キューバ、最高指導者ラウル・カストロ議長後継にディアスカネル氏指名

キューバ人民権力全国会議(国会)は18日、最高指導者ラウル・カストロ国家評議会議長(86)の後継として、議長の右腕を務めてきたミゲル・ディアスカネル国家評議会第1副議長(57)を単独候補者に指名した。キューバで1959年の革命政権誕生以来続いてきた、カストロ兄弟による統治が幕を閉じる。
カストロ氏は2006年、兄フィデル・カストロ氏の病気により権限を移譲され議長となった。
バラク・オバマ前米大統領時代に進んだキューバと米国の関係改善は、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任して以来、一部が巻き戻されている。
カストロ氏は議長引退後も、同国政権に強い影響力を維持するとみられる。
国会は後継決定の投票を終えたが、投票結果はカストロ氏がディアスカネル氏に議長権限を公式に移譲するとみられる現地時間19日までは発表されない。
カストロ氏は議長を退任するものの、共産党最高指導者にあたる第1書記の座には2021年の次期党大会まで留まり続ける。
次期最高指導者となるディアスカネル氏は、経済停滞中で変化を熱望する若い世代であふれる国を継承することになると、BBCキューバ特派員のウィル・グラント氏は伝えている。
ラウル氏と既に引退生活を送っており2016年11月に90歳で亡くなったフィデル氏のカストロ兄弟が実現してきた革命的な過去なしで国家を率いることには、複雑な課題もある。
ディアスカネル氏とはどんな人物か
2013年にキューバ国家評議会の第1副議長に選出された際には、ディアスカネル氏は比較的無名だった。しかしそれ以来、ディアスカネル氏はカストロ氏の重要な協力者となった。
この5年間、ディアスカネル氏は議長職と権力の継承者として準備を重ねてきた。しかし、同氏は第1副議長に指名された2013年以前から既に長い政治キャリアを積み重ねてきた。
ディアスカネル氏は1960年4月、フィデル・カストロ氏が首相となり権力を掌握した約1年後に生まれた。
同氏は電気工学を学び、20代前半でキューバ中央部にある都市サンタクララの共産青年同盟メンバーとなって政治キャリアを開始した。
地元の大学で工学を教えながら同盟内での地位を向上させていき、33歳で第2書記となった。
ラウル・カストロ氏はディアスカネル氏が「イデオロギー的に堅固」な部分を称賛している。
新議長は本当の変化をもたらすのか
ディアスカネル氏は、特にカストロ氏が強力な政治力を維持する間は、短期的に大きな変化を起こすことはないとみられる。
あらゆる変化は少しずつ、ゆっくりと起こるとみられている。
その一方でカストロ氏は、議長就任後に米国との関係改善などの改革を実施した。関係改善は兄フィデル氏の統治下では、あり得ないと思われていた変化だった。
ディアスカネル氏には、友好国ベネズエラの経済崩壊が引き起こした諸問題をいかに乗り越えるか、あるいはカリブ諸島がトランプ大統領下の米国とどんな種類の関係を望んでいるかなどが課題となる。
トランプ大統領は昨年、オバマ政権下で緩和されていたキューバに対する旅行や貿易への規制をわずかに強化した。しかし、主要な外交関係および商業関係は覆さなかった。
ただし、ほとんどのキューバ人は次期指導者について、自らの日々の生活が向上するかどうかで判断するだろう。
「今のところ、どんな未来が待っているかはわからない」とハバナ市内の教師、アドリアナ・バルディビア氏(45)はロイター通信に語った。
「ラウルの時代は終わり、フィデルの時代は歴史だ。キューバ人の生活を改善する出口は見えず、給料は変わらず、家計のやりくりはできないし、今はトランプが経済封鎖で圧力を強めている。想像してみてほしい」
ハバナの国営レストランで働くディアデニス・サナブリア氏(34)は、「自分は政治には強くないが」と前置きした上で述べた。
「議長交代が私の人生を変えるとは思わない」
キューバ国会における議員選出の仕組み
よく追認機関とみなされるものの、キューバ国会は現在、昨月の選挙で選ばれた議員605人を宣誓就任させるために開会中だ。
国会は、圧倒的な権限をもつ国家評議会の構成についても議決する。この国家評議会の議長が、国家と政府両方の長になる。
キューバは同国が世界で最も包括的で公正な選挙制度を有すると長い間主張しているが、批判者はこの主張をばかばかしいと指摘する。投票過程が、同国を一党支配する共産党によって完全に監視されているためだ。
3月の選挙では、605人の議員候補全員が対立候補のいない状態で出馬した。
<解説>カストロ・モデルの継承
ウィル・グラント ハバナ(キューバ)特派員、BBCニュース
ミゲル・ディアスカネル氏はいくつかの点で、キューバのこれまでとは違う。50代で、キューバ革命軍が政権を掌握した際には生まれてすらいなかった。
それでも同氏は、カストロ・モデルの延長も象徴する。特に政治的な意味において。
権限移譲が発表された時からキューバ政府は、政治的連続性の確保を強調してきた。そのせいで、議長交代による刷新の感覚は薄れている。
ラウル・カストロ氏の側近のうち、80歳代後半の少なくとも2人が国家評議会に残る。
少なくとも短期的には、最大の課題は経済だ。ディアスカネル氏は一般市民にとってインフレが起きないようにしながら、複雑な二重通貨制度に取り組まなければならない。
また同氏は、停滞する経済への活性化にも挑戦しなくてはならない。キューバ政府が国内に私企業を容認するかをめぐり、ささやかでも支持の方向性を示す合図として、新規民間事業免許の凍結を解除するかどうかが注目されている。
こうしたことを全て、カストロ兄弟が得ていた国民の支援なしに実行しなくてはならないのだ。ディアスカネル氏のやるべきことはすでに決まっているのかもしれない。