メイ英首相、関税同盟めぐる親EU派攻勢かわす 下院で修正案否決

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英下院は17日、親欧州連合(EU)派の与党・保守党議員から出されていた通商法修正案を307対301で否決した。テリーザ・メイ首相はEU離脱後の貿易戦略をめぐる親EU派の攻勢をかわすことに成功した。

修正案は、EUと自由貿易協定が結ばれなかった場合に関税同盟の交渉を義務付ける内容だったが、政府は、関税同盟に残留すれば新たな貿易協定を結ぶことができなくなるとして反対していた。

BBCのジョン・ピエナール記者によると、保守党議員は採決に先立ち、政府の主張が通らなければ、内閣不信任案が提出される可能性があると語っていた。

しかし、これとは別に採決されたブレグジット後の医薬品規制に関する法案で政府は敗北。英国が欧州医薬品庁(EMA)の規制を維持するという、議員らが提出した修正案は305対301で可決された。

2つの採決で、保守党から12人の造反者が出たが、関税同盟をめぐる修正案では、労働党から4人が政府に同調した。

英国は2019年3月29日にEUを離脱することが決まっているが、EUとの関係が最終的にどのような形になるのかについては合意に至っていない。

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関税同盟では加盟国間での関税がなくなるほか、非加盟国からの輸入品には一律の関税がかけられる。

英下院では今週、関税同盟と通商に関する法案が審議されてきたが、政府案に対してはEU離脱派と親EU派の双方から修正を求める動きが出ている。

目玉の投票は関税同盟をめぐるもので、保守党のスティーブン・ハモンド議員が提出した通商法の修正案について議論が白熱した。

修正案は、2019年1月21日までに自由貿易圏について交渉がまとまらなかった場合、英政府は方針を変更し、関税同盟への加入協議の開始を義務付けていた。

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労働党はブレグジット後の関税同盟加入を支持したが、政府は関税同盟に入れば英国は独自の国際的な貿易協定が結べなくなると指摘した。

通商法をめぐる議論では、ある閣僚がハモンド氏と支持者を説得しようと試み、上院での法案審議でハモンド氏らの懸念の「本質」を取り扱うと約束した。

この提案はハモンド氏に拒否されたものの、政府は投票で過半数を獲得し、法案は下院で承認された。

投票では関税同盟と医薬品規制の両方でそれぞれ12人の造反者が出たものの、関税同盟に関する法案では野党・労働党からの4人の造反者に助けられた。

なぜ医薬品規制法案は可決された?

医薬品規制をめぐる採決は、テリーザ・メイ首相率いる政権にとって、ブレグジット関連の下院での投票としては2度目の敗北になる。

議員らはEU離脱後もEMAに参加するために「あらゆる手段を用いる」とする修正案を支持した。

EMAはEU圏内で流通する医薬品を評価・監督するとともに、各国医薬品当局の医薬品販売認可を助ける機関。現在はロンドンに本拠を置くが、英国のEU離脱後はオランダ・アムステルダムに移転することが決まっている。

医薬品をめぐっては、ブレグジットによって英国の患者への新薬供給が遅れるとの懸念が持ち上がっている。

政府の法案では、ブレグジット後にEMAへの「参加を模索」し、代わりに「適切な財務的貢献」を行うとしていた。しかし、「あらゆる手段を用いる」ことには合意していなかった。

法案可決を受けて政府は、「今回の修正案を検討し、上院で再び審議されるのを目指す」としている。

<解説>ローラ・クンスバーグBBC政治担当編集委員

政府は敗北をそう長く避けることできなかった。

昨晩の採決をかろうじて切り抜けたメイ政権だが、主要なブレグジット関連法案で2度目の敗北を喫した。

しかも医薬品規制で負けるとは政府は思ってもいなかったのだ。

ブレグジットについて自分の意見が言えるようにするため政務次官を退いたフィリップ・リー医師は、自ら英国とEMAのつながりを残すための修正案を提出した。これはブレグジット後に英国の患者たちのため、医薬品や新薬の円滑な供給を確保する修正案だ。

そして、リー氏は可決に必要な賛成票を得た。政府にとって気まずいのは間違いない。

下院で過半数議席を保持していないメイ首相が自らの法案を通すことの難しさを再確認させられる出来事でもあった。

これは深刻で、敗北は問題だ。しかし2つの理由から、完全敗北ではないといえるだろう。

ひとつは、この修正案は政府案と大きく食い違っているわけではないことだ。一筋縄ではいかなかったものの、政府は採決によって大きなUターンを迫られることはなかった。

さらに重要なのは、この後に続いた英国をEU関税同盟にとどめようとする法案の採決は、真逆の結果になったことだ。