フィリピン大統領選、ドゥテルテ氏が勝利 犯罪取り締まり強硬派

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支援者集会で記念のタオルを投げるドゥテルテ市長
アキノ大統領の任期満了に伴うフィリピン大統領選が9日、投開票され、南部ダバオ市のロドリゴ・ドゥテルテ市長(71)が勝利した。かねてから最有力候補として先頭にいたドゥテルテ市長は、犯罪者に対する取り締まり強化を主な主張に掲げてきた。市長は「起きている間だけでなく、寝ている間も全力を尽くすと約束する」と話している。
中央選挙管理委員会公認の投票監視団体PPCRVによると、開票率90%でドゥテルテ市長は39%にあたる1480万票超を得ているという。PPCRVの集計は中央選管公認だが公式結果ではない。しかしドゥテルテ市長はAFP通信に、自分の優勢は圧倒的で「人々の信託を謙虚に、とても謙虚な気持ちで受け止めている」と述べ、法の支配と秩序維持を強く訴えてきたことが、有権者に支持されたのだと話した。
860万票を得て2位となったマヌエル・ロハス前内務自治相も、敗北を認めた。支援者を前にロハス氏は「泣いている人が大勢いるが、今は涙の時ではない。なぜならこの国は、平和な権力の移譲に成功したのだ」と選挙結果を受け入れると表明した。
3位のポー議員は得票率21%で、「結果を尊重する。ドゥテルテが信託を得た。チャンスを与えよう」と敗北を認めた。

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5人の候補。左から、ジェジョマール・ビナイ副大統領、ミリアム・サンティアゴ上院議員、ロドリゴ・「ディゴング」・ドゥテルテ市長、グレース・ポー上院議員、マヌエル・ロハス前内務自治相。

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投票した印のついた指を見せる女性(9日、ダバオ)
ドゥテルテ市長は「処罰屋」とあだ名される検事出身で、22年以上にわたりダバオ市の市長を務めてきた。犯罪者や薬物使用者は裁判なしに殺すなどの過激な発言が注目されることが多く、最近では、1989年にダバオで起きた刑務所暴動でオーストラリア人修道女が強姦殺人された事件について、自分が先に強姦しておけばよかったと冗談を飛ばし、後に謝罪した。
また議会が自分に異を唱えるなら解散するとも発言。南シナ海で中国と領有権を争う島々については、自ら出向き島にフィリピン国旗を打ち立てると表明している。
大統領選は犯罪取り締まりのほか、経済や汚職対策、インフラ改善、南シナ海での中国との領有権問題などが争点となった。
アキノ大統領はこれまで、ドゥテルテ氏が当選すれば国は独裁体制に戻ってしまうと警告していた。

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アキノ大統領

<現場から> ジョナサン・ヘッドBBC東南アジア特派員
この国の選挙は地域ぐるみの陽気な行事で、大家族や隣近所がまとまって投票所に出かけて行き、一緒になって投票する。マニラ市トンド地区の小学校にはそうした大人数の集団がひっきりなしに出入りを続けた。場内が混乱しないようにするのは大変そうだが、選挙管理担当者たちはよく慣れているし、有権者にも情報は行き届いている。
投票用紙は大変なもので、様々な地方や国政ポストにこの選挙区から出馬した数十人の候補の名前がずらりと並ぶ。会場の係員たちは、投票する人たちに混乱がないよう待機していた。
今回の大統領選では年齢や階級の隔たりを越えて、ドゥテルテ氏が熱心な支持を集めた。その熱意は、フィリピン政界に登場する代わり映えのしない顔ぶれに、国民が飽き飽きしていることの表れだった。フィリピン政界の常連たちは、経済面では多少の改善をもたらしたものの、貧困や腐敗について実質的な変化はほとんど実現できていない。
ドゥテルテ氏は、国の諸問題解決の邪魔になるようなら民主的な抑制と均衡の手続きを無視する用意があると示唆してきた。
市長のこのメッセージを、国民は熱心に支持してきた。しかし投票所に集まる人の数や、明るく和やかな雰囲気を目にすると、他のアジア各国と変わらずフィリピンでも、民主主義のおなじみの手続きを国民はまだ信頼しているのがよく分かる。