ロシア人女性活動家、司法取引で罪認める 米大統領選中の共謀罪

マリア・ブティナ被告は7月以降、ヴァージニア州の成人向け拘置所で勾留されている Image copyright Reuters
Image caption マリア・ブティナ被告は7月以降、ヴァージニア州の成人向け拘置所で勾留されている

ロシア政府の工作員として働いた疑いでアメリカで起訴されたロシア人女性マリア・ブティナ被告(30)が、米検察当局との司法取引に合意し、罪を認めた。ブティナ被告は、アメリカ政治に対する影響力を手にするため、政治団体に浸透しようとした罪で起訴された。

銃所有権支持の活動家だったブティナ被告は、ワシントン(コロンビア特別区)連邦地裁で共謀罪1件について有罪を認めた。

被告は、ロシア政府に有利になるよう米政治に影響を与えるため、全米ライフル教会(NRA)に入りこもうとしたとされる。

ブティナ被告は当初、無実を主張していた。被告は7月に逮捕されて以来、ヴァージニア州の成人向け拘置所で勾留中。

ブティナ被告は、捜査当局への協力にも合意した。この司法取引により、米政治にロシアがどう介入しようとしたのか情報が得られると、検察当局は期待している。

<関連記事>

ロイター通信によると、被告側のロバート・ドリスコル弁護士は、被告は最長で禁錮6カ月を言い渡される可能性があると見ている。判決言い渡しは来年2月12日。

ドナルド・トランプ氏の勝利を確実にするため、2016年の米大統領選にロシアが介入したとの疑惑をロバート・ムラー特別検察官が捜査しているが、ブティナ被告の事件はこの捜査とは関係していない。

マリア・ブティナ被告とは

ブティナ被告のフェイスブックページによると、被告は1988年、ロシア・シベリア連邦管区南部のバルナウルで生まれた。子供の頃から武器を使うのが好きで、初めて銃を手にしたのは10歳の時だったという。

2011年にはロビー団体「Right to Bear Arms(武器を持つ権利)」をロシアで設立。単発式銃火器の市民への販売の合法化を求めて活動した。

被告はその後、NRA集会に参加するためアメリカ各地を旅行し始める。2015年にはラスヴェガスで開かれたトランプ陣営の選挙集会に参加し、ロシア制裁についての意見をトランプ氏に尋ねている。

ブティナ被告は2016年までに学生ビザを取得し、ワシントンにあるアメリカン大学の修士課程で学び始めた。

ブティナ被告の罪状

連邦検察によると、被告はロシア政府高官から、アメリカの保守系政治団体に入り込むよう命令されていた。NRAと名指しはされていないものの、NRAと思われる銃所有支持派のロビー団体も含まれる。NRAはトランプ氏率いる共和党に近い。

お使いの端末ではメディアプレイバックはご利用になれません
米NRAの政治力 乱射事件が相次いでも規制進まず

法廷で読み上げられた声明で、連邦検事の1人は、「ディプロマシー・プロジェクト(外交計画)」と呼ばれる書類の草案をブティナ被告が2015年3月に作成したと述べた。この書類は、アメリカ政府とロシア政府の高官間に非公式の連絡網を作るよう求めるもの。

ブティナ被告は、アメリカ人2人、そしてロシア当局者1人と協力していたと認めた。

Image copyright William Hennessy Jr
Image caption 検察との司法取引に応じ、マリア・ブティナ被告は罪を認めた

米CNNはこのロシア国籍の人物をアレクサンデル・トルシン氏だと割り出した。トルシン氏はロシア中央銀行の元副総裁で、アメリカによる制裁の対象になっていた。

米メディアによると、アメリカ人2人のうち1人はサウスダコタ州を拠点とする保守系政治活動家のポール・エリックソン氏。エリックソン氏はブティナ被告と交際していたという。公的記録によると、エリックソン氏は56歳。同氏の弁護士はコメントしていない。

特殊利益団体での仕事と引き換えに被告が性行為を提供していたという主張については、検察は先週の時点で放棄した。判事はこの主張を、「わいせつできわどい」ものだと呼んでいた。

検察当局は法廷で、友人同士のメールを自分たちが「誤読」したと説明していた。

検察側によるこの「誤読」など複数の誤認の積み重ねが理由となり、ブティナ被告に司法取引の機会が与えられたのではと言う専門家もいる。

ロシア政府は過去に、この問題を「でっちあげだ」と呼んでいた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官はCNNのインタビューで、ブティナ被告が勾留中に「拷問された」と述べた。また、ロシア政府はブティナ被告を「政治囚」だと考えているとも話した。拷問の証拠は一切提示しなかった。

<解説>大きなパズルの1ピース――アンソニー・ザーカー(ワシントン)

ある意味でマリア・ブティナ被告は、ワシントンに大勢いる若くて野心的で意欲的な活動家と同じだった。権力と地位を手にするため、ネットワークを広げようとしていたのだ。ただし、ブティナ被告はロシア国籍で、影響力あるロシア高官と連絡しながら、その利益を増やすために活動していた点が、ほかの政界関係者とは大違いだった。

ブティナ被告がしていたことを、米政府に登録しないまま行うのは、連邦法違反の犯罪だ。そして今、ブティナ被告は有罪判決と強制退去処分を受けることになった。

司法取引で明らかになった事件の詳細は、スパイ小説的とは言いがたい。ワシントンで権威ある祈祷集会にロシア代表団が参加できるよう手配したり、NRA集会で会員と楽しく交流したり、アメリカの銃所有権活動家のモスクワ旅行を手配した。米保守層とのこうした「非公式な連絡」は、個別の単独事案だけだったなら、米ロ関係の改善には役立ったかもしれないが、特にひどい不正行為ではなかった。

しかし、2016年米大統領選を左右しようとしたロシアの取り組みが、ロバート・ムラー特別検察官の捜査で次第に明らかになってきているのが現状だ。民主党メールサーバーのハッキング、ソーシャルメディアでの違法活動、政治集会や抗議行動への資金提供と運営――。ロシア当局がこうした活動を広く展開していたとされる全体像の中に、ブティナ被告の有罪陳述がパズルのピースのように当てはまる。たとえ小さいピースだとしても、はるかに大きいパズルにおいて、大事な意味をもつようになるのかもしれない。

(英語記事 Maria Butina: Russian activist pleads guilty in US

関連トピックス

この話題についてさらに読む