英経済界、ブレグジット政局に「恐怖」 時間切れを懸念

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イギリスの複数の業界団体が、欧州連合(EU)離脱をめぐる議会の内輪もめを「恐怖の思いで」見つめていると批判した。特に、離脱条件についてEUとの合意がないまま来年3月29日の離脱期日を迎えた際の準備ができていないと警告した。
ブレグジット期日まで100日となった19日、英商工会議所(BCC)と英産業連盟(CBI)、製造業の業界団体「エンジニアリング事業者連盟(EEF)」、小企業連盟、英取締役協会(IoD)は共同声明を発表。「政治家はビジネス活動の前進に必要な実務的取り組みではなく、派閥争いに集中している。その様子を企業は、恐怖の思いで見つめている」 と表明した。
「ウェストミンスター(英政界)で進展が見られないということは、合意なしブレグジットの危険性が高まっているということだ」と声明は懸念を示している。
共同声明を発表した5団体は、イギリスの企業数百社を代表している。
声明は、離脱協定をめぐる協議に進展がない以上、政府は「合意なしの場合の計画を推進しなくてはならない段階にきている」と指摘した。
しかし、「たった100日では深刻な混乱と分断を防ぐことができないのは明らかだ」と述べ、「これは我々がいるべき段階ではない」と警告した。
イギリス政府は18日、国内の企業14万社に書簡を出し、合意なしブレグジットに向けた緊急時対応計画を開始するよう求めた。
また、21日には100ページにおよぶ資料を企業に配布する予定だ。
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イギリスとEUは11月に離脱の条件をまとめた離脱協定と、将来の関係性を示した政治宣言に合意したが、これが施行されるにはイギリス議会での承認が必要となる。
議会は今月11日に採決する予定だったが、テリーザ・メイ首相は協定が否決される公算が高くなったことを受け、採決を1月まで延期するなど、議会は紛糾(ふんきゅう)」している。
内閣は18日、合意なしブレグジットの準備を進めるために閣議を開いた。
しかし業界団体は、「合意なしの離脱」を制御できるという考え方に根拠はないと指摘している。
緊急時対応計画
業界団体はさらに19日の共同声明で、イギリス企業は現在、投資や生産性向上ではなく、合意なしブレグジットに向けた緊急時対応計画に資金を割かなくてはならなくなったと指摘した。
「まだこうした準備を始めていない企業が何十万社とある。また、これほど短い期間で準備ができるとも思えない」
会計事務所大手KPMGのイギリス代表ジェイムズ・スチュワート氏は、ここ数週間でブレグジットをめぐる顧客の活動が活発化してきている一方、「準備がほとんどできていない企業が五万といる。その中には、従業員に対してこの先何が待っているのかを説明していない企業もたくさんある」と話した。
「さらに心配なのは、ブレグジットについてほとんど何もしていない大企業もいくつか残っていることだ」
メイ首相の報道官は、EU離脱まで3カ月強となった今、「準備を本格化させなくてはならない段階に達した」と話した。
報道官はさらに、企業も「何が必要かそれぞれ判断し、合意なしブレグジットに備えた計画」を準備するべきだと述べた。
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CBIのキャロライン・フェアバーン事務局長も、他の業界団体とともに政府の内紛を批判した
一方で欧州委員会は、いくつかの領域でブレグジット後も一時的に現状維持を可能にするため、条例を発表する予定だ。
この条例ではデータ保護、動植物衛生、関税、気候政策、一部の金融商品、在EU英国民の権利といった8領域が対象となる。
もしイギリスがEUとの合意なしで離脱した場合、この条例が2019年3月29日から、最長で2019年末まで適用される。
その他のブレグジットをめぐる動きは以下の通り。
- EUも合意なしの離脱を含めたブレグジットへの備えを進めている。欧州委員会は、いくつかの領域で一時的にも現状を維持できるよう定めた条例を発表する予定
- スコットランド国民党(SNP)を初めとするイギリスの野党勢力が英政府に対して不信任案を提出した。しかし政府は、影の首相(最大野党の党首を指す、現在はジェレミー・コービン労働党党首)の名義で提出された不信任案しか審議しない方針だ
- メイ首相はロンドンでスコットランドおよびウェールズの自治政府首相と会談し、離脱協定を指示するよう求める予定
- 下院の決算委員会は、政府が合意なしのブレグジットになった場合に向けた医薬品供給を十分に確保していないと発表した
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