EUも合意なしブレグジットの準備開始 欧州委が対策発表 

Family at Heathrow airport

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欧州委員会は19日、英国が離脱条件で合意せずに欧州連合(EU)から離脱するいわゆる「合意なしブレグジット(イギリスのEU離脱)」に向けた準備を進めると発表した。

欧州委は合意なしブレグジットの影響を緩和するための一時的な対策を発表したものの、予想される全ての問題には対処できないとしている。

イギリスのテリーザ・メイ首相は11月にEUと離脱協定を取りまとめたものの、議会承認が得られるかどうか不確定な状態が続いており、イギリス・EU双方で最悪のシナリオに向けた準備が始まっている。

イギリスは18日、合意なしブレグジットに向けて20億ポンド(約2850億円)の準備予算を計上する。

欧州委が発表した対策は、イギリスが合意なしで来年3月にEUを離脱した場合に、金融や運輸と言った主要領域での弊害を限定するもの。

しかし、欧州委は声明で「これらの対策は『合意なし』シナリオによる全ての影響を軽減するものではなく、それは不可能だ」と説明した。

欧州委員会のユーロ問題担当副委員長、ヴァルディス・ドムブロフスキス氏は記者会見で「これはダメージを抑制するための施策」であり、「イギリスで続く不透明感を受けて」緊急対応計画が必要になったと話した。

EUの合意なしブレグジット対策は?

欧州委は、複数の領域で現状が維持できるよう14項目の条例を発表した。

この条例ではデータ保護、動植物衛生、関税、気候政策、主要な金融商品といった8領域が対象となる。

条例の内容の一部は以下の通り――。

  • イギリス発EU加盟国着の航空便、あるいはEU領空を通過する航空便は向こう12カ月間、「基本的な接続性」が維持される
  • 陸運業者は向こう9カ月間、認可なしでEU域内に荷物を輸送できる
  • デリバティブ(金融派生商品)の取引など一部のイギリスの金融サービス規制は向こう1~2年間、EUの規制と同等に扱われる

欧州委は併せて、合意なしブレグジットとなった際には在EU英国市民に「優しい」対応を行うよう、加盟各国に呼びかけた。「こうした対応は英国側でもお返しされるので」と理由を説明している。

一方で、これらの施策はEU市民権や、離脱協定に示された移行期間と同党ではないと釘を刺した。

また、施策は期限付きで、英国の同意なしで終了することができる。

さらに、合意なしブレグジットとなった場合のリスクとして以下の問題を示した。

  • イギリスから輸出される家畜はすべて検査の対象となり、またイギリス・EU間で関税の申請が始まるため、モノの移動に遅れが生じる
  • 現在と同じ条件での航空網継続は保証されない
  • イギリス国内の金融サービスは、単一パスポート制度によるEU加盟国でのサービス提供権を失う
  • イギリス在住のペット飼い主が持つEUのペット・パスポートは無効となる

EU提案はイギリスに有利なものではないと、EUは強調するはずだと、BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は指摘する。

一連の施策は、合意がまとまらなかった場合にブレグジットによる最悪の影響から、EU加盟国を守るためのものだという。

イギリス国民への影響は?

欧州委によると、EU加盟国への滞在が90日未満の場合は、イギリス国民がビザ(査証)を取得する必要はないとしている。

一方、90日以上滞在する場合は在住許可か長期滞在ビザが必要となる。

欧州委はEU各国に、イギリスが離脱する2019年3月29日までに一時的な居住証明書類を発行できるよう、あらゆる法的措置や行政手段を取るよう要請した。

さらに欧州委は、EU加盟国に5年以上住んでいるイギリス国民には、一定の条件下で長期滞在許可を与えなくてはならないとした。

欧州委対策には、EUの決定権の限界が反映されている。合意なしブレグジットの場合、在EU英国民の扱いはEUではなく各国が主権の範囲内で決めることなだけに、欧州委の提案をどう実施するかは各国次第となる。

EU高官は、市民の暮らしをきちんと守るためには、英政府とEUが合意した離脱協定に従うのが唯一の方法だと話している。

<分析> 「計算」 ――アダム・フレミングBBCブリュッセル特派員

EUは合意なしブレグジットに向けて、予想よりも少しだけ鷹揚(おうよう)だった。

イギリスのトラック運送業者は離脱後9カ月にわたりEUへの輸送業務をそのまま続けられるという提案を、運輸業界は歓迎するだろう。

その他の施策も、当初の予想よりも長く続きそうだ。例えば、基本的な航空関係の法令は2019年12月ではなく2020年3月まで継続することになった。

さらに、一部のイギリスの金融サービス規制は最大2年間、EUの規制と同等に扱われるという。

EUは善意からこうした対策を講じるわけではない。EUの利益や、守られるべき脆弱性を計算した結果だ。

そして欧州委員会は明らかに、加盟各国がそれぞれ個別にイギリスと協定を結ぶことを懸念しており、そうしないよう呼びかけている。

それでも、EUからのメッセージは明確だ。自分たちが提案した離脱協定は、合意なしブレグジットよりもずっと、ずっとずっとずっとましなものだと、EUは言っているのだ。

(英語記事 EU reveals no-deal Brexit plans