【米大統領選2016】フォックス・テレビ、討論会ボイコットのトランプ氏を非難

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ドナルド・トランプ氏とフォックス・テレビのキャスター、メガン・ケリー氏
米大統領選で共和党から出馬している有力候補、ドナルド・トランプ氏がフォックス・テレビ主催の大統領討論会をボイコットすると表明したことについて、フォックス・テレビは「前例のない」「威圧的行為」とトランプ氏を強く非難している。共和党は予備選の第一弾となるアイオワ州党員集会を2月1日に控えている。予備選開始前の最後の共和党候補同士のテレビ討論会に、有力候補が欠席するのは異例。
フォックス・テレビは、討論会司会者の同局キャスター、メガン・ケリー氏をトランプ氏が威圧しようとしていると非難。「討論会司会者に関する政治家の最後通牒に屈服するなど、報道のあらゆる規範に抵触する。脅迫も同様だ」と声明を発表した。
フォックス・テレビはさらに、「ぎりぎりになって踵を返した人のことをアイオワの人たちがどう思うのかはっきりしないが、アメリカ国民にはもはや明白だろう。問題の根っこはひとつ。メギン・ケリーだ」と指摘し、「この会社の社員に対する威圧行為に屈するわけにはいかない」と表明した。
トランプ氏は昨年8月にケリー氏が司会を務めたフォックス・ニュース主催の討論会でケリー氏と衝突し、28日の討論会からケリー氏を外すよう求めていた。

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世論調査でトランプ氏は共和党候補のトップを独走している
ケリー氏は昨年8月のテレビ討論会で、トランプ氏は女性を見下していると批判。その翌日にトランプ氏は、「あちこちから血が出ている」とケリー氏を嘲笑した。この発言が批判されたのを受けて、月経に言及したのではないとトランプ氏は反論していた。
共和党候補の中で支持率トップのトランプ氏はケリー氏が自分を「公平に扱うこと」が討論会参加の条件だとしていたが、イランの最高指導者やロシアのプーチン大統領はトランプ氏を「公平に扱ってくれるらしい」とフォックス・ニュースが揶揄したため、26日夜に討論会のボイコットを発表した。
これを受けてフォックス・ニュースはさらに、トランプ氏がケリー氏を「すさまじく攻撃」し、脅迫し、4日間にわたり降板を求めて画策していたと反論した。
逃げるドナルド? 大人な対応?
共和党候補指名をめぐるトランプ氏のライバル、テッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は、トランプ氏の討論会ボイコットをからかい、一対一で討論しようとツイッターで挑発。「#DuckingDonald」というハッシュタグは「ドナルド・ダック」のもじりであると同時に、「逃げるドナルド」を意味する(duckは俗語で「隠れる、逃げる、よける」などの意味)。
一方で、トランプ氏の行動を支持する声もある。MSNBCの司会者で元共和党下院議員のジョー・スカーボロ氏は、実にトランプ氏らしい行動で、フォックス・テレビの対応によってむしろ「トランプ氏は大人に見えた」と述べた。
同じMSNBCの司会者クリス・マシューズ氏は、トランプ氏が欠席したなら「キューバ人2人の討論会なんて、誰が見るんだ」と皮肉った。
トランプ氏が「因縁の女性キャスター」をボイコット
共和党の政治コンサルタント、アレックス・カステラノス氏は、「トランプ氏はほかの候補とは別次元で動いている」のがよく見えたし、「リスクを恐れていない」と示したと評価した。
共和党の戦略担当ジェフ・ロード氏は、トランプ氏の討論会ボイコットは「ゴルバチョフ(ソ連書記長)との会談から退出することにした」レーガン大統領の判断に似ていると論評した。
ジャーナリストのマーク・ハルペリン氏は、フォックス・ニュースの嘲笑を批判し、選挙報道の話題を独占しつづけることで勝利するだろうと見方を示した。

<分析> アンソニー・ザーカー、BBC北米記者
ぎりぎりになって共和党討論会から撤退したことは、ドナルド・トランプ氏にとって失策となり得る。その理由はいくらでもある。
アイオワ州党員集会を間もなく勝とうというのに、なぜ今になってことを荒立てるのか。討論会ではこれまでも健闘してきたし、前回の討論会はおそらく過去最高の出来だった。
国で最も有力な保守系メディアといさかいを起こして、何の得になるのか? ライバルたちは早くも、対決を嫌がった、腰が引けていると罵倒している。テッド・クルーズ陣営は「ドナルド・ダック」とレッテルを張るありさまだ。
しかしトランプ氏がひどい計算違いをしたように見える事態になるたびに、今度こそこれでおしまいだと言われるたびに、トランプ氏はむしろ盛り返してきた。大失策に見えたものは実は見事な選挙戦略だったということになる。あるいは政治家としてトランプ氏の鎧(よろい)はあまりに強靭なのだ。
なので今回のこれも、奏功するのかもしれない。ニューヨーク出身の実業家はまたしても、ニュースの話題を独占している。ライバルたちが空っぽの演台に向かって自分を批判する間に、自分は負傷した帰還兵を支援する集会を開くという計画は対比も鮮やかに、トランプ氏に有利に働くのかもしれない。
フォックス・テレビの28日夜のイベントはもしかすると、トランプ氏によって「お子様テーブル」の討論会に変えられてしまったのだろうか?
