火星に液体の水か 地表の筋は流れた跡?
- ジョナサン・エイモス
- BBC科学編集委員

画像提供, NASA/JPL/UA
火星斜面に走る濃い色の筋は、数百メートルにわたり水が流れた跡か
米航空宇宙局(NASA)は28日、火星表面に見える濃い色の筋は、液体の水が定期的に流れた跡との推測を明らかにした。研究チームが専門誌「Nature Geoscience」に発表した。
火星を周回しているNASAの探査機「マーズ・レコノサンス・オービター(MRO)」が集めたデータによると、火星の斜面に見える筋は塩の集積と関連している様子。塩分の存在は火星の薄い大気での氷点と沸点の温度に影響し、水が液状で流れる環境を作り出す可能性がある。
液体の水が存在できる環境には微生物が生存できるかもしれず、火星に生命が存在する可能性が出てきた。
さらに火星表面近くに水源があれば、いずれ宇宙飛行士が「自給自足」できる可能性もある。
NASAがカリフォルニアのエイムズ研究センターで開いた記者会見で、共著者のメアリ・ベス・ウイルヘルムさんは「火星で人間が活動する費用を削減し、持久力を高めるかもしれない」と解説した。
水源はどこに
火星研究ではこれまで、今でも地表を水が液体として流れるのかどうかが注目されてきた。火星の大気は摂氏零下を大きく下回り、あまりに気圧が低いために液体の水はただちに沸騰してしまうとみられてきた。
しかし15年にわたる観察の結果、地表の溝や筋の様子が季節ごとに変わることから、地表を水が流れているのではないかとの推測が高まっていた。
これに対して、米ジョージア工科大学の博士課程に在籍中のルジュ・オジャさんと研究チームは、MROから得られたデータが水の存在を裏付けていると報告している。

画像提供, NASA/JPL/UA
記事内の火星表面画像は、MROデータをもとにコンピューターが作成したもの(NASA提供)
探査機MROは、地表物質の化学組成を判定できる「クリズム」という計測器を搭載している。火星の夏に濃い色の筋が表われては消える4カ所を調べたところ、「RSL」(繰り返し出現する斜面の筋)は塩に覆われていることが分かった。
「これまでの調査から火星表面にこうした形状があるのは承知していた。しかしこれまで、核心となる証拠が欠けていた。化学的組成が何か、分からなかったからだ」とオジャ氏は会見で述べた。
MROチームの一員で惑星地質学を専門とするアリゾナ大学のアルフレッド・マキューアン教授は、「水そのものを発見したわけではない。筋がなんなのか、最もあり得る推測をしたというわけだ」と説明した。
MROが観測した塩は、過塩素酸マグネシウムなどで、水の沸点を摂氏80度に引き下げ、蒸発する速度も遅らせる。このため塩水が斜面を流れ落ちる間は液状をとどめる可能性が考えられる。
ただし、水源がどこにあるかはまだ不明だ。RSLのほとんどは火星の赤道周辺に見られるが、この地域の水はおそらく氷の塊として地表からかなり深いところにあるのではと考えられている。
地表探査機キュリオシティーの集めたデータから、地表の塩分が大気中の水分を引きよせている可能性も考えられる。しかし液体として流れて地面に筋を作るほどの量を大気中から作れるのかは不明だ。
あるいは地下の帯水層が地表に露出しているという説もあるが、それでは山頂部分にもみられるRSLは説明できない。火星の複数個所でそれぞれ別の水源からRSLが作られている可能性もある。
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