涙の被害証言と完全否定 米最高裁判事候補の性的暴行疑惑で主張対立

Brett Kavanaugh and Christine Blasey Ford Image copyright Getty Images
Image caption 最高裁判事候補キャバノー判事(左)と、同判事による性的暴行被害を訴えるフォード教授が27日、上院司法委員会で証言した

ドナルド・トランプ米大統領に連邦最高裁判事として指名され上院の承認を待つブレット・キャバノー高裁判事(53)に対して、3人の女性が性的暴行被害を主張している問題で27日、被害を訴える女性とキャバノー判事がそれぞれ上院司法委員会の公聴会で宣誓証言した。クリスティーン・ブラジー・フォード教授(51)が、自分を強姦しようとしたのはキャバノー氏だと「100%」確信していると言明したのに対し、キャバノー判事はこれを全面否定した。

カリフォルニア州パロアルト大学で心理学を教えるフォード教授は、1982年にキャバノー氏に襲われたと名乗り出て公聴会で証言することになった心境について「怖くてたまらない」と述べながら、15歳のときの経験によって自分の人生が「激変」してしまい、長い間、「恐怖と恥ずかしさ」にさいなまれたと、時に涙をこらえながら語った。

自分を強姦しようとした人物がキャバノー氏だったという記憶に間違いはないかと質問されると、フォード教授は「100%」間違いないと即答した。

Image caption 上院司法委員会の公聴会で宣誓するフォード教授(27日、ワシントン)

フォード教授の後に証言したキャバノー判事はこれに対して、複数の性的疑惑が取りざたされたことで自分と家族の生活は破壊されたと、激しい口調で涙ながらに訴え、フォード教授がつらい経験をしたこと自体は否定しないものの、自分は他人を性的に暴行したことなどまったくないと完全否定した。

公聴会の様子をホワイトハウスで注視していたとされるトランプ大統領はその後、キャバノー判事を最高裁判事として承認するのか上院は「投票しなくてはならない」とツイートで促した

現在の最高裁判事はすでに保守派5人、リベラル4人で、保守派が優勢な構成になっている。最高裁判事の任期は終身なだけに、最高裁判事たちの政治的傾向が圧倒的に保守寄りになった場合、その判決はトランプ氏の任期満了後も長く米社会に影響を及ぼすことになる。

米国の最高裁は市民生活に重要な影響力を持つ。人工中絶、死刑制度、投票権、移民政策、政治資金、人種偏向のある警察の行動など、激しい賛否両論のある法律について最終判断を示すほか、連邦政府と州政府の争いごとや、死刑執行停止の請求などについても最終判断を示す。

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「市民としての義務」とフォード教授

最高裁判事候補に10代のときに暴行されたというフォード教授の主張が明らかになって以来、教授が公の場で発言するのはこの日の公聴会が初めてだった。

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「間違いありません」 性的暴行被害を証言したフォード教授

宣誓後の冒頭発言でフォード教授は、揺れる声や表情を押さえながら、「私が今日ここにいるのは、自分がそう希望したからではありません。怖くてたまりません。私がここにいるのは、ブレット・キャバノーと私が高校に通っていた当時、自分の身に何があったかお話するのが、自分の市民としての義務だと信じているからです」と切り出した。

教授はさらに、36年前の夏にワシントン郊外の一軒家で複数の若者が集まった際、当時17歳のキャバノー氏が友人マーク・ジャッジ氏と共に、2階のトイレに行こうとしていた当時15歳の自分を寝室に押し込み、ベッドに押し倒して服を脱がそうとした上、大音量で音楽を鳴らし、助けを求めた自分の口を手で押さえたと証言した。

自分を暴行しようとしながら男性2人は「酔って笑っていた」と教授は語り、「ブレットに襲われたことで私の人生は激変しました。とても長いこと、私はあまりに恐ろしくて恥ずかしくて、誰にも内容を話せなかった」と説明した。

野党・民主党の上院議員に、一番鮮明な記憶は何かと質問されると、心理学を教えるフォード教授は「海馬から決して消えないのは、2人の笑い声。けたたましい笑い声です。2人は私を犠牲にして、楽しい思いをしていた。私は2人のどちらかの下にいて、2人は友人同士、笑いあって楽しいときを過ごしていた」と答えた。

フォード教授を襲ったのは別の人物だという説も出ていることを念頭に、別の上院議員が「相手はキャバノー判事だったとどれくらい確信しているか」と質問すると、教授は「100%」確信していると即答した。

教授はさらに、自分の経験が表ざたになって以来、自分や家族が殺害予告などの脅迫を受け、安全確保のために自宅を離れざるを得なかったことなども話した。

司法委員会の委員21人は各自、5分の質問時間を与えられた。民主党議員10人は口々に、フォード教授の勇気を称賛した上で、自分の主張内容を連邦捜査局(FBI)に詳しく捜査して欲しいと求める教授の要望に賛同した。

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Image caption 男性のみの共和党委員の代わりに、ミッチェル検事がフォード教授に質問した

共和党議員11人は全員が男性で、アリゾナ州のレイチェル・ミッチェル検事が質問を代行した。検事は主に、フォード教授の証言の整合性を確認する質問を繰り返したほか、教授の弁護費用や議会に結果を提出したポリグラフ検査の費用の出所などを尋ねた。教授の弁護団は、無料奉仕として弁護に当たっていると説明した。

「誰も暴行などしていない」と判事

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Image caption キャバノー判事は激しい口調で疑惑を否定した

フォード判事の証言と質疑が終わった後、キャバノー判事が公聴会に出席した。判事は宣誓の後、声を荒げながら興奮した面持ちで、自分の潔白を涙ながらに力説した。

「この承認手続きは、国として実にみっともないものになってしまった」と判事は強調し、特に「7月に自分が最高裁判事に指名されて以来、左派は狂ったように、なんとしても私の承認を阻止しようと、何でも良いので何かを見つけようと必死だった」と、民主党を非難した。

その結果、一連の性的暴行疑惑によって自分の名誉は傷つき、家族の生活は破壊されたが、威圧によって指名辞退に追い込まれるなどあり得ないと強調した。

「最後の投票で私を破ったとしても、私は決して自分からやめたりしない。絶対に」とキャバノー判事は力説した。

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「私は無実だ」 キャバノー判事と共和党、激しく反撃

判事はその上で、自分も家族もフォード教授に悪意は一切抱いていないと繰り返し、10歳になる娘が「相手の女の人のために祈ろう」と言ったと語ると、涙でしばらく声をつまらせた。

フォード教授が誰かにどこかで襲われたというのは本当なのだろうがと同情を示すと共に、「私はフォード博士を性的に暴行など決してしていない。誰に対しても決してしていない」と断言した。

判事は自分が高校時代に確かにビールを飲んだことはあるし、今もビールはとても好きだが、飲みすぎて記憶を失ったことなどないと述べた。

さらに証拠として提出した当時の予定表に言及し、そこに書かれた内容からも、自分が問題のパーティーに参加していないことが分かると語った。

野党・民主党議員たちの厳しい質問には、自分は潔白だと強い調子で繰り返した。

司法委の筆頭民主党委員、ダイアン・ファインスタイン議員をはじめ複数の民主党議員が、なぜフォード教授の証言内容についてFBI捜査を要望しないのか尋ねると、自分は司法委の判断に従う用意はあるが、FBI捜査は結論を出さないので意味がないと反論した。

他の女性告発

フォード教授のほかに、イェール大学でキャバノー判事の同級生だったデボラ・ラミレス氏が、1980年代に大学寮のパーティーで、キャバノー氏が性器を露出して自分の目の前につきつけたと表明している。

さらに3人目の女性が26日、1982年にキャバノー氏も参加していたパーティーで複数の男子学生に強姦されたと名乗り出た。

マイケル・アベナッティ弁護士が司法委の承認担当法務顧問に提出した宣誓供述書で、ジュリー・スウェトニク氏は、1980年代初めにワシントン郊外のハウスパーティーで知り合ったキャバノー氏とジャッジ氏は、酔って女性をなじったり、体を押し付けたり、服を脱がせたりしていたと述べた。さらにそうしたハウスパーティーでは、キャバノー氏らが若い女性の飲みものに薬を入れて意識不明にさせた上で複数の男子学生が強姦することが横行しており、自分も1982年にその被害に遭ったと供述。その場にはキャバノー氏もいたと主張している。

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Image caption ジュリー・スウェトニク氏

さらに、匿名の女性がコロラド州選出のコーリー・ガードナー上院議員(共和党)にあてて手紙を送り、キャバノー氏が1998年に女性を「とても激しく、性的に」壁に押し付けるのを自分の娘が見ていたと伝えた。

キャバノー判事はいずれの内容も全面的に否定している。

トランプ大統領の対応は

休憩を挟みながら約8時間に及んだ公聴会が終わって間もなく、トランプ大統領はツイッターで、「なぜ僕が彼を指名したのか、まさにその理由をキャバノー判事は米国に披露した。その証言は力強く、正直で、釘付けになる内容だった。民主党の探索・破壊戦略は実にみっともないもので、このやりとりは完全なでたらめ、時間稼ぎをして妨害して抵抗するためのでっちあげ工作だった。上院は投票しなくては!」と書いた。

最高裁判事の承認には、まず上院司法委員会が本会議に承認の動議を提出するか採決した後、本会議(定員100)が投票する。過半数の賛成を獲得すれば、候補は終身の最高裁判事となる。

現在の司法委は28日にも採決を予定しているが、チャック・グラスリー委員長(共和党)は延期の可能性について含みを残している。

司法委の民主党委員10人全員は、トランプ大統領にキャバノー氏の指名を「ただちに撤回」するよう求めている。

米政界では11月6日に連邦議会の中間選挙が予定されており、民主党が下院の過半数を奪還する可能性がある。共和党は中間選挙の前に、保守派判事を最高裁に送り込みたい構えだ。

一方で、キャバノー判事が承認された場合、女性票の行方に影響が出る可能性もある。1991年には保守派のクラレンス・トマス判事についてセクハラ疑惑が浮上し、告発者アニタ・ヒル氏が今回のように上院で証言したが、トマス判事は承認された。するとその翌年の連邦議会選挙では、女性議員の数が一気に倍増したという前例がある。

<解説> 米国社会の対立点そのもの――ジョン・ソープルBBC北米編集長

今回の最高裁判事指名がいかに激しい感情や陰謀論、不信感と分裂をもたらしたか、十分に説明するのは難しい。

今の状況を理解するには、最高裁について2つの点を押さえる必要がある。まず判事の任期は終身だ。そして、米国の市民生活で特に対立の激しい問題(1950年代の学校人種隔離政策から人工中絶の合法化、銃規制に同性結婚など)について最終的な決定権を持つのは、政治家ではなく最高裁なのだ。

投票結果でもめにもめた2000年の大統領選で、最終的に勝者はジョージ・W・ブッシュだと判定したのも、最高裁だった。

要するに何でもかんでも、決めるのは最高裁なのだ。

2016年大統領選では、共和党員の多くがくさいものにフタをして、鼻をつまみながらドナルド・トランプを支持した。なぜかと言うと、保守派が圧倒的に優勢な最高裁を今後何十年もこれで確保できると、自分たちの長年の夢がこれで実現すると期待していたからだ。

その悲願が実現を目前に失われつつあると、保守派は恐れている。

そしてブレット・キャバノーを告発する女性たちが、このぎりぎりのタイミングで出現したことをとらえて、共和党関係者の多くは(そのほとんどが男性だ)、女性たちの訴えは正当なものではなく、民主党発の陰謀だと受け止めている。

50年にわたり米国社会でふつふつと煮えたぎってきた文化的対立は、実に稀有な局面で発火した。文化的保守派がMeToo運動と衝突したのだ。

そして、キャバノー判事と女性たちは、この戦いの巻き添えになったに過ぎない。

今日の公聴会の余波は、今後長いこと続くはずだ。

(英語記事 Brett Kavanaugh denies Christine Blasey Ford sex assault claim

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