米株安が進行、史上最悪のクリスマス・イブに トランプ氏はFRBを批判

US President Donald Trump looks on as Jerome Powell, his nominee to become chairman of the US Federal Reserve, speaks at the White House on 2 November 2017

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FRBのジェローム・パウエル議長(右)を眺めるトランプ大統領

アメリカのドナルド・トランプ大統領は24日、歴史的な株価下落が続くなか、米中央銀行の連邦準備理事会(FRB)を痛烈に批判した。大統領はかつて、近年の株価上昇は自分の手柄だと繰り返していた。

トランプ氏はツイッターで、アメリカ経済にとってFRBが「唯一の問題」だと述べた。一方でスティーブン・ムニューシン財務長官は、投資家に落ち着くよう訴えた。

それでもダウ工業株平均はこの日、650ドル超下落。12月としては大恐慌の1931年以来最悪の下落率になりつつある。日本の日経平均株価は25日、前週末比1010円45銭(5.01%)安となった。

アメリカ政府の一部閉鎖や米中貿易摩擦のほか、大統領がFRBのジェローム・パウエル議長の解任を検討しているとの報道などの中、市場が混乱している。大統領は通常、政策をめぐりFRB議長を解任する権限はないとされる。

トランプ大統領はツイッターで、「我々の経済の唯一の問題はFRBだ。市場への感覚もなければ、必要な貿易戦争やドル高、国境問題をめぐる民主党による政府閉鎖といったことが分かってない。FRBはまるで空振りする強力なゴルフ選手みたいなものだ。パットができないんだ!」とFRBを批判した。

さらに、「僕はホワイトハウスにたった1人で(かわいそうな僕)、なんとしても必要な国境管理について民主党が戻ってきて合意をまとめるのを待っている。民主党が合意したくないと言っている間に、話題の国境の壁の費用はどんどんかさんでしまう。狂ってる!」と投稿した

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トランプ大統領は任期1年目、しばしばアメリカの株価上昇を自慢する発言を行っていたが、2018年に市場が低迷すると、批判をかわす方向に転じた。

23日には市場の混乱をおさえるため、ムニューシン財務長官がアメリカの6大金融機関の総裁に電話をかけるという異例の事態となった。

ムニューシン氏は24日、さらにFRBや市場監督機関などのトップにも連絡し、経済に対する懸念の緩和に努めた。

財務省の発表によると、ムニューシン氏はトランプ大統領の金融市場作業部会とも電話会談を行い、「通常の市場運営を確保するための協力について話し合った」という。

この作業部会には、アメリカの連邦準備制度や証券取引委員会、商品先物取引委員会のトップが名を連ねている。

投資家は何を懸念しているのか

24日は、米株式市場の歴史上、最悪のクリスマス・イブ取引となった。

ダウ工業株平均株価は653ドル落ち込み、2万2000ドルを切った。

S&P500種株価指数はいわゆる「弱気相場」入りが確認された。

A trader works at his post on the floor of the New York Stock Exchange

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アメリカ経済はデータ上ではなお力強いが、投資家らは国内外の経済成長の停滞を含むさまざまな要因を懸念している。

トランプ大統領の中国との貿易戦争や、ジェイムズ・マティス米国防長官の突然の辞任なども、投資家の不安をあおっている。

さらに、連邦議会がトランプ氏のメキシコ国境の壁をめぐる予算を居視したため、21日から一部政府機関が閉鎖していることも影響している。

この閉鎖は次に議会が開会する1月3日まで続く見通しだ。

米財務省の反応は?

財務省は23日、ムニューシン財務長官と米金融機関トップとの会談の詳細を発表。こうした声明は異例のことだ。

ムニューシン氏のツイッターにも投稿された声明では、「(金融機関のトップが)消費者やビジネス市場、その他の市場運営に貸し付ける十分な流動性があることを認めた」ことが明らかになった。

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ムニューシン氏はさらに、「アメリカ経済は引き続き力強い成長を見せている」と付け加えた。

財務長官はこれに先駆け、トランプ大統領が先週の政策金利引き上げを受けてパウエルFRB議長を解任する可能性があるという報道を否定した。

ムニューシン氏はツイッターで、大統領はパウエル議長を「辞めさせるとは一度も言っていない」し、自分にその権限があるとも思っていないと話していたと明らかにした。

U.S. Treasury Secretary Steven Mnuchin speaks to the news media after giving a television interview at the White House

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ムニューシン財務長官

市場の反応は?

財界識者からは、ムニューシン財務長官の介入がかえって市場を混乱させるとの指摘が出ている。

米紙ニューヨーク・タイムズのデボラ・ソロモン経済編集長は、「銀行をパニックで走り回らせたいなら、これは非常にいい方法だ」と皮肉った。

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オバマ政権でジョー・バイデン前米副大統領の経済顧問を務めたジャレッド・バーンスタイン氏は米紙ワシントン・ポストに対し、「市場はすでに十分に神経質になっている」と指摘。「まるで、宇宙シールドは飛んでくる小惑星を防げないと、わざわざ発表するようなものだ。えー……そもそも飛んできてるなんて知らなかったのに」。

ニューヨーク・タイムズの経済コラムニスト、ポール・クルッグマン氏も、「これはすごい。ムニューシンはこの声明が出るまで誰も気にしていなかったことで、パニックを起こそうとしているみたいだ」と批判している。

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ブルーダーマン・アセット・マネジメント役員のオリヴァー・パーシェ氏は、「投資家心理と、いつ急転するかもしれない市場の方向性を決めているのは、現時点ではほかならぬアメリカ政府と政界だ」と話した。

投資銀行ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの国際通貨戦略トップ、ウィン・シン氏は英紙フィナンシャル・タイムズに対し、「良くて、ムニューシン氏は市場を安定させようと初歩的なミスを犯しただけだ。しかし最悪の場合、ムニューシンは市場の知らない何かを知っていることになる」と示唆した。

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<分析>あまりメリーではないクリスマス ――サミラ・フサイン、ビジネス記者、BBCニュース(ニューヨーク)

米財務長官が、金融機関との協議内容を公表するのは異例だ。しかし、ムニューシン氏はまさにそうした。

ムニューシン氏は金融市場を安定させようとしたのだが、翌24日の混乱をみると、結果は逆だった。

そこでトランプ大統領はあらためて、ツイッターでFRBを批判してみて雲行きを変えようとした。しかし、これにも思ったような効果なかった。株式市場では通常、クリスマス時期に株価が上がるものだが、投資家たちは今年、安全確保のために株式から距離を置いた。

ホワイトハウスが望んでいたような、おめでたいクリスマスとは言えなかった。

これは2019年にどう影響するだろうか? かなりの部分は、ワシントンがどうなるかによる。政府閉鎖、貿易摩擦悪化、そして大統領のツイートで。

極めて明確になったことがひとつある。投資家の不安をホワイトハウスがなだめたいなら、メッセージの出し方がもっと上手にならないと駄目だ。

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