キャメロン英首相 EU離脱派の主張は「事実と異なる」

討論番組に出演したキャメロン首相(19日)
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討論番組に出演したキャメロン首相(19日)

欧州連合(EU)離脱か残留かを英国民に問う23日の国民投票をめぐり、デイビッド・キャメロン英首相は19日、BBCの討論番組「クエスチョン・タイム」の特別番組で、EU離脱派の「まったく事実と異なる」主張に基づいて有権者が判断しないよう訴えた。キャメロン政権は残留支持を訴えている。

キャメロン首相は、EU軍構想に対する警戒や、トルコが近くEUに加盟するとの見通し、英国がEU加盟で負担している費用に関する離脱派の主張を否定し、英国が離脱を選択すれば「根性なし」とみられるだろうと述べた。

一方、離脱派はキャメロン首相が「答えを持ち合わせていない」とし、国民が「EUについて首相をもう信用していない」と批判した。

離脱派は、トルコがEUに加盟することで、EU域内の移動の自由を保障する取り決めで英国に流入する移民の数が急増すると主張している。

ロンドンの北にあるミルトン・ケインズ市で収録された同番組で、英国が拒否権を使ってトルコのEU加盟を止めることはあるのか質問されたキャメロン首相は、「何十年も先の話になると思うので、私自身は考えたことがない」と述べた。

キャメロン氏は、トルコの加盟問題が「国民投票をめぐる議論を脇道にそらす最大の要因になっている」と語った。

また、EU加盟で英国が毎週3億5000万ポンド(約530億円)を負担しているとの離脱派の主張は「本当ではない」とし、EU軍構想は「実現しない」と述べた。EU軍創設に対する警戒からチャールズ・ガスリー元英参謀総長が先週末にEU離脱支持に回っている。

キャメロン首相は、「離脱支持の言い分はもちろんあるだろう」とした上で、「全く事実と異なる3つのこと」を理由に英国が離脱をんだりしたら「悲劇だ」と述べた。

「クエスチョン・タイム」の特別番組では、キャメロン首相の前に、同じ45分番組の形式で、EU離脱を支持するマイケル・ゴーブ司法相が有権者の質問に答える特番を15日に放送している。

キャメロン政権はEU残留を訴えているものの、ゴーブ氏など一部の閣僚は離脱を支持する選挙運動を行う許可を得ている。

キャメロン首相はまた、離脱が決まれば、政府は増税もしくは財政支出の削減をする必要が生じ、これまでの成果が「霧散する」かもしれないと述べた。

番組では、有権者から移民問題について質問が相次ぎ、移民流入数を数万人に減らすというキャメロン首相の過去の約束について質問が出た。

「特効薬ない」

離脱派はEU域内の自由な移動を保障する取り決めが英国の国境管理を難しくしていると主張している。

キャメロン首相は、「多くの人がこの国に来たがっている」ため移民の流れを管理するのが「難しくなっている」と述べた。その一方で「特効薬はない」とし、EUとその統一市場から離脱するのは「移民流入を管理する正しい方法ではない」と語った。

キャメロン氏は、英国がEU離脱を選択すれば「これでおしまいだ、ここから出る、もう止めると。この組織を諦めることになる」と述べ、「つまるところ、英国は根性なしではないはずだ」と語った。

キャメロン首相は、第2次世界大戦中と戦後に英国の首相を務めたウィンストン・チャーチルが「欧州を諦めなかった」と指摘し、「参加していなければ戦えない」と述べた。

「熱のこもった議論」

各種世論調査からは、23日の投票では接戦になると予想されている。先週16日には、労働党のジョー・コックス下院議員が銃や刃物で襲われ死亡し、選挙運動が一時停止されていた。

BBCの番組冒頭で、キャメロン首相はコックス議員の死を悼み、「心がつぶれる思い」だと語った。

キャメロン首相は、これまで「非常に熱のこもった」議論が展開されてきたとし、双方が強い論点を提示したと述べた。同首相は、移民の長い列を描いたポスターをイギリス独立党(UKIP)が最近作成したことについて、「人々を怖がらせようとしている」と批判し、一方で残留派が経済の成長など「前向き」なメッセージを強調してきたと語った。

キャメロン氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者は英国がEU離脱を選ぶのを喜ぶとした過去の発言を、あらためて主張した。

「答えられていない」

キャメロン首相は、EUをめぐる主張が対立する保守党の重鎮らとの討論に参加するのを拒否している。

離脱派を率いるマシュー・エリオット氏は、キャメロン首相がトルコのEU加盟に拒否権を発動すると言明するのを「繰り返し拒否している」と語り、2010年には首相は加盟手続きがなかなか進まないことに「怒っていた」と指摘したほか、キャメロン氏がトルコ加盟の「最も強い擁護者」になると主張した。

キャメロン首相は当時、トルコが「我が国の経済、安全保障、外交で不可欠な存在」だとし、同国のEU加盟に「道を開きたい」と述べていた。

離脱派は、政府のウェブサイトには、在トルコの英国大使館がトルコのEU加盟を支援する「専門チーム」を設置していると書かれている、と指摘した。

エリオット氏は、「キャメロン氏は今夜、移民に対する人々の当然の疑問に対する答えを持ち合わせていなかった。EUに残りながら、どうやって移民の数を数万人に抑えるというマニフェストでの約束が守れるのか説明できなかった。移民増に対応するため国民保健サービス(NHS)にどうやって資金を充当するのか答えられていなかった」と語った。

同氏はさらに、「キャメロン氏が選挙運動中に英国民に語りかけるのを避けたのは、人々がEUについて首相をもう信用していないのを知っているからだ」と述べた。