ブレグジット審議再開で与党から造反相次ぐ メイ首相窮地か

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保守党議員がメイ政権に造反する事態が続いている

イギリスの下院で9日、テリーザ・メイ首相が欧州連合(EU)とまとめた離脱協定をめぐる審議が再開された。

下院では元法務長官のドミニク・グリーヴ議員(保守党)が、下院が離脱協定を否決した場合の代替案の提出期限について、修正案を提出した。政府は反対したが、保守党議員17人が造反し、308対297の賛成多数で可決された。

下院では15日に離脱協定の採決が行われる予定で、9日は5日間にわたる審議の初日。15日に協定が否決された場合、政府は代替案を21日以内に提出するというのが、これまでの見通しだった。

しかし、グリーヴ議員は、代替案の提出期限を議会開催日で3日以内とする修正案を提出。これが可決されたため、離脱協定否決の際に政府は今月21日までに代替案を提出しなくてはならなくなった。離脱協定否決の場合、2度目の国民投票などの代替案が提示される可能性も出てきた。

首相官邸は、メイ首相の協定は国益を約束するものだと強調した一方、下院で否決された場合、政府は「即時に対応する」としている。

今回造反したジャスティーン・グリーニング議員、サム・ギマー議員、ジョー・ジョンソン議員などは、2度目の国民投票で再度、離脱の是非を問うべきだとしている。

下院では前日の8日にも、合意なしブレグジット(イギリスのEU離脱)の場合に税制への政府権限を制限する超党派の修正案を可決。メイ首相は24時間で2回、与党からの造反に遭い、下院からノーを突きつけられた格好だ。

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グリーヴ議員は、危機回避のため、離脱協定の代替案について政府と議会は「真剣に協議」してもらいたいと話した。

グリーヴ議員はITV番組「Peston」に出演し、離脱協定が否決された場合の対処はメイ首相に委ねられるだろうが、首相がどのような動議を提出しても、議会は7日以内に速やかに投票できるようになると説明した。

また、メイ首相には離脱協定の再考を下院に要求する権利もあるが、下院はそれに「別の方法を見つけるように」と答えることもできると話した。

同じく造反したサラ・ウォラストン議員は、自分を含めて合意なしブレグジットに反対する議員たちは、議会は決して合意なしブレグジットに同意しないと示すため、「ゲリラ活動」に参加しているのだと述べた。

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代替案の提出期限をめぐる採決の結果。賛成(For)には労働党をはじめとする野党に加え、17人の保守党議員が造反し加わった。一方、反対(Against)には保守党と、メイ首相と閣外協力する独立統一党(DUP)が回ったが、過半数には届かなかった

一方、保守党のEU離脱派で合意なしブレグジットを推進しているジェイコブ・リース=モグ議員は、それでも3月29日のEU離脱は避けられないと指摘した。

「審議するまでもなく、動議をひとつ提出するだけでいい」

また、メイ首相の離脱協定を支持するローリー・スチュアート法務担当閣外相は、3日間でEUとの複雑な交渉を再開し、修正案を持って返れと首相に要求するのは「理不尽だ」と語った。

スチュアート閣外相は、グリーヴ議員は「自分が求める2度目の国民投票を実現しようとしている」と指摘した。

首相官邸は、9日の敗北の影響を検討するとした上で、政府はこれまでも結論を先延ばしするのではなく、確かな見通しをできるだけ早く提供しようとしてきたと述べた。

最大野党・労働党は、15日にメイ氏の離脱協定が否決された場合には直ちに首相不信任案を提出するとしている。

影のブレグジット担当相、サー・キーア・スターマーは、議会は「その次の展開をコントロール」する必要があると述べ、離脱日を3月29日より後に延期する事態は「避けられない」かもしれないと示唆した。

その上で、合意なしブレグジットは「単純に実務的にあり得ない」ため、イギリスはこれをなんとしても回避しなくてはならないが、そのための選択の余地がなくなりつつあると警告した。

イギリスは今年3月29日にEUを離脱する予定だが、その条件をまとめた離脱協定の実施には英議会の承認が必要。

議会は昨年12月に採決を行う予定だったものの、与野党の反対が多く出ており承認の公算がないとして、メイ首相は採決を延長した。

焦点となっているのは、英・北アイルランドとアイルランドの国境問題。イギリスとEUは離脱協定の中で、この国境に検問や新たな関税を敷かないための「バックストップ(防御策)」を設定した。

しかし、バックストップが発動すると北アイルランドはEU単一市場の規則に従い続けなくてはならないほか、英・EU双方の合意がない限り離脱できない。このため、実質的に北アイルランドとグレートブリテン島の間に関税や規制上の国境が引かれることになるとして、多くの議員が反対している。