米朝首脳会談の準備はどうやって 一筋縄でいくわけもなく

ジョール・グンター、BBCニュース

Kim Jong-un and Donald Trump Image copyright AFP
Image caption 激しく予測不能なこの2人の会談をどう準備するのか

昨年9月の時点で、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、ドナルド・トランプ米大統領を「頭のいかれた老いぼれ」と嘲笑し、「手なずけてみせる」と約束した。

これに対してトランプ大統領は、金委員長を「狂人」と呼び、「かつてないほどの」試練を与えると警告した。さらに2人はその後、どちらの核のボタンが大きいかで中傷合戦を繰り広げた。

「老いぼれ」発言から約半年。まるで子供同士の校庭でのけんかだが、その割にはリスクは異様に高いという、異様な外交駆け引きを背景に、ついに誰も予想しなかった首脳会談が実現しそうだ。トランプ氏は3月、前代未聞の米朝首脳会談に応じる用意があると、韓国政府特使を通じて発表し、世界を驚かせた。

交渉の焦点は、北朝鮮の非核化になる。それ以外は、まだ双方が何を目的とし、何を譲歩する用意があるのか、定かにはなっていない。

実現すれば、現職の米大統領が初めて北朝鮮の最高指導者と会談することになる。トランプ氏はとてつもない賭けに打って出たわけだ。国際交渉に通常必要とされる慎重な準備や、きわどい外交駆け引きの手練手管は、トランプ政権関係者の得意分野とは必ずしも言えない。しかしトランプ政権は今や、米国史上最も注目される二国間サミットを準備しなくてはならないのだ。

双方にとって、どこまで準備できるかが鍵となる。しかし、これほど次の行動が予想不可能な2人の間の前代未聞の会談を、いったいどうやって準備すればいいのか。

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米国は現在、調整を主導するはずの国務省で、トップの長官以下、韓国関係の主要な役職が空席だ。ジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表は3月2日付けの退任を2月に発表した。空席の駐韓大使には、米戦略国際問題研究所(CSIS)ビクター・チャ韓国部長が2月にいったん内定したものの、政策をめぐる意見不一致でお流れとなった。

英国の臨時中国大使だったジム・ホアー氏は、米国は「苦労すると思う」と話す。「東アジア対応に必要な本来の態勢が整っていれば別だが、東アジアについては臨時代行が見ているだけで、国務省は満身創痍(まんしんそうい)だ。韓国大使もいない。なので、北朝鮮についてトランプ氏が誰と話をしているのか分からない。もしかして、誰とも話していないかもしれない」。

歴史的な首脳会談に応じようという決断も、トランプ政権にありがちな突発的な形で、無秩序にいきなり決まったといわれている。米紙ニューヨーク・タイムズによると、トランプ氏は3月、訪朝を終えたばかりの韓国特使、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長がホワイトハウスにいると知り、その場で執務室に呼び、金委員長の近況について尋ねたのだという。

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トランプ氏、5月までに米朝首脳会談に応じる意向

北朝鮮の最高指導者が自分に会いたがっているとそこで知った大統領は、ただちに同意し、鄭氏に記者発表するよう告げたのだという。

当時のレックス・ティラーソン国務長官は、何も知らされていなかった。電撃発表のわずか数時間前、ティラーソン氏は記者団に、「直接対話という意味では、まだ交渉開始には程遠い」と話していたのだ。

これまでの歴代米大統領は、会えばかえって北朝鮮政権の格上げを助けてしまいかねないと、首脳会談に応じてこなかった。ビル・クリントン元大統領は2000年後半、当時のマデリン・オルブライト国務長官の訪朝から間もなく、自分の平壌入りも検討したと言われているが、結局は任期終盤の他の責務を優先させた。

「米国大統領との会談は、最高の手柄だ」と、米国のクリストファー・ヒル元駐韓大使は言う。「そして今の大統領は、北朝鮮の思惑をあまり詳しく知らないまま、ともかく会ってみようじゃないかと言っている」。

トランプ氏の突発的な行動は、見下されて批判されることが多い。しかし、今回の場合はむしろ長所かもしれないと、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の国家安全保障問題担当補佐官だったスティーブン・ハドリー氏は言う。

「(トランプ氏の)スタイルはすでに、大きな突破口を生み出した。北朝鮮に対する口調は無責任で好戦的だとさんざん批判されたが、おかげで北朝鮮は気にしたし、中国も気にした」

「今後のポイントとなるのは、現状維持は不可能だと中国を説得し、北朝鮮には、核兵器を持たないより持ち続ける方が自分たちの安全保障にとってリスクになるかもしれないと納得させることだ」

「トランプ氏のアプローチはすでに、その両面でかなり良い影響をもたらしていると思う」

開催地はどこに

首脳会談の実施はあっという間に決まった。その分、詳細は不透明だ。開催場所はどこになるのか。これは興味深い難問だ。金委員長は3月末、北京を訪れた。最高指導者になって初の外国訪問だった。とはいえ、金氏がワシントン訪問に応じるとは思えない。トランプ氏が平壌入りすれば、北朝鮮にとってはかなりの得点で、絶好の宣伝材料となるが、それだけにやはりあり得なさそうだ。

Image caption 米朝首脳会談の開催地は? ワシントンはトランプ氏にとって安全だが、金氏が応じるとは思いにくい。平壌はその逆。板門店になれば韓国の影響力が増し、北京になれば中国の関与が可能となる。中立な公海上という説も出ている

「外交手続きの儀典的な決まりごとを間違えないようにするのは、大変だ。誰がどういう状況で誰に敬意を払うのか、などなどだ。そのため、中立な場所にするのが重要だ」とホアー氏は言う。

可能性があるのは、たとえば中国や南北間の軍事境界線、公海上のどこかなどだ。1989年に当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領がソ連の指導者、ミハイル・ゴルバチョフ書記長と会談した際には、マルタ島沖のソ連客船マクシム・ゴーリキー上で行われた。

開催地も大事だが、トランプ氏にとっては、米国と北朝鮮双方の目的を正確に理解することがはるかに重要となる。トランプ氏は複雑な状況報告書類が苦手で、画像豊富で短い箇条書きのプレゼンテーションを好むという。そうだとすると、事前準備には苦労するかもしれない。

「事前準備をしっかりやらないとしたら、それは問題だ」とホアー氏は懸念する。「相手は、米国問題を長年にわたって研究してきた専門家たちだ。北朝鮮側の担当者たちはその場での発言はしないが、金委員長に徹底的に説明を重ねた上で、会談に臨むはずだ」

もうひとつ大事なのは、見た目だ。首脳会談を取り巻くメディアの生態系は、ジョン・F・ケネディ米大統領がソ連のニキータ・フルシチョフ書記長にウィーンで会った1961年とも、リチャード・ニクソン米大統領が有名な電撃訪中を果たした1972年とも、まったく違っている。サミットでの発言の一言一句が即座に、リアルタイムで、ケーブルニュースで伝えれられる。ありとあらやゆる身振り手振りや表情が、とことん分析される。

しかし、もしもトランプ氏が外交的な失態や失言を上手に回避して、実は金委員長と馬が合うということになれば、その単刀直入な政治スタイルは、よそでは短所かもしれないが、こと北朝鮮との取引においては長所になるかもしれない。

「金を交渉の席に着かせたというそれだけで、もう大勢が(トランプ氏の)手腕に驚いている」とハドリー氏は言う。

「物事のやり方がほかとは違う。それだけに、会談から意外な成果を引き出すかもしれない」

(英語記事 Trump Kim talks: The tricky task of preparing for the summit

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