画期的な胚生産技術で「キタシロサイを絶滅から救える可能性」

ビクトリア・ジル BBCニュース科学担当記者

キタシロサイのオスの最後の1頭だったスーダンは、2018年3月に死んだ Image copyright Reuters
Image caption キタシロサイのオスの最後の1頭だったスーダンは、2018年3月に死んだ

ドイツ人科学者を中心とする国際研究チームが4日、メスのサイから卵母細胞を取り出すことに成功したとの研究結果を科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。この結果を受けて、世界で最も絶滅の危機に瀕している哺乳類といわれるキタシロサイの「破滅的」と思われる状況を体外受精(IVF)によって書き換えられる可能性があると科学者は主張している。

科学者らは、2頭の既に死んだオスから得た精子で、サイの胚を作る方法を用いた。

胚はキタシロサイに近い変種から採取した卵子を用いて作られるが、科学者はこの方法でキタシロサイを絶滅から救えるかもしれないと話している。

研究チームの1人は、完全なキタシロサイの子供が「3年以内に」生まれるのを期待していると述べた。

この研究は、既に(オスかメスのどちらかがいなくなったことで)機能的には絶滅した亜種を用いて、「価値ある種を救う」手段を提供する可能性がある。スーダンと名づけられた、キタシロサイのオスとして最後の1頭だった固体は、今年の初めに45歳で死んだ。

キタシロサイは現在、2頭のメスが残っているだけだ。しかしこの計画に従事する研究者は、自分たちが慎重に開発した補助つき再生産の手法が、貴重な2頭のメスから採取した卵子を使って実施できるとしている。

サイのIVFはどのように実施されるのか

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Image caption 研究者は超音波を頼りに、針を使って微小の卵母細胞を取り出した

ドイツのベルリンにあるライプニッツ保護動物および野生動物調査研究所のトマス・ヒルデブラント教授とその国際研究チームは、2トンの体重があるメスのサイから卵母細胞を安全に取り出す複雑な方法について科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで発表した。

「卵巣には手が届かない。だから、我々は特別な器具を開発した」とヒルデブラント教授はBBCニュースに説明した。「我々は卵子(を生み出している卵巣の部分)へごく正確に針を通すため、超音波を使った」。

この実験は全身麻酔をかけたミナミシロサイのメスで行われたが、実験過程はそれでも非常に危険性が大きい。ヒルデブラント教授の説明によると、卵巣の非常に近くに「巨大な動脈」があり、もし刺してしまうと、死に至るような大量出血を引き起こすだろうという。

ただ、生存能力のある卵子を一度安全に確保すると、研究チームには次に、数年前に死んだオスのキタシロサイから採取した精液を卵子に受精させるという挑戦が待っている。それぞれの卵子に精子を入れ、電流の振動を使って卵子と精子の融合を促す。

既に機能的に絶滅した亜種から得た遺伝子的素材を含む生きた胚は、こうした作業の結果得られる。

「この亜種には(絶滅の危機を脱する)希望はないと皆が考えていた」とヒルデブラント教授は述べた。「しかし今、我々の得た知識があれば、キタシロサイの卵子を用いた体外受精ができ、種を存続させるだけの個体数を生み出せると確信している」。

この研究でキタシロサイは戻ってくるのか?

研究チームはそう考えている。そして、キタシロサイを救おうとする努力に携わってきた世界中の人々が、これは重要な一歩だと述べている。

だがシンシナティ動物園のテリー・ロス博士は、3年以内に「新しい赤ちゃんが生まれる」だろうとの研究チームの示唆は「楽観的」と指摘した。

「サイにおける(代理母への)胚移植は研究の初期段階で、サイのどの種でもまだ成功したことがない」とロス博士はBBCニュースに語った。

「また、現在生きているキタシロサイのメスは2頭だけだ。なので、キタシロサイ(の卵子)を手に入れるのは困難で、その数も限られるだろう。おそらく生成された胚は全て、代理母となる個体が準備されるまで冷凍保存される必要がある」

なぜ生存するキタシロサイの数はここまで少なくなってしまったのか

サイの全ての種にとって、密猟が最大の脅威だとロス博士は説明した。

「サイを絶滅から守る最も有効な手段は、密漁を止めることだ。しかしそれは難しいと考えられている」とロス博士はBBCニュースに話した。

Image caption 絶滅の恐れがあるサイの5種をまとめた表。シロサイが「準絶滅危惧」、インドサイが「危急」と分類されているほか、クロサイ、スマトラサイ、ジャワサイは絶滅危惧種の中では最も危険性が高い「絶滅寸前」となっている

「1990年代後半には、野生のキタシロサイも少ない個体数から回復する望みがあった。コンゴ民主共和国で市民不安から暴動が勃発し、サイが全て殺されてしまうまでは」

生息環境の減少もサイにとって最大の脅威の一つだ。自然保護活動家は、公園や指定区の政府による保護が今は重要だと語る。

ロス博士は20年以上、サイの保護活動に携わってきた。「適切な法案が議会を通過されなければならない。規則を実行するための資源が供給されなければならないし、法律が守られなければならない」とロス博士は述べた。

「キタシロサイの窮状から学び、他の絶滅危惧種にはキタシロサイに起きたことが起きないようにするのが大切だ」

「科学の力は素晴らしいが、我々はこのような高度技術を用いた手法が、価値ある個体、亜種、あるいは種全体を救う希望の唯一の源になるような段階に至らないようにするべきだ」

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(英語記事 Embryo breakthrough 'can save northern white rhino'

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