カスピ海の領有権問題、沿岸5カ国が合意

True colour satellite image of the Caspian Sea in Asia. It is bounded by Iran, Russia, Kazakhstan, Turkmenistan and Azerbaijan. Image copyright Getty Images
Image caption カスピ海

カスピ海に面するロシアとイラン、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの5カ国は12日、カスピ海の領有権などについて合意した。同地域をめぐり20年以上続いた協議が決着した。

カザフスタン西部アクタウで開かれた会議に出席した5カ国首脳は、「カスピ海の法的地位に関する協定」に署名した。

協定にはカスピ海にある資源の分割方法や、他国の軍隊設置を防ぐことなどが盛り込まれた。

協定はこの地域の緊張緩和に重要な一歩となるが、世界最大の湖をめぐる合意はいくつかの理由で問題となっている。

1. カスピ海の法的地位は複雑化している

カスピ海を「海」だと仮定するのは筋が通っているかもしれない。しかし長年にわたる争議の中心は、この陸に囲まれた広さ37万平方キロの水たまりを湖と捉えるかどうかだった。

1991年にソビエト連邦が崩壊するまで、この問題はソ連とイランの間のものだった。

しかしソ連が崩壊し新興国が誕生したことで問題は複雑化し、次々と意見が出された。

イランはカスピ海を湖であり海ではないと主張したが、他の4カ国はこれに同意しなかった。

なぜこの違いが重要なのか?

カスピ海を「海」として扱った場合には、国際海事法「海洋法に関する国際連合条約」が適用される。

この条約は、国家が世界の海をどのように利用するかを定める、海洋資源の管理や領有権、環境といった領域を対象とした国際法。この条約下では海は沿岸国だけのものではなく、他国もその資源にアクセスすることが可能となっている。

一方、カスピ海を「湖」と定義した場合、沿岸5カ国で均等に分割される必要がある。

Image caption カスピ海と沿岸5カ国の位置

この問題について、12日の合意では別の決着方法が取られた。

ロシア高官によると、協定ではカスピ海を海とも湖とも定義せず、「特別な法的地位」に位置づけた。

水面は共有利用を可能とした。つまり、5カ国がそれぞれの領域を超えて自由に行き来できることになった。

一方、豊富な天然資源が眠っている海底は分割されることが決まった。

2. 勝ったのは? 負けたのは?

協定の最終的な内容が公表されていないため、勝敗を決めるのは難しい。

海底の境界線について交渉が行われていないことも、もう1つの重要な要素だ。ただ、以前のような多国間協議ではなく、二国間で合意することが決まっている。

しかしカスピ海が湖と定義されなかったことから、最も海岸線の短いイランが敗者になるとみられている。

イランのソーシャルメディアでは12日、政府がカスピ海を「売り払った」と非難する声が上がった。

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Image caption イランはカスピ海で最も短い海岸線を持つ

しかし、西側諸国から政治的・経済的圧力をかけられているイランとしては、あらゆる武力のカスピ海への設置を沿岸5カ国以外に禁じる条項を協定に盛り込めたことで、政治的な利益を得たと考えているかもしれない。

もしカスピ海が湖と定義されて分割されていたら、かねてカスピ海の大部分の領有を主張していたアゼルバイジャンとカザフスタンが損をしていたかもしれない。

このように、これまでの不一致は全て、誰が何を取るかに端を発していた。その理由を次に説明する。

3. 豊富な石油・ガス資源

カスピ海はその膨大な石油・ガスの埋蔵量で高く評価されている。

その海底には、500億バレル相当の石油と8兆4000億立方メートル近くの天然ガスが眠っていると推定されている。

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Image caption アゼルバイジャンのカスピ海沖に残るソ連時代の石油リグ

この広大な石油・ガス田の分割方法について、意見の相違が多く、激しく起きてきたのはこのためだ。ある時には、ライバル国の採掘業者を威嚇するために戦艦が派遣されたこともあった。

カスピ海の法的地位をめぐる不一致は、トルクメニスタンとアゼルバイジャンを結ぶ天然ガス・パイプラインの敷設を妨害してきた。このパイプラインが実現すれば、トルクメニスタンはロシアを通らずに欧州へ天然ガスを輸出することができる。

欧州への主要な石油・ガス輸出国であるロシアは以前、この計画に反対していた。

1990年代にカスピ海での開発に飛びついていた国際的な石油会社は、現在撤退している。

しかし12日の合意によって、開発の可能性が模索されるかもしれない。

4.カスピ海は世界的なキャビアの産地

カスピ海には様々な種類のチョウザメが生息している。チョウザメからは、珍味として名高いキャビアがとれる。

世界を流通するキャビアの80~90%がカスピ海産だが、ここ数十年で生産量が減少している。

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Image caption カスピ海はチョウザメの生息地として知られる

2002年に発表された調査では、チョウザメは急激に数を減らしており、間もなく絶滅する可能性があると発表された。

この調査ではまた、キャビアに使われる卵を産む成熟したチョウザメに比べ、未成熟のチョウザメが異常に多いことが確認された。

これ以降カスピ海では、チョウザメ漁や、より一般的なキャビア取引に関するさまざまな禁止令が敷かれた。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は12日、今回の合意で漁業に関する各国の割り当てが可能になったと話した。

5. 汚染が重要な問題に

カスピ海は長らく石油採掘やその他の産業による汚染に悩まされてきた。

国連のコーカサス環境見通しによると、石油汚染はチョウザメの移動ルートに影響を与えている。

同報告書によると、チョウザメはアゼルバイジャンのアブシェロン半島付近にある汚染度の高い水域を移動しており、この水域では食べ物や酸素が限られているという。

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Image caption アゼルバイジャンに面したカスピ海沿岸では、流出した石油が水面を覆っている

最近ではイランからの下水によるバクテリア汚染が問題となり、チョウザメに対する脅威が増加している。

大規模な石油流出やその他の汚染問題に対処できる当局がなかったことで、カスピ海の法的地位をめぐる論争は環境にとってもリスク要因となっていた。

(英語記事 Caspian Sea deal may end long-held claims

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