【英国民投票】EU離脱・残留両派 討論会で激しいやり取り

討論会

英国で今週23日に行われる欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問う国民投票を前に、ロンドン市内のウェンブリー・アリーナで21日、討論会が行われ、離脱を訴えるボリス・ジョンソン前ロンドン市長(現下院議員)や、残留を支持するサディク・カーン現市長などが参加し、激しいやり取りが展開された。

BBCの特別番組「グレート・ディベート」で放送された2時間の討論会には6000人強が集まった。聴衆からは移民政策や経済、国家主権についての質問が目立った。

ジョンソン氏と繰り返し応酬したスコットランド保守党のルース・デイビッドソン党首は離脱派が「うそをついている」と批判。一方、ジョンソン氏は残留派が「この国を軽んじている」と非難した。

ジョンソン氏が討論を締めくくるなかで「木曜日(23日)を我が国の独立記念日にすることができる」と発言した際には、離脱を支持する観衆が立ち上がって拍手した。

残留派の討論を締めくくったデイビッドソン氏は、「金曜の朝にやり直しはできない」と述べ、投票は「100%確信」してすべきだと警告した。

デイビッドソン氏はさらに、「英国はEU内にいた方がいい」と一致する「専門家の意見を否定したりはしない」と述べた。

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EU残留か離脱か大討論 新旧ロンドン市長対決も

BBCのローラ・クンスバーグ政治担当編集委員は、離脱派の方が「感情のこもった熱意」を見せたが、これまで情熱に欠けると一部で指摘されていた残留派も、情熱を表すことができたと語った。また、多くの英国人が名前を知ったばかりのデイビッドソン氏とカーン氏が協力して、なぜEU残留が良いことなのか、言い訳ではなく、説得する論点を示すことができたと指摘した。

今回の国民投票期間中、最大のイベントとなった討論会は、投票直前に最後のアピールをする機会となった。

ロンドンの新旧市長の組み合わせ、ジョンソン氏とカーン氏は、討論会で激しいやり取りを何度も繰り返した。カーン新市長は離脱派が「憎悪作戦」を展開していると非難した。

残留・離脱両方に分かれた聴衆も、それぞれ支持する登壇者が、トルコのEU加盟問題や、貿易交渉、EUの裁判所の権限などをめぐって相手をやり込める発言に、大きな拍手で応じた。

離脱派としては、アンドレア・レッドソム・エネルギー相やジセラ・スチュアート労働党議員が登壇。レッドサム氏は、EUが「濡れ手に粟」で利益を得ていると批判した。一方、労働組合会議のフランシス・オグレイディ書記長が、残留派として討論に参加した。

保守、労働両党入り乱れての討論会の序盤は、貿易や経済が議題になった。

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ジョンソン前ロンドン市長(写真左)とレッドソム・エネルギー相(同右)

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カーン現ロンドン市長

新旧ロンドン市長対決

カーン・ロンドン市長は、前任者のジョンソン氏が以前は企業にとってのEU加盟のメリットを主張していたのに意見を翻したと批判した。一方のジョンソン氏は、残留派が「この国を軽んじている」と批判。英国がほかの地域との貿易を広げる上でEUが足かせになっていると主張した。

討論会の冒頭に自営業者からの質問に答えたデイビッドソン氏は、EUは「面倒で細かいことにこだわる」と多くの人が考えているのは承知していると認めた上で、EUが中小企業にとって「公平な競争環境」を提供していると指摘。もし英国が離脱すれば、EU加盟諸国から関税や税金を課されることになると語った。

ジョンソン氏など離脱派が雇用喪失に触れた過去の発言をデイビッドソン氏が読み上げると、ジョンソン氏は残留陣営が「恐怖作戦」をまた使っていると反論した。

ジョンソン氏は、離脱すれば英国に関税が課されるなどと懸念するのは「とんでもないこと」だとし、ドイツがそんな「狂った」ことをするわけはないと主張した。

離脱派のレッドソム氏は、労働者の権利についてはEUではなく英国が先駆者だったとし、「選挙で選ばれていない、官僚的な欧州の指導者たちに、労働者の権利について指示される必要はない」と述べた。

一方、オグレイディ氏は、離脱派が「お役所仕事」と呼んでEUを否定するのは、本当は「労働者の権利を捨て去りたい」からだと語った。

離脱派が特に強調する移民政策に議論が及ぶと、残留派のカーン氏は離脱派が「恐怖作戦」ではなく「憎悪作戦」を展開してきたと批判した。

カーン氏は、離脱派のパンフレットを振りかざしながら、離脱派が「うそをついている」とし、トルコのEU加盟が迫っているとして「人々を怖がらせようとしている」と述べた。

カーン氏は「トルコはすぐ加盟しない」と語った。

労働党議員のスチュアート氏は、英政府がトルコ加盟を積極的に後押ししていると指摘。規制のない移民の流入が公共サービスに負担をかけているのは「単純な事実だ」と述べた。

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スコットランド保守党のデイビッドソン氏は残留を支持

聴衆の男性から、移民が毎年何人なら英国はそれなりに対応できるのかと、と質問する場面もあった。

オグレイディ氏は、移民を「管理」するのは大切だとした上で、政府の失敗の責任が移民に押し付けられるのに「嫌気がさしている」と述べた。

レッドソム氏は、中央銀行のイングランド銀行が規制されない移民流入によって賃金に「下押し圧力」がかかっていると指摘していると語った。

討論会の終盤は、国家主権と英国が世界で果たす役割について議論が展開された。

レッドソム氏はEUが英国の法令の60%を決めているとして、「濡れ手に粟」状態だと非難。英国がEUからの負担金に反対しようした際には全て否決されているとして、「我々自身で決められないではないか」と述べた。

同じ保守党のデイビッドソン氏は、60%という数字は「あからさまな不真実」だとし、離脱派がトルコ加盟などさまざまな論点で「うそをついている」と批判した。

ジョンソン氏は、欧州法のためにメイ内相は重罪犯を国外追放できないとし、「この組織(EU)に居続けることで我々がさらに安全になる、と離脱派が主張する厚かましさには驚かされる」と述べた。

一方、カーン氏はジョンソン氏に対し、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、英国のEU離脱を支持する国をひとつでも挙げられるのか、と語った。

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選挙運動のバスが討論会場前に並んだ

討論会では、保守、労働両党以外の党で国民投票をめぐる選挙運動を展開している活動家や経済界、ジャーナリストのパネリストが参加する討論も行われた。

緑の党のキャロライン・ルーカス下院議員は、移民は「2方向」あると指摘し、英国人が海外で仕事や勉強ができるのは「すばらしい賜物」だと語った。

イギリス独立党(UKIP)のダイアン・ジェームズ氏は、自分たちがスロベニアで移民希望者が長い列を作っている様子をポスターにしたことを擁護。マスコミも同じような画像を使って、EU域内の自由移動に伴う問題を指摘してきたと述べた。

英小売大手のセインズベリーズのジャスティン・キング最高経営責任者(CEO)は残留派として討論に参加。パブ・チェーンのウエザースプーンズ創業者ティム・マーティン会長は離脱派として参加した。