米政権幹部が次々に匿名「抵抗」論説を非難 自分ではないと

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複数のトランプ政権幹部は、匿名の論説をニューヨーク・タイムズに寄稿したのは自分ではないと表明した。写真は8月16日の閣議
ドナルド・トランプ米大統領の「最もひどい性向」から国を守るために一部の政権幹部が政権内で抵抗運動を繰り広げているとする、政権幹部を名乗る匿名の新聞論説について、複数の政権幹部が書いたのは自分ではないと表明している。
5日付の米紙ニューヨーク・タイムズ論説では、政権幹部だという匿名筆者が、「非道徳」で「衝動的」なトランプ大統領は理解不十分なまま無謀な判断を重ねているため、自分を含め一部の政権関係者は、大統領の「最もひどい性向」から国を守るため、大統領の政策目標の実現を部分的に阻止しようと画策しているのだと書いている。
この筆者がいったい誰なのか、憶測や推理がしきりに飛び交い、有力視されたマイク・ペンス副大統領など複数の政権幹部が、自分ではないと表明している。匿名の寄稿を掲載するという異例の動きに出たニューヨーク・タイムズでは、関わったごく一部の担当者が、筆者が誰か承知しているという。
トランプ大統領は、匿名論説など「根性なし」で、同紙は「うそくさい」と罵倒した。
米政権幹部が「自分は抵抗の一員」と米紙に トランプ氏「匿名など根性なし」
寄稿の最後に「lodestar(道しるべの道)」という、あまり使われない単語が出てくるため、これを何度か使ったことのあるペンス副大統領やその周辺の人間ではないかという憶測が飛び交った。これについて副大統領報道官は否定コメントを出し、匿名論説を「にせもので、非論理的で、根性なし」だと批判した。
他にも、マイク・ポンペオ国務長官は筆者を「不満たらたらでずるい、不誠実な人間」と非難し、「司令官の意図を実行することができないなら、自分の選択肢はただ一つ。辞めることだ。自分はそういう考えだ」と述べた。
スティーヴン・ムニューシン財務長官の報道官は、匿名論説は「無責任」だと批判し、カーステン・ニールセン国土安全保障長官の報道官は、「このような政治的攻撃は、長官や本省の使命にもとるものだ」とコメントした。
「抵抗の一員」
「私はトランプ政権内の抵抗の一員だ」と題された寄稿でこの筆者は、「私は大統領のために働いているが、同じ考えの同僚たちと共に、大統領の政策目標の一部や、特にひどい性向を阻止すると誓っている。なぜ私が知っているかというと、私もその1人だからだ」と書いた。
ニューヨーク・タイムズは、これを書いた政権幹部に匿名での掲載を求められ、新聞側としても読者に「重要な視点」を提供するのは不可欠だという判断から、匿名を受け入れたと説明している。
筆者はさらに、自分はリベラルの工作員ではなく、政権が追求する政策目標の多くに賛同しているが、実現しているものは大統領のおかげではなく、大統領がいるにもかかわらず形になっているのだと書いている。
論説によると、トランプ氏は衝動的で気まぐれで非道徳的。米国のためにその「見当違いの衝動」は抑制しなくてはならないのだと、論説は主張する。
「この混沌とした時代に、大した慰めにはならないかもしれないが、現場には大人たちが同席しているのだと米国民は知っておくといい。何が起きているのか、我々は十分承知している。そしてたとえドナルド・トランプが正しいことをやろうとしなくても、我々がそうしようとしている」と筆者は書いている。
ホワイトハウスの反応は
論説を受けてトランプ氏は、「国家反逆罪?」とツイートした。
さらに大統領は、「いわゆる『政権幹部』とやらは実在するのか、それとも単にうまくいっていないニューヨーク・タイムズがまた、うそくさい情報源を使っただけか? もし根性なしの匿名の人間が実在するなら、タイムズは国家安全保障のために、ただちにその人間の正体を政府に明かさなくてはならない!」と書いた(太字は原文で大文字強調)。
サラ・ハッカビー・サンダース報道官は直ちに、「この記事を書いた当人は、正規に選挙で選ばれた合衆国大統領を支援するのではなく、だますことを選んだ。この人物は国を第一にするのではなく、米国民の意思よりも自分自身と自分のエゴを優先させている」と批判コメントを発表。報道官はさらに、書いたのが誰かニューヨーク・タイムズに問い合わせるようにと呼びかけ、電話番号をツイートした。
ファーストレディのメラニア夫人は、「他人の問題行動を批判するだけの勇気があるなら、自分の発言を堂々と公の場で主張する責任がある」と批判コメントを発表した。
なぜ大事なのか
ニューヨーク・タイムズが問題の論説を掲載する前日には、米紙ワシントン・ポストが、高名なボブ・ウッドワード記者による政権暴露本の抜粋を公開したばかりだった。ウォーターゲート事件の調査報道などで知られるウッドワード記者は、9月11日発売の新著「Fear: Trump in the White House(恐怖:ホワイトハウスのトランプ)」で、トランプ政権の現職や元職の側近たちが、大統領が署名しないよう重要書類を隠したり、大統領の要求とは異なる行動をとっていた様子を繰り返し書いている。
ウッドワード記者はさらに、政権幹部がトランプ氏を「ばか者」や「うそつき」などと呼んでいると書いた。
この本をトランプ氏は「詐欺だ」と非難し、他の政権幹部もウッドワード氏の本の内容を次々と否定していた。その矢先に、ニューヨーク・タイムズが政権内の「抵抗の一員」によるものだという論説を掲載した。
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ウッドワード氏は米国で最も尊敬される記者の1人
ニューヨーク・タイムズ論説の中で特に注目されるのは、「政権発足当初は、閣僚の中に憲法修正第25条の発動をささやく者もいた」という箇所。憲法修正第25条を発動すると、副大統領と閣僚の過半数が議会への申し立てを通じて、「職務の権限と義務を遂行できない」大統領を解任させられる。
選挙で選ばれた大統領の意向を政権幹部が阻止しようとしている可能性については、政権外からも懸念の声が上がっている。共和党系コメンテーターのデイヴィッド・フラム氏は米誌アトランティックに、「憲政上の危機」だと書いた。フラム氏はジョージ・W・ブッシュ政権の演説ライターで、日ごろからトランプ氏を激しく非難している。
しかし、この論説についてフラム氏は、「この筆者は、合衆国の政府を今まで以上に危険な混乱状態に落としこんだ」、「大統領の被害妄想に火をつけて、大統領のわがままぶりを後押ししてしまった」と書いている。
同じようにトランプ氏を強く非難し、トランプ氏に国家機密情報の閲覧権限を停止されたジョン・ブレナン元中央情報局(CIA)長官は、論説記事は「国への忠誠心から生まれたもの」だが、「れっきとした不服従行為だ」と呼んだ。
ほかにも、11月の中間選挙を前に、トランプ大統領への評判から共和党を守ろうとする動きなのではないかとの憶測も出ている。
関与を否定した政権幹部は
- マイク・ペンス副大統領
- ジェイムズ・マティス国防長官
- マイク・ポンペオ国務長官
- ダン・コーツ国家情報長官
- スティーヴ・ムニューシン財務長官
- カーステン・ニールセン国土安全保障長官
- ベン・カーソン住宅都市開発長官
- ジェフ・セッションズ司法長官
- ニッキー・ヘイリー国連大使
- マイク・マルヴェイニー行政管理予算局局長
- ロバート・ウィルキー退役軍人長官
- アレックス・アコスタ労働長官
- ジーナ・ハスペルCIA長官
- リック・ペリー・エネルギー長官
- ケリーアン・コンウェイ顧問
- アンドルー・ウィーラー環境保護庁長官
- ソニー・パーデュー農務長官
- リンダ・マクマーン中小企業庁長官
- アレックス・エイザー保健福祉長官
- エレイン・チャオ運輸長官
- ウィルバー・ロス商務長官