ブレグジット協定否決は「英国民を失望」させる=メイ英首相

Theresa May in Parliament

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イギリスの欧州連合(EU)離脱について英政府がEUとまとめた離脱条件の協定を英下院(定数650)が承認するかどうかの採決を翌日に控え、テリーザ・メイ英首相は14日夜、離脱協定に反対する議員たちは「英国民を失望」させることになると強調した。一方で最大野党・労働党は、15日午後の採決で首相が「屈辱的な敗北」を経験することになると警告した。

メイ首相は、自分がまとめたブレグジット(EU離脱)協定に反対する議員たちに、協定内容をあらためて「見返す」よう促した。

首相は下院を前に、「この院のすべての議員に申し上げる。すでにどのような結論を下したかに関わらず、今から24時間の間に、この協定を改めて見返してください。完璧なものではありませんが、歴史の本が書かれるようになれば、人々はこの下院が明日どのように判断したかを見返し、EUを離れるという国の投票を実現したのか、国の経済や安全や国としての連合を守ったのか、それとも英国民を失望させたのか、問いかけることになる」と演説した。

一方で、労働党のジェレミー・コービン党首は、首相が「まったく完全に失敗した」と批判した。

ブレグジットに反対する野党・スコットランド国民党(SNP)は、首相が「幻想の国におり、政府は合意なしブレグジットになれば大変なことになると脅すのをやめるべきだ」と批判した。

英下院は15日夕、イギリスのEU離脱条件と将来的なEUとの関係についてメイ政権がEUとまとめた離脱協定について採決する。下院が承認しなければ、離脱協定は実施されない。その場合、ブレグジットがどういう形になるのか不透明だ。

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ブレグジット協定採決、議員は賛成? 反対?

下院は現在、与党・保守党が317議席、労働党が256議席、SNPが35議席、自由民主党11議席、メイ政権と閣外協力してきた北アイルランドの民主統一党(DUP)が10議席という構成。

労働党をはじめ野党は、離脱協定に反対する見通し。さらに、保守党から約100人、DUPの10人も反対する可能性がある。

これまで協定に反対してきた保守党の離脱派議員5人が、メイ政権支持に回ると表明したが、離脱協定への抗議辞任が続くメイ政権では、ギャレス・ジョンソン院内副幹事が14日にあらたに辞任を表明した。ジョンソン議員は首相への辞表で、離脱協定は「この国の国益を損なう」もので、「政府への自分の忠誠より、自分の国への忠誠を優先させる時がきた」と書いた。

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メイ首相とコービン党首はそれぞれ、首相の議会演説の後に議員団を前にした。首相はあらためて、離脱協定への支持を呼びかけ、コービン党首はあらためて、協定が否決されれば内閣不信任案を提出し、解散・総選挙を要求すると方針を確認した。

BBCのイアン・ワトソン政治担当編集委員によると、コービン氏は労働党議員たちに、「間もなく」内閣不信任案決議が実現すると述べた。

一方のメイ首相は、大きな争点となっている北アイルランドとアイルランドの国境問題について、多くの議員が反発している「バックストップ(防御策)」は絶対必要にならないと保守党議員たちに強調した。

「バックストップ」は、ブレグジット後の移行期間が終わる2020年12月までに別の解決策が見つけられなかった場合、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールに従うと定めた条項だが、その場合、北アイルランドがそれ以外のイギリス各地と別扱いになることが問題視されており、多くの保守党議員とDUPは強く反対している。

これについてメイ首相は、2020年末までにEUと包括的な通商協定を結べると「確信している」ため、そうすれば「バックストップ」はまったく無用で終わると強調。包括協定へ向けてEU側も確実に努力していくと表明する、ドナルド・トゥスク欧州理事会議長(大統領)とジャン=クロード・ユンケル欧州委員長による連名の書簡を公表した。

トゥスク氏とユンケル氏は書簡で、仮にバックストップの実施が必要になっても「あくまでも一時的なものに過ぎない」と約束する一方で、メイ首相とまとめた離脱協定の変更は一切認められない姿勢をあらためて強調している。

ジェフリー・コックス英法務長官は、EU幹部からの書簡は、バックストップが仮に実施されても一時的なものという「法的」な保証をイギリスに与えたと説明しつつ、離脱協定の「基本的意味合い」は変わらず、バックストップからイギリスが一方的に離脱できないのは変わらないと述べた。

コービン党首は、EU書簡は「温かい言葉と意向」に過ぎないと批判。北アイルランドとイギリス本土との一体性維持をきわめて重視するDUPのナイジェル・ドッズ副党首は「何も目新しいものはない」と反発した。

Theresa May

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次はどうなる

今後の見通しは次の通り――。

  • 15日――再開5日目のブレグジット審議の後、離脱協定について下院で「有意義な投票」。修正案についての採決も行われる。協定が否決されればメイ首相は3日以内に「代替案」を下院に提出する必要がある。
  • 16日――メイ首相はEUから譲歩を引き出すためブリュッセルへ向かうかもしれない
  • 21日――下院で「代替案」の採決予定

議会がブレグジットを阻止する新法案を議決しない限り、イギリスは3月29日にEUを離脱する。

保守党のベテラン議員3人は、首相の代替案が否決された場合は議会が3週間かけて議会版の「代替案」を策定するという、「EU離脱第2法案」を提案している。さらに、もしそれが成功しなければ議会特別委員会の全委員長からなる連絡委員会が、譲歩案をまとめて議会採決にかけるべきだと、この議員3人は提案している。

これについて首相官邸は、歴史的な内閣と議会の関係が大きく変更されることになると、強い懸念を示している。

このほか、ブレグジットに反対する超党派の議員団は、EU離脱に関する2度目の国民投票実施を求める法案の内容を発表し、EU残留か、メイ首相の離脱協定でEUを離脱したいか、国民にあらためて問うべきだと主張している。

この法案を支持する下院議員たちは、この2度目の国民投票を実施するには、EU離脱手続きを開始するリスボン条約50条を一時停止する必要があると主張する。その場合、イギリスは現行の離脱期限の3月29日以降もEUに留まることになる。