【パナマ文書】キャメロン英首相、父のオフショア信託の株保有認める

2010年総選挙中のデイビッド・キャメロン氏(左)と父イアン氏

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2010年総選挙中のデイビッド・キャメロン氏(左)と父イアン氏

カリブ海のタックスヘイブン(租税回避地)における各国首脳や著名人の租税回避行動を浮き彫りにした「パナマ文書」の漏洩によって、キャメロン英首相の亡父イアン氏がパナマで運営していたオフショア信託「ブレアモア・ホールディングス」が取り沙汰されるなか、首相は7日、自分と妻サマンサさんが同社の株を一時保有していたと認めた。2010年に3万ポンドで売却したという。

キャメロン首相は英ITVニュースに対して、株の売却益に課せられる英国の税金はすべて納めたと説明。また「ブレアモア・ホールディングス」は租税回避のために作られた会社ではないと述べた。

首相は取材に対して、「隠すことはなにもない。父親を誇りに思っているし、父がしたこと、父が作ったビジネスを誇りに思っている。(略)父の名前が泥にまみれて引きずり回されるのは耐えられない」と発言。

首相は「この数日、父と父のビジネス手法を批判する記事を読んで、辛い思いをしている。自分の父さんが大好きで尊敬しているし、いなくなっていつでも寂しい」と述べた上で、父親とのその会社が批判されるのはもっぱら、「ブレアモア・ホールディングス」が租税回避目的で設置されたという「根本的な誤解」が原因だと指摘。

「そうじゃない。ドル建て株式や企業に投資したい人のため、為替管理の廃止後に設置された。同じような形で設置された信託はほかに何千とある」

首相はさらに、ファンドは「適正に監査」されており、内国歳入庁に毎年申告していると説明。信託を購入した人は誰でも、株式売却の際にキャピタルゲイン(株式譲渡益)税の対象になると述べた。自身も過去に株式を保有していたが、2010年に首相就任する直前に売却したという。

「個人的な利害関係や利権を抱えていると言われたくなかった」と首相は言い、「サマンサと自分は共同口座で、ブレアモア投資信託を5000口所有していたが、2010年1月に売却した。価値は3万ポンドほどだった。配当については所得税を納めた。譲渡益はあったが、キャピタルゲイン税の免除額枠内だったので、キャピタルゲイン税は払っていない。しかし普通のあらゆる形で英国の税金を納めた」

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【パナマ文書】キャメロン英首相が亡父オフショア信託の権益を一時保有

ダウニング街の首相官邸によると、キャメロン夫妻は1997年4月に権益を1万2497ポンドで購入し、2010年1月に3万1500ポンドで売却している。2010年当時の譲渡益課税免除上限は1人あたり1万100ポンドだった。

BBCの取材で、首相が来週以降に納税申告書を公表するつもりだと分かった。

野党・労働党のトム・ワトソン副党首は、首相が関与を認めざるを得なくなったのは「とんでもない」事態だと位置付けている。

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の資料1100万点以上、いわゆる「パナマ文書」が明るみに出て以来、投資ファンド「ブレアモア・ホールディングス」に関する疑惑が相次ぎ報道されている。同社は2006年までは「無記名株」を使い、顧客のプライバシーを守る手法を使っていた。

「パナマ文書」によると、2010年に死去したイアン・キャメロン氏は「ブレアモア・ホールディングス」の英国人取締役5人のひとりで、バハマ諸島やスイスで開かれる取締役会に出席していた。

キャメロン首相一家が今もこの「ブレアモア・ホールディングス」に関わっているかどうかマスコミなどで取り沙汰されるなか、首相官邸は6日、キャメロン氏と妻サマンサさん、子供たちはオフショア・ファンドから利益を得ていないと発表した。

キャメロン首相のこれまでの発言

・キャメロン家が今でも「ブレアモア・ホールディングス」に投資しているかどうかの質問に対して首相報道官は4日、「それは個人的な事柄」と回答を避けた。

・翌5日のインタビューでキャメロン氏は「私は株式も、海外信託も、海外資産も、そのようなものはいっさい持っていない。それが非常に分かりやすい説明だと思う」と発言。

・首相発言の後、官邸は5日文書で声明を発表し、「首相と夫人と子供たちは、いかなるオフショア・ファンドからも利益を得ていない。首相は株式を持っていない。これまで報道されているように、キャメロン夫人や父親の土地に関していくらか収入を得ており、所得申告している」と説明した。

・首相官邸は6日も文書を発表し、「首相やキャメロン夫人や子供たちが将来的に利益を得る、オフショアのファンドや信託はない」と説明。

・7日に首相はITVニュースに「ブレアモア投資信託を5000口所有していたが、2010年1月に売却した」と話した。

「政治的に恥ずかしい」

BBCのイアン・ワトソン政治担当編集員は、首相による違法行為があったと思わせるものはないが、首相はこれまで英領でのタックスヘイブン取り締まり強化を推進してきただけに、英国内で納税しない企業に首相自身が関わっていたと見なされるのは、「政治的に恥ずかしい」事態になると指摘する。

野党・労働党のトム・ワトソン副党首はキャメロン氏の発言について、「入り組んだ租税回避の仕組みを活用するのは『道義的に間違っている』と他人に言っていた人が、租税回避と関係したとされるファンドの株を持っていたと、認めざる得ないとこまで追い込まれた」のは、「とんでもない」ことだと述べた。

ワトソン副党首はBBCに対して、野党として今後もファンドについて首相を追及していくと表明。「細かい事実関係を小出しに無理やり認めさせられるのではなく、デイビッド・キャメロンはそろそろ自ら、内容をはっきりさせるべきだ」。

「今日の発言を見ると、首相は薄暗がりから国を治めているような感じだ。自分自身、恥ずかしいと思っている内容について個人情報の公表を控えていたかのようだ」

野党・スコットランド国民党の経済担当報道官スチュワート・ホージー下院議員は、「このような租税回避手口の活用は不道徳だと批判してきた総理大臣による、驚くべき告白だ」と述べ、「隠すことは何もないとデイビッド・キャメロンは言うが、『パナマ文書』の漏洩がなければ我々は何も知らされないままだった。文書が明るみに出てなお、父親のオフショア信託から自分は利益を得ていたと認めるまでに何日もかかった」と批判している。