ブレグジット協定、否決なら「未知の領域」に メイ英首相が警告

Theresa May speaking to Andrew Marr

テリーザ・メイ英首相は6日、英議会が欧州連合(EU)離脱協定を採択しなかった場合、イギリスは「未知の領域」に突入してしまうと警告した。

BBC番組「アンドリュー・マー・ショー」に出演したメイ首相は、今月半ばに予定されている離脱協定の採決は「必ず」行われると強調。議員から批判が集まっている英・北アイルランドとアイルランドの国境問題に新しい対策を加えるほか、EUとの今後の交渉に議会の意見を取り入れると述べた。

その上で、議会が離脱協定を承認しなければブレグジット(イギリスのEU離脱)は「危機にさらされる」と話した。

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イギリスは今年3月29日にEUを離脱する予定だが、その条件をまとめた離脱協定の実施には英議会の承認が必要。

議会は昨年12月に採決を行う予定だったものの、与野党の反対が多く出ており承認の公算がないとして、メイ首相は採決を延長した。採決はあらためて今月14日か15日に行われる見通し。

番組司会のアンドリュー・マー記者が採決は「確実に」1月の第2週に行われるのかと質問すると、メイ首相は「はい、投票を行う予定です」と答えた。

首相はさらに、自分がEUとまとめた離脱協定はイギリスにとって「良いもの」だと述べ、代替案を求めるなら反対派が提示すべきだと話した。

先月からの進展については、EUがいくつかの「変更」に応じたと明らかにしたほか、議員が協定を「自信を持って」支持できるよう欧州各国の首脳と引き続き話し合いを行っていると述べた。

今後、以下の3領域について詳細を発表するという。

その上で首相は、議会が離脱協定を否決すれば、合意なしブレグジットの支持者や、2度目の国民投票でEU残留を画策する人たちを力づけてしまうと示唆した。

「協定が承認されなければ、我々は未知の領域に踏み込むことになる。議会での反応を見る限り、次に何が起きるか予測できる人はいないと思う」とメイ首相は述べた。

「議会にいるのは、最大の混沌を引き起こすためにあらゆる協定に反対する労働党と、ブレグジットを阻止するために2度目の国民投票を呼びかけるする人たちと、自分たちが求める通りの完璧なブレグジットを望む議員たちだ。このままでは、ブレグジットがまったく立ち消えてしまう危険性がある」

保守党議員たちが首相退任を求めた場合、首相の座を譲る用意があるかとの質問には、メイ首相は「私にブレグジットをやり遂げて欲しい」という意思を党はすでに明確にしたし、「それが私の仕事だ」と答えた。

与党・保守党を率いるメイ首相に対しては12月、同党内から党首不信任案が提出されたものの、投票で否決された。

一方で、メイ首相と閣外協力する民主統一党(DUP)は、首相の提示した離脱協定の根本的な問題は変わっていないと批判している。

DUPのナイジェル・ドッズ副党首は、離脱協定に含まれるアイルランド国境のバックストップについて、「この毒が残っているせいで、離脱協定の採決をめぐる対立は非常に激しくなっている」と述べた。

バックストップは、イギリスがブレグジット後の移行期間内にEUと包括的な通商協定をまとめられなかった場合、アイルランド国境を開放しておくための最終手段として設定されている。しかし、バックストップが発動すると北アイルランドはEU単一市場の規則に従い続けなくてはならないほか、英・EU双方の合意がない限り離脱できない。このため、実質的に北アイルランドとグレートブリテン島の間に関税や規制上の国境が引かれることになるとして、多くの議員が反対している。

保守党からも、メイ首相の離脱協定は2016年に行われたEU離脱をめぐる国民投票の内容を反映していないと反発する声が、多く挙がっている。

ソーシャルメディアではジェイコブ・リース=モグ議員をはじめとする離脱派議員らが、年末年始を越えても事態は「何も変わっておらず」、依然として協定に反対すると発言した。

また、ピーター・ボーン議員はスカイニュースの取材で、「何か変化があったとすれば、合意なしブレグジットへの確信を強めた議員がいることだ」と述べ、合意なしブレグジットが最善の手段だと示唆した。

一方、最大野党・労働党のエミリー・ソーンベリー影の外相はBBCのラジオ番組で、労働党は解散総選挙の実現に力を入れており、「数カ月以内」に選挙が実施されるだろうと話した。

「議会からも国民から支持されていない政権が、国を連れて崖から飛び降りて良いわけがない」

「国民の許可を得ているのか、国に対して行っていることは正当化できるのか。この国の民主主義では、それが肝心だ」

<分析>新しい年、同じ問題 ――ニック・アードリー政治担当編集委員

ロンドン・ウェストミンスターの英政界は新年を間もなく迎えるが、政局は相変わらずだ。

メイ首相の言い分は変わっていない。首相は今なお、自分の離脱協定でなければブレグジットは成功せず、これを否決すれば未知の領域に踏み込んでしまうと考えている。

首相は自分に反対する双方に警告しているのだ。2度目の国民投票を求める人たちには、下手をすると合意なしブレグジットになると。そして、合意なしブレグジットを求める人たちには、そもそもブレグジットがなくなると。

首相に反対する勢力も、年が改まったからといって特に心変わりはしなかったようだ。DUPや多くの保守党議員はなお不満を漏らしており、メイ首相の支持には回っていない。

首相は、EUから今まで以上の確約を取り付けてくると約束している。しかし、離脱協定の承認に必要な支持を得られるほどのものが得られるのか。それは未だに不透明だ。