米軍、シリア化学兵器施設への攻撃開始 英仏合同作戦

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化学攻撃は「人間のやることではない」 シリア空爆発表のトランプ氏

ドナルド・トランプ米大統領は東部時間13日午後9時(日本時間14日午前10時)、ホワイトハウスでテレビ演説を行い、シリア・アサド政権の「化学兵器施設」に対する局所攻撃を命じたと発表した。首都ダマスカス郊外東グータ・ドゥーマに対してシリア政府軍が化学兵器を使用したと疑われている攻撃に対応するもので、英仏軍との合同作戦が「すでに始まっている」と述べた。国防総省によると、ダマスカスのほか、西部ホムス近郊の施設が標的になった。

トランプ大統領はホワイトハウスで会見し、アサド政権の「化学兵器使用能力に関連する標的」への局所攻撃を命じたと述べた。さらに、「シリア政権が禁止されている化学物質の使用をやめるまで、我々はこの対応を持続する用意がある」と強調した。

大統領は、攻撃の目的は「化学兵器の製造・拡散・使用に対して強力な抑止力を確立すること」だと説明。アサド政権が「化学攻撃をエスカレート」させ、ドゥーマに対する化学攻撃で罪のない市民を「大虐殺した」と断定し、それを命じたバッシャール・アル・アサド大統領について、「人間のやることではない。むしろ、化け物による犯罪だ」と強い調子で糾弾した。さらに、「犯罪的」アサド政権を支援するイランとロシアを非難し、アサド政権が化学攻撃を繰り返しているのは、ロシアがそれを容認しているからだと非難した。

トランプ氏は、イランとロシアに対して、「罪のない男性や女性や子供の大量殺人に関わっていたいというのは、いったいどのような国なのか」と問いただした。

大統領発表に続き、ジェイムズ・マティス国防長官とジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長が国防総省で記者会見した。会見でダンフォード議長(海兵隊大将)は、3つの標的を爆撃したと説明した。

  • ダマスカスの科学研究施設(生物化学兵器の製造に関わるとみられる)
  • ホムス西部の化学兵器保管施設
  • ホムス近くの化学兵器材料保管・主要司令拠点

シリア国営テレビは、政府軍は10基以上のミサイルを迎撃したと伝えた。

マティス長官は記者団に、撃墜された報告はないと述べた。大統領は攻撃継続の用意があると表明したが、国防長官は攻撃の第一波は終了したと述べ、「今のところ、これは一度限りの攻撃で、非常に強力なメッセージを相手に伝えたと思っている」と述べた。

シリア国営テレビはさらに、被害を受けたのはダマスカスの研究施設のみだが、ホムスでは民間人3人が負傷したと伝えた。

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シリア国内の空軍基地(Airbase)と化学兵器製造拠点と思われる施設(Suspected chemical weapons sites)、空爆地点(Airstrike)

国営シリア・アラブ通信(SANA)は、米英仏の攻撃を「はなはだしい国際法違反」と呼び、「シリアに対する米仏英の侵略は失敗する」と伝えた。

シリア大統領府は空爆から一夜明けた14日午前、午前9時に大統領府に出勤するアサド大統領の様子だという映像をツイートした。スーツ姿でブリーフケースを手にしたアサド大統領が歩いてくる様子を、「ゆるぎない朝」表現している。

シリア政府は一貫して、ドゥーマ攻撃への関与を否定している。

化学兵器禁止機関(OPCW)はドゥーマに調査団を派遣しており、14日にも現地調査を始める予定。

ロシア政府はアナトリー・アントノフ駐米大使を通じて声明を発表。「あらかじめ計画済みのシナリオが実施されている。またしても我々は脅されている。このような行動には代償が伴うと、我々は警告していた。その責任の全ては米政府、英政府、仏政府にある」と表明した。

ダンフォード議長は、米国はロシアの人的被害を「軽減する」標的を意識的に選んだと述べた。一方で国防総省は、空爆対象をロシアに事前通知した事実はないと説明している。

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「化学兵器の使用を正常化させられない」 メイ英首相

テリーザ・メイ英首相は英軍が参加していることを確認し、「武力行使に代わる実用的な選択肢がなかった」と述べた。一方で首相は、英米仏連合による攻撃は、シリアの「体制変換」を目指したものではないと慎重な姿勢を示した。

英国防省は、ホムス近くの軍事施設を、英トルネード戦闘機4機が空爆したと明らかにした。対象の施設は、化学兵器製造の材料を保管していたと考えられている。

エマニュエル・マクロン仏大統領も、仏軍の作戦参加を認め、「何十人もの男性、女性、子供たちが化学兵器で虐殺された」、「越えてはならない一線を越えてしまった」とアサド政権を批判した。

BBC外報プロデューサーのリアム・ダラティは、「ダマスカスからの映像に、対空ミサイルが発射される様子が映っている」とツイートした。

シリアは、ドゥーマを化学兵器で攻撃した事実はないと否定している。ロシアは、欧米諸国が軍事行動に出れば、戦争が始まるおそれがあると警告していた。

ドゥーマの住民や医療関係者、複数の支援団体は、7日の攻撃の結果、化学兵器の使用が疑われる症状で500人以上が治療施設に運ばれ、数十人が死亡したと主張している。

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シリアの化学兵器疑惑 子供たちにも被害

米軍は昨年4月、シリア北西部イドリブ県に対してサリンとされる化学兵器攻撃があったことを受けて、巡航ミサイル攻撃を実施した。

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トマホーク巡航ミサイル

米政府関係者はロイター通信に対して、今回の空爆ではトマホーク巡航ミサイルがシリア国内の複数の標的に使われていると述べた。同通信はさらに、ダマスカスにいる目撃者が「少なくとも6回の大きな爆発」が聞こえたと話していると伝えた。

シリア国営テレビも、ダマスカスへの爆撃があったと伝えた。国の防空システムが発動しているという。

ロンドンにある民間団体「シリア人権監視団」も、複数の軍事施設のほか、ダマスカスにあるシリア科学研究施設が爆撃されたと話している。

<解説> 今回は今までと違うのか――ジョナサン・マーカス防衛担当編集委員

画像提供, Reuters

米国による今回の攻撃は昨年4月のシリア空軍基地攻撃よりも重要な意味を持つが、トランプ大統領の口ぶりに比べると内容は限定的だったように今のところは思える。

昨年の攻撃では59基のミサイルが使われたとされる。今回は、その2倍強のミサイルが使われたという。

今回の空爆はいったん終わった。しかし、アサド政権がもし今後も化学兵器を使い続けるならば、シリアへの空爆も続くぞという明確な警告が発せられた。

米国は、シリア人と外国人(ロシア人の意味)の犠牲を避けるため、慎重に標的を選んだと説明している。

しかし、根本的な疑問は残る。これは、アサド大統領に対する抑止になるのか。

米国による昨年の空爆では、アサド氏の行動は変わらなかった。今回は何か変わるのだろうか。