トランプ氏、IS「敗北」宣言 米軍はシリア撤退開始

シリアには米兵約2000人が駐留していると考えられている

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シリアには米兵約2000人が駐留していると考えられている

米政府は19日、シリアで過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開していた米軍が撤退を開始したと発表した。これに先立ちドナルド・トランプ米大統領は同日、ISを「撃破」したと述べていた。

米国防総省は、「作戦の次の段階」へ移行していると明かした。しかし詳細は明らかにしなかった。

IS掃討支援のためシリアには米兵約2000人が駐留し、同国北東部の大半を奪還した。ただし、IS戦闘員は現在も一部残っている。

ISの復活を防ぐため、米国防当局は米軍駐留の継続を望んでいると考えられていた。

米軍撤退でアメリカのシリアにおける影響力が弱まり、ロシアとイランがより広い地域で影響力を強める恐れも出ている。

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声明で国防総省とホワイトハウスは共に、アメリカが「作戦を次の段階に移したのを受け、米兵の帰国を」開始したと発表した。

次の段階とは何かについて、「部隊保護と作戦運用の安全性上の理由から」それ以上の詳細は明かさないと、国防総省は述べた。

ホワイトハウスは、アメリカと同盟国が「アメリカの国益を守るため、必要な時にいつでも、あらゆる水準の取り組みを再開する準備はできている。また、イスラム過激主義者による地域支配、資金調達、支援、そして我々の国境へのあらゆる侵入を退けるため、共に取り組み続ける」と発表した。

トランプ大統領は19日、動画とともに、「ISIS(ISの別称)に対する歴史的勝利の後、偉大な若者たちを帰国させる時だ!」とツイートした。

反応は

イスラエル政府は、アメリカが「地域に影響力を残す別の方法」を持っていると通知を受けていたと述べた。しかし、「(米軍撤退の)スケジュールや進め方、そしてもちろん、我々への影響については調査する」とした。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は国営テレビ局チャンネル・ワンで、アメリカの決定はシリアにおける「政治的解決に向けた正真正銘で本物の見通し」につながる可能性があると述べた。

シリアからの米軍撤退は、トランプ大統領の長年の公約だった。

しかし、今回の撤退の発表は、一部の政権関係者にとっても驚きだったとの見方もある。

対IS国際有志連合の調整役を務めるブレット・マガーク米大統領特使は先週、国務省で記者団に対し、「あの勢力(IS戦闘員)が消滅するとは誰も言っていない。そんな考えの甘い人は誰もいない。なので、我々は留まり、シリア一帯の安定性維持を確かなものにしたい」と述べていた。

国務省は米軍撤退の発表後、19日の定例記者説明会を突然取りやめた。

トランプ氏支持者の1人で、米上院軍事委員会の委員でもある共和党のリンジー・グレアム上院議員は、米軍撤退を「オバマ的な大失敗」と呼んだ。

グレアム議員は一連のツイートで、ISが「敗北していない」と述べ、米軍の撤退は「我々の同盟国や少数民族クルド人を危険にさらす」と警告した。

トルコ政府は今週、シリア北部のクルド人武装勢力に対する軍事作戦開始の準備を進めていると発表した。クルド人はISとの戦闘でアメリカと連携している。

こうした情勢変化について英政府の報道官は、ISに対する「国際的な有志連合やその軍事作戦の終了を示す」ものではないとし、ISの「恒久的撃破」をめざし、イギリスは「全力を傾け続ける」と述べた。

英政府は声明で「することは多く残っている。ISがおよぼしている脅威から目を離してはならない」と述べた。

「現地の状況が進展しているため、我々はアメリカを含む有志連合の参加国と、目標達成の方法について議論を続ける」

米軍の駐留状況は

米軍は主に、シリア北部のクルド人居住地域に駐留してきた。

米軍は、シリアに居住するクルド人とアラブ人の武装組織「シリア民主軍(SDF)」と連携している。ISは4年前にシリアの大部分を制圧。シリアと隣国イラクに住む800万人近い市民を残虐に支配してきた。そのISをシリアから実質的に撃退する掃討作戦で、SDFは大きな役割を果たした功績がある。

ただし、ISの戦闘員は完全に消滅したわけではない。最近発表された米政府報告書によると、現在もシリアにはIS戦闘員1万4000人が存在し、イラクにはさらに多くの戦闘員がいるという。これらのIS戦闘員は組織再建のため、ゲリラ戦術に移行する恐れもある。

しかし、アメリカとクルド人の協力関係は、シリアと国境を接するトルコの反発を強めている。

トルコ国内には自治権を目指して戦うクルド人組織があり、トルコ政府はこのクルド人組織を違法としている。一方、SDFにはクルド人武装勢力YPGが参加しており、YPGはSDFの主要戦闘部隊となっている。トルコ政府はYPGを、国内で禁止しているクルド人組織が拡張したものと見なしているのだ。

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2018年12月現在のシリアの支配勢力図。黄緑の地域をクルド人武装勢力、赤の地域をトルコ軍およびトルコが支援するシリアの反政府勢力、青緑の地域をシリア政府、オレンジの地域をイスラム原理主義勢力、黄色の地域をシリア人反政府勢力、濃い青の地域をISがそれぞれ支配している

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は17日、シリア国内のYPGに対する新たな軍事作戦を、トルコがまもなく開始するかもしれないと述べた。

エルドアン氏はさらに、自分の計画についてトランプ氏と電話で話し、トランプ氏から「好意的な反応」を得たと付け加えた。

米政府は18日、「敵対的攻撃を防ぎ、トルコ国境の内部で訓練および作戦行動を行っている可能性がある北大西洋条約機構(NATO)加盟国を守るのに必要なトルコ軍の防衛能力向上」のため、35億ドル(約3940億円)のミサイル販売契約をトルコと結んだと発表した。

ロシア政府は19日、トルコへの高性能ミサイル防衛システム販売を継続すると述べた。

米軍はシリア北部での配備に加え、まだ南東部に一部残っているIS支配地域での戦闘も支援している。

<解説>アメリカの方針に大混乱?――ジョナサン・マーカス BBC外交担当編集委員

トランプ大統領の決定は、国防総省と国務省の双方が示していた公式方針を覆した。また、米政府と友好関係を結ぶクルド人勢力を、さらに大きな危険にさらしている。

シリア北東部におけるアメリカの地上作戦には米兵約2000人、あるいはそれ以上が参加している。基地と滑走路の連絡網も整備された。しかし、戦略上の目的は何なのか。

ISは敗北に向かっている。シリアのバッシャール・アル・アサド大統領は地位に留まっている。もし現在の目標が、地域におけるイランあるいはロシアの影響力拡大を食い止めることなら、広大な支配地域全体に兵士2000人は、目標達成のための人数としては少なすぎるかもしれない。

駐留米軍は、まさしくアメリカの「自己資金投資」だ。現地にいれば、アメリカにとって利益になり得る。それだけに今回の撤退決定は、この重要地域へのアメリカの方針が大混乱に陥り不確実になっている新たな兆候だと、大勢が受け止めるはずだ。