トランプ氏元側近のフリン前補佐官、FBIへの虚偽供述で有罪認める ロシア疑惑

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罪状認否のためワシントンの連邦地裁に出廷したマイケル・フリン前米大統領補佐官(1日午前)
ドナルド・トランプ米大統領の選挙中からの側近だったマイケル・フリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が1日、連邦捜査局(FBI)に虚偽の供述をした罪で起訴され、ワシントンの連邦地裁で有罪を認めた。トランプ政権の高官経験者では初めて。被告は、大統領選とロシア政府の関与について捜査しているロバート・ムラー特別検察官が率いる捜査陣の取り調べを受けていた。罪状認否の後、捜査に協力していると明らかにした。
フリン被告は連邦地裁での罪状認否で、FBIの捜査に対して、前駐米ロシア大使との接触について虚偽だと承知の上で「虚偽、作りごと、詐欺的な発言をした」と認めた。
さらにこの後、被告はムラー検察官の捜査に協力していると明らかにした。
特別検察官事務所の提出資料によると、被告は匿名のトランプ陣営首脳からロシア大使との接触とその内容について指示されたと供述しているもよう。複数の米メディアは、この陣営首脳とは、トランプ氏の娘婿で大統領顧問のジャレッド・クシュナー氏だろうと伝えている。
米国では、民間人が政府の許可・関与なしに外国政府と外交交渉を行うのは違法。問題となっているフリン被告とロシア大使の接触は、トランプ政権発足前の昨年12月のこと。
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有罪を認めるフリン被告の様子
AFP通信によると、ルドルフ・コントレラス判事に有罪を認めたいかと問いかけられた被告は、「はい」と返答。判事はその上で、「あなたの有罪の主張を認めます。公判は開かれず、おそらく上訴もないでしょう」と告げた。実刑判決を受けたとしても、6カ月以上の刑期になる可能性は少ない。
被告は罪状認否から間もなく声明を発表し、「本日法廷で認めた自分の行動は間違ったものだったと自覚しています。神への信心を通じて、自分の過ちを正そうとしています」と述べた。
被告はさらに声明で、特別検察官の捜査に協力していると言明。「有罪を認め、特別検察官事務所に協力すると合意したのは、私が自分の家族とこの国のためを思って決めたことです」と述べた。
昨年夏の共和党大会で登壇した際には、ヒラリー・クリントン氏について「Lock her up!(刑務所に入れろ!)」という合唱を先導した。罪状認否後に法廷からFBI捜査員と共に立ち去る被告に対して、集まった人たちが「刑務所に入れろ!」と叫んでいた。
一連の動きに対してホワイトハウスは、「有罪の主張も罪状も、フリン氏の有罪を示すものでしかない」とコメントを発表した。大統領が報道陣の前に立つ予定が組まれていたが、キャンセルされた。
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裁判所前に立つ男性が、フリン被告に対して「刑務所に入れろ」とプラカードを掲げた
フリン被告は昨年末、政権発足前にロシア大使と接触していたことをマイク・ペンス副大統領に正確に伝えなかったとして、政権発足23日後の今年2月13日に、事実上解任された。
大統領選にまつわるロシア疑惑を調べているムラー特別検察官の捜査陣は10月末、選挙戦中のトランプ陣営の外交顧問をFBIへの偽証罪で起訴したほか、トランプ選対元本部長を大統領選関連ではない資金洗浄罪で起訴した。ただし、短期間ながらトランプ政権幹部を一時的に務めた人物の起訴は、これが初めて。
11月下旬には米メディアが、フリン被告の弁護士がトランプ氏の弁護士に対し、捜査状況についてこれ以上情報交換はできないと伝達したと報道。被告が司法取引に応じたのではないかと取りざたされた。
起訴内容は
訴状によると、フリン被告は以下の罪に問われ、有罪を認めた。
- 2016年12月29日かそのころに、当時の駐米ロシア大使、セルゲイ・キスリャク氏に「米政府による同日のロシア制裁に反応して状況を悪化させないよう」求めたことについて、そのような要請はしていないとFBI捜査員に虚偽の供述をした
- キスリャク大使が後に、自分の要請を受けてロシアは制裁への反応を緩めていると伝えてきたことを、FBIに伝えなかった
- 2016年12月22日かそのころに、キスリャク大使に「近く採決される国連安保理決議について、採決を遅らせるか否決するよう」要請したことはないと、FBIに虚偽供述。このやりとりがあった日には、パレスチナのイスラエル入植地には「法的効力がない」と断定する安保理決議に、米国は拒否権を行使しないとオバマ政権が決定している
フリン被告に対する司法省の訴状
フリン被告が認めた内容
捜査協力を約束した司法取引の一環で被告は「罪状の声明」に署名している。そこから、2016年12月のロシアとのやり取りの時系列が明らかになった。特別検察官事務所によると――、
- 12月22日―非常に「高い地位にある」トランプ政権移行チーム首脳がフリン被告に、イスラエル入植地に関する安保理決議の採決について、ロシアを含めた外国政府に接触するよう指示
- 22~23日―被告はキスリャク大使に、決議案に反対するか採決を延期するよう要請。大使は翌日、ロシアは決議案に反対しないと回答
- 28日―バラク・オバマ大統領が大統領選介入への報復としてロシア制裁を決定した当日、キスリャク大使がフリン被告に連絡をとる
- 29日―フリン被告はフロリダ州のトランプ氏所有リゾート「マール・ア・ラーゴ」にいる政権移行チーム「首脳」に連絡し、大使への対応を協議。「ただちに」大使に電話をし直し、ロシアに過剰反応しないよう求め、再び政権移行チーム首脳に連絡する
- 30日―ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、米国にただちに報復措置をとらないと発表
- 31日―キスリャク大使はフリン被告に電話をかけ、ロシアの立場を伝達。被告は政権移行チームに連絡
トランプ大統領への影響は
フリン氏が今年1月にFBIに虚偽の供述をしてから今年2月に解任されるまでの間に、当時のサリー・イェーツ司法長官代行が大統領に解任されている。そのイェーツ氏は5月、上院司法委員会に出席し、フリン被告がロシアから脅迫され得る状態だったと宣誓証言した。
またトランプ氏に5月に解任されたジェイムズ・コーミー前FBI長官は、6月に上院情報委員会の公聴会で宣誓証言し、1月下旬にトランプ大統領に忠誠を求められたと証言。さらにフリン被告の解任直後には、大統領から被告の捜査を打ち切るよう要請されたと証言した。コーミー氏は3月下旬に下院情報委員会で、ロシア当局とトランプ陣営の関係を捜査していると証言。5月に解任された。司法省はそれから間もなく、ロシア疑惑の捜査にムラー特別検察官を任命した。
さらにフリン被告は捜査陣に対して、キスリャク大使との会話の前後に政権移行チーム関係者から、大使とどのように話をすべきか指示されていたと供述しているという。このことは、フリン被告が指示に背いて単独で動いていたという、トランプ氏自身の説明と食い違う。
BBCのアンソニー・ザーカー北米担当記者は、もしフリン被告が主張を裏付ける証拠を提出できるならば、「多岐にわたるこの捜査において過去最大の爆弾証言となる」と指摘する。
また、フリン被告は2016年にトルコ政府関係者の要請で働いていたこともあり、このため外国政府のロビイストとして事後登録させられている。トルコ政府との関係については11月半ばに米メディアが、トルコ政府がクーデター未遂首謀者だとみなすイスラム教指導者の誘拐計画に、被告が選挙後も関与していたという疑惑を伝えた。被告もトルコ政府もこれを否定している。
フリン被告は退役米陸軍中将で、オバマ政権下の国防情報局(DIA)長官だったが、組織運営を批判され、2014年に解任されている。その後、中東やアフガニスタン政策をめぐりオバマ大統領批判を繰り返した後、トランプ陣営に参画した。オバマ氏はトランプ氏の当選から間もなく、被告についてトランプ氏に警告していたという。