レム睡眠が記憶形成に重要な役割=研究

ジョナサン・ウェブ科学担当記者、BBCニュース

人間はレム睡眠のほとんどの間、夢を見ている

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人間はレム睡眠のほとんどの間、夢を見ている

レム睡眠中の脳の活動を邪魔すると、前日に学んだ内容を覚ええられなくなることが、カナダ・マギル大学の教授らが行ったマウス実験で分かった。

研究結果は、脳が活動している浅い眠りのレム(REM)睡眠時が記憶に非常に重要な役割を果たしていることを、これれまでで最も明確に示している。研究結果は「サイエンス」誌に掲載された。

実験では、マウスを起こさないまま、脳の一部細胞の活動を停止させた。これをレム睡眠時に行うと、記憶力テストで記憶が定着していないという結果が出た。

人間では、レム睡眠時に夢を見る。しかし、レム睡眠が記憶の定着に重要なのかははっきりしていなかった。

最近の研究は、より深い睡眠のノンレム睡眠に注目したものが多かった。ノンレム睡眠時の脳細胞は、記憶を定着させたりその日の経験を再現するための活動を示す。

レム睡眠時には目が素早く動き、筋肉は弛緩しているが、脳が何をしているのかはよく分かっていない。しかし、レム睡眠はほかの動物にもある現象で、哺乳類だけでなく、鳥類やトカゲなどにも見られる。

特に哺乳類のレム睡眠の時間は非常に短いこともあり、レム睡眠の効果を調べるのは難しかった。

レム睡眠に入った人間や哺乳類をただ起こすだけでは、ストレスなどの問題で、記憶力テストはうまくいかなくなる。

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マウスを使ってレム睡眠が記憶にどのような役割を果たしているのか実験した

そのため、スイスのベルン大学の研究者らとの共同研究で、マギル大学のシルベイン・ウィリアムズ博士は、眠る脳に直接働きかけることにした。博士はBBCの取材に対し、「マウスのREM睡眠のみを邪魔する手法をとった」と話す。

博士らは、「光遺伝学」と呼ばれる仕組みを使用。マウスの脳に埋め込まれた極小の光ファイバーから光を照射するだけで、特定の脳細胞をコントロールできるようになった。

光の照射には、脳の「シータ振動」と呼ばれる周期的活動を劇的に減少させる効果がある。マウスがレム睡眠状態にある時に、これを行うと、大きな違いが生まれた。

ウィリアムズ博士は、「レム睡眠時のみ活動を邪魔すると、記憶の形成や定着がほぼ完全にできなくなる」と述べた。

例えば、全く見たことがない物体と、前日にも見た物体がある場合、通常のマウスは未知のものにだけ関心を示すが、レム睡眠時に脳の活動を邪魔されたマウスは2つとも詳しく調べようとした。

つまり、場合によってはレム睡眠が記憶の定着に非常に重要な役割を果たすというわけだ。ウィリアムズ博士は、このことから得た答えよりも多くの謎が増えたと話す。

そもそも、ノンレム睡眠が記憶の定着に関連しているのはすでに知られていた。となると、レム睡眠とノンレム睡眠の個別の役割はどう違うのか。

ウィリアムズ博士は、「現時点では2つの違いは分かっていないと思う」とした上で、「レム睡眠に非常に中心的な役割があるのは、大きな発見だ」と述べた。

その役割が何であれ、脳細胞が活動を同期化する振動が関係しているらしいと、今回の研究からうかがえる。この研究で妨害した振動は、1秒間に7回という広範囲で測定可能なリズムだった。

そのリズムを手掛かりに、痴呆などの記憶障害のある患者を調べることもできるかもしれないとウィリアムズ博士は指摘する。

「特にアルツハイマー病の患者で、脳の通常の活動がどう阻害されているのか、それが記憶障害に寄与しているのか、調べられると興味深い」

ウィリアムズ博士と同様に齧歯動物の記憶形成を研究するユニバーシティー・コレッジ・ロンドンの脳神経学者、ダニエル・ベンドー博士は、今回の研究が、レム睡眠を理解する上で「大きな一歩」になったと指摘する。同博士は、「何十年も取り組んでも結論が出ていないなかで、何か大きなことが起きている」と語った。

ベンドー博士は、スイスとカナダの共同研究チームはレム睡眠を妨害する巧みな方法を見つけたと評価した。

「非常に難しい実験で、レム睡眠におけるシータ振動が果たす役割の可能性に関するとても素晴らしい実証だ」