになれば辞任すると公言している。今回新たに明らかになった内容からすると、たとえ明示的な働きかけでなかったとしても、不適切な影響が国有地売却に及んだという印象はぬぐいがたい。

現時点で、麻生財務相は辞任する考えはないと言明しており、安倍首相は、財務省での不透明な手続きに関する事実の究明のため、麻生氏の続投を支持している。

しかし、安倍氏が麻生氏をかばうのには、もっと強い別の理由が2つある。

まず、麻生氏が続投する限り、安倍氏への直接の批判に対する、政治的な人間の盾になってもらえる。

2つ目には、自民党で2番目の大派閥を率いる麻生氏は、今年9月に予定される党総裁選の結果を左右するだけの票数を安倍氏に提供できる。

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Image caption 北朝鮮をめぐる緊張が、日本の有権者が安倍氏支持でまとまる理由になるかもしれない

安倍氏は、総裁3期目を勝ち取ることで、少なくともその後3年は首相を続投できると期待している。

森友問題が安倍氏の政権にどの程度のダメージを及ぼすのかは、まだ分からない。最新の世論調査で政権支持率は前回調査から6ポイント低下し48%となった。

安倍首相にとって朗報ではないものの、スキャンダル発覚当初の昨年と比べると、それほど一気に支持率が急落したというほどでもなかった。自民党よりもずっと支持率が低い野党が、森友問題で勢いを得ているという兆しも、現時点では見られない。

逆説的だが、安倍氏の命綱は北朝鮮危機なのかもしれない。日本国民の間には朝鮮半島情勢への不安が高まっており、5月の米朝首脳会談の成功に強い期待を寄せている。日本の有権者の視点に立てば、自国の安定政権と経験豊かな指導者が政権を担う状況が、成功の可能性を一番高めるように思える。

優れた統治や良好な関係(それが個人間であろうと国家間であろうと)、有効な同盟はいずれも、信頼をよりどころにするものだ。米政府と日本政府の間、そして安倍首相と日本の有権者との間に信頼を回復させ、維持できるのか、結論はまだ出ていない。

ジョン・ニルソン=ライト博士は、英シンクタンク「チャタムハウス」(王立国際問題研究所)北東アジア担当上級研究員、およびケンブリッジ大学日本政治東アジア国際関係講師

(英語記事 Shinzo Abe: N Korea and a school scandal heap pressure on Japan's PM

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