精神病は「誰にでも起こる」 ケイト・スペードさんの死で専門家ら強調

ケリー・リー・クーパー BBCニュース

ケイト・スペードさんは近年、重度のうつ病を抱えていたと家族が明かした Image copyright Shutterstock
Image caption ケイト・スペードさんは近年、重度のうつ病を抱えていたと家族が明かした

米ファッションデザイナーのケイト・スペードさんが今週初め、自ら命を絶ったとの報道は、精神病の普遍性と、どんな仕事や立場の人も精神病にかかる可能性があるという悲しい現実を、多くの人に認識させた。

55歳だったスペードさんが5日に亡くなったと報じられると、ソーシャルメディアはすぐに追悼の声で満たされた。多くの報道が、大衆が受けた衝撃を重点的に伝えた。成功したデザイナーであるスペードさんは、表面上は「全てを手にした」かのように見えたからだ。

「精神病や自殺は誰にでも起こりうるとよく言われる」と米自殺防止ライフラインのディレクターを務めるジョン・ドレイパー博士は語る。「本当は、個人の環境によるものではない」。

「大きな成功を収めた人も、何らかの形で身動きが取れないように感じる可能性がある。全てが完璧に見えるので、彼らは自分が問題を抱えていると誰も理解したり信じたりしてくれないと考えるのだ」

ここ数年、感情的な葛藤や精神病に関するタブーに挑戦し、破ろうと社会のさまざまな場所で取り組みが生まれてきた。

俳優のドウェイン・ジョンソンさんから歌手のデミ・ロバートさんまで、たくさんの人気ある有名人が、うつ病や不安障害といった病気との個人的な悪戦苦闘を公言している。

「前向きなことが数えられない

カナダ人コメディアンのジェシカ・ホルムズさんは、うつ病を抱えながら世間の目にさらされることの問題を痛いほどよく知っている。

「私の人生で、キャリアはすべてうまくいっていた」とホルムズさんはBBCに語る。「エレン・ディジェネレスやオプラ・ウィンフリー、ジェリー・サインフェルドの前座を務め、カナダの人気あるコメディ・ショーにも出演した」。

「それら全てを得て、そして2人の健康な子供と支えになってくれる夫がいたにも関わらず、私はそれでも、約2年間続いたうつ病に沈んだ」

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Image caption 44歳のジェシカ・ホルムズさんは、うつ病を患っていた2013年当時の自分を「ゾンビ」と表現する

「私の精神科医は、うつ病にかかった精神はふるいのようなものだと説明してくれた。後ろ向きな考えだけが通り抜けていく。人生で起こっている前向きなことを数えられない。それがたとえ、私のように、ありがたく思うことがたくさんある人間であっても」

スペードさんの姉はメディアのインタビューで、スペードさんがしばらくの間うつ病と闘っていたが、治療を求めれば自分のファッションブランドが持つ「楽天的」なイメージを傷つけるのではないかという不安を語ったと示唆した。

人々の注目にさらされている人が、「活力があり健康的で育ちのよい」イメージを維持しなければならないかのように感じるのは、「完全に理解できる」とホルムズさんは言う。

ホルムズさんは「ケイト・スペードさんのような事例を、人が共感と理解をもって見てくれるのをただ望む」と話した。

「自分には他の選択肢がないと考える人が世の中にはいる。でも、そういう人々に他に選択肢があると思い出させるのは、我々の義務だと私は感じる」

有名人の死が引き起こす「伝染」

有名な人が自殺した後に起こる「伝染」効果の危険性は、国際的な研究で長らく認識されてきた。

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Image caption ロビン・ウィリアムズさんの死後、米国の自殺率が10%上がったとする報告もある

メディア業界で働く人の多くが今、責任を持って自殺を報じる際のガイドラインを守っている。ガイドラインには、用語選択に気を配る、自殺の方法を説明しないなどが含まれる。

しかしドレイパー博士は、有名人は「前向きな伝染」にも貢献でき、精神病について話すことを普通にするために極めて重要だと考えている。

「人が希望や回復の話を共有すると、それが自殺率を下げることに結びつくと示す研究がある」とドレイパー博士はBBCに語った。

この現象は、精神だけでなく身体に関する公衆衛生の問題についても認められている。ある研究によると、HIVに関する意識と検査率は、俳優のチャーリー・シーンさんが自らの症状を公にした後に上昇したという。

ドレイパー博士が率いる米自殺防止ライフラインは昨年、大きな機会を得た。米ラッパーのロジックさんが、相談用電話番号を自分の曲の題名にしたのだ。

「1-800-273-8255」と題された曲は、重度のうつ病や希死念慮(死にたいと考えること)を扱っており、「I don't want to be alive(生きていたくない)」 という歌詞のコーラスが回復のメッセージに変化する。

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Image caption 自殺防止ホットラインによると、ラッパーのロジックさんが「1-800-273-8255」を発表し、2017年のMTVビデオミュージックアワードで同曲を歌ってから、電話の数は急増したという

「米国では、1人の自殺者の裏に、280人の真剣に自殺を考えたが実行に移さなかった人がいる」とドレイパー博士は語る。「実行しなかった280人は、ニュースにならない」。

ホルムズさんは、人々の議論、中でも有名な人物による議論が、タブーを破ることに必要不可欠だと同意する。ホルムズさんは今、自らの経験をオープンに伝えている。執筆活動や、うつ病をテーマにしているが笑わせることを目的にしたコメディーへの出演もこなす。

「私にとって回復とは、モーターボートのエンジンのスターターロープを引くようなものだった」とホルムズさんは話す。

「上手くいかなかったし、エンジンはスタートしなかった。そしてある時、はっきりした理由は何もないまま、30回目の挑戦ぐらいだっただろうか、突然うまくいって、ボートは進んだ」

南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム学部の医学教授、クリス・スミスさんは、最近10年ほどで精神病に対するメディアの扱いが変わったと話す。有名人の暴露に対する人々の欲求は、かつてないほどに高まっているのにもかかわらずだ。

有名人たちが自分に関する話を大衆紙が書くままに任せず、自分自身で制御することを可能にする大きな変化がインターネットによって起きたと、スミス教授は考えている。

「有名人には通常、代弁してくれたり、情報をコントロールしてくれたりする誰かがいる」とスミス教授は話す。「うまく使えば、ソーシャルメディアは生産的で、前向きで、強力なものになる可能性がある」。

ファッション業界が問題なのか?

創作のプロと、精神病発生の高い報告率との関係は、長い間研究されてきた。

ファッション業界では近年、英デザイナーのアレクサンダ・マックイーンさんやローレン・スコットさんが自ら命を絶っている。

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Image caption 自身の名を冠したブランドを立ち上げてから3年後、ケイト・スペードさんは最初の店を開いた

薬物乱用に取り組んでいることを公にしている他の業界の大物もいる。

研究機関「サイコロジー・フォー・ファッション」のキャロリン・メイアー教授は、服飾業界は働くのが特に難しいと考えている。

メイアー教授はBBCに対し、「もっとたくさん作れ、もっと自分で外に出て行けという要求が高まっている」と述べた。

「とても厳しい業界だ。全てのコレクション(ファッションブランドが発表する季節ごとの作品群とその発表会)が他のブランドより良いものであるよう期待され、完璧にさらに近づくのを求められる」

メイアー教授は、モデル、デザイナー、その他のファッション業界で働く全ての人に、やらなければならないことがあると考えている。教育から始めることだ。

誰かに助けを求めたいときは

日本では、厚生労働省所管の自殺総合対策センターが、「いのち支える相談窓口一覧」として、都道府県・政令指定都市別の相談窓口に関する情報を提供している。

NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンクも、生きる支援の総合検索サイト「いのちと暮らしの相談ナビ」を開設し、様々な問題を抱える人たちがニーズに合わせて支援策を探し出すサポートを行っている。

一般社団法人 日本いのちの電話連盟は、インターネット相談のほか、ナビダイヤル(0570-783-556、午前10時から午後10時まで)、自殺を考えている人向けの相談電話(0120-783-556、無料、毎月10日の午前8時から翌日午前8時まで)で相談を受け付けている。

米国には、米国自殺防止ライフライン(1-800-273-8255)があるほか、支援が必要な若者向けに「キッズヘルプフォン」(1-800-668-6868)がある。

英国では「ザ・サマリタンズ」が自殺防止のための電話相談を受け付けている(116123)。

BBCも英国内を対象に、精神的に苦しんでいる人向けの情報をまとめたウェブページを公開している

(英語記事 Kate Spade death: Mental illness 'doesn't discriminate'

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