「こんまり」流片づけ術、本当に整理整頓で頭がすっきりするのか

フローラ・ドルリー記者BBCニュース

Author and series host Marie Kondo poses before taking part in Netflix"s "Tidying Up With Marie Kondo" screening and conversation at 92nd Street Y on January 08, 2019 in New York City. Image copyright Getty Images
Image caption 「人生がときめく片づけの魔法」の著者で、アメリカのネットフリックスで新番組「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」がスタートしたばかりの近藤麻理恵さん

近藤麻理恵さんという名前をまだ聞いたことのない人も、そのうち耳にするだろう。

近藤さんは日本の片づけ名人。アメリカの動画配信サービス、ネットフリックスで新番組が始まり、今月1番の話題になった女性だ。ひょっとしたらあなたも、近藤さんが提案する「こんまり」メソッドの実践者をすでにご存じかもしれない。家の中が整理されるだけでなく、頭まですっきりするという片づけ術だ。

近藤さんは2014年の著書「人生がときめく片づけの魔法」の中で、家を片づけることは自分の身の回りや「過去に片をつけること」でもあると説明している。「その結果、人生で何が必要で何がいらないか、何をやるべきで何をやめるべきかが、はっきりとわかるようになる」という。

しかし、自分が持っている1つ1つの物について「ときめくかどうか」を考え、ときめかない物は全部捨てるだけ――本当にそれほど簡単なことなのだろうか。

「思い出の品より人とのつながりを」

ロンドンに住む放射線技師のジェリー・シャープさんとパートナーの男性は、ネットフリックスの番組「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」を見て、自宅にある物を3分の1ほど処分しようと思い立った。

片づけてみたら、2人の心の健康には目に見えるほどの効果が出たという。

「私のパートナーは躁うつ病ですが、仕事場が片づけただけでものすごい変化があった」、「仕事場にはそれまで、物があふれ返っていたから」と、シャープさんは話す。

「私自身も気が散らなくなったおかげで、以前より生産的になりました。本棚には好きな本だけが並んでいるので、本棚を見て『まだこれは読んでいない』と考えることもありません」

アビゲイル・エヴァンスさん(26)も最近、こんまりメソッドを始めたばかりだ。やはり、良い影響はすぐに表れるという。

「部屋が片づいたと思うまでは休まらない」と、エバンスさんは話す。これはつまり、近藤さんのアドバイス通りに少しずつ片づける方式が、実にうまくいっているということだ。

「私はもともと片づけ好きなタイプだった。そこへ近藤さんが、片づけはとても簡単なことだと思わせてくれた」

シカゴ・デポール大学のジョセフ・フェラーリ心理学教授は、こうした反響も当然のことだと考える。それどころか、家を片づけるには「こんまり」流のさらに上を行くくらいがいいのではないか、という意見だ。

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Image caption ネットフリックスの新番組「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」でアドバイスする近藤さん

フェラーリ教授が2016年に「家の陰の側面」と題してまとめた共同研究では、物を持ちすぎて家が散らかった人ほど、生活への満足度や生産性が低いことが分かった。

「物の持ちすぎは良くない」と、教授は説明する。

「私たちは、欲しい物が必要な物になる社会に生きている」

「私たちがやらなければならないのは、手放すことだ。私はいつも皆さんに、思い出の品を集めずに人とのつながりを集めなさいと話している」

片づけの効力を訴えるのは、近藤さんやフェラーリ教授ばかりではない。自宅や仕事場、あるいは電子メールの受信ボックスまで、片づけがどんなに良い効果をもたらすかを強調する専門家は大勢いる。

例えば「インボックス・ゼロ」は、毎晩最後にメインの受信ボックス(インボックス)を空っぽにしておけばいい、というメール管理法だ。日中に届いたメールを一つ一つ徹底的に分類し、削除したり転送したりしておく。

我々のように未読メールを何千通も抱えている者には、かなわない夢のように聞こえるかもしれない。だが「インボックス・ゼロ」の境地に達した人たちは、この方式に絶大な信頼を置く。特に精神衛生上、プラスの効果があるからだという。

私の同僚の一人も、「私のストレスはほとんどが、何か忘れているかもしれないとか、全体を把握できていない、ということが原因だ。だから、このメソッドのおかげで気持ちが楽になる」と話している。

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やりすぎには要注意

しかし今の時代、片づいた暮らしへの熱はとどまるところを知らない。ときめかない物を最後の一つまで捨てても、そこで終わらないのだ。

インターネット上では、掃除の喜びをうたうソーシャルメディアのアカウントが大人気だ。

こういうアカウントに集まる関心の高さは決して侮れない。例えば掃除のアドバイスで知られるソフィー・ヒンチリフさん、通称「ミセス・ヒンチ」は、インスタグラムで160万人のフォロワー数を誇る。英ペンギン・ブックスと出版契約を交わしていることは言うまでもない。

ヒンチリフさんの自宅はどう見ても、ちり一つないきれいさだ。

ピカピカの家や掃除へのこだわりに触発される人は多い。だがそれを見てちょっと劣等感を抱いてしまう人もいる。

英国の子育て情報サイト「マムズネット」には、ある母親からこんな投稿があった。「隅から隅まできれいにしてあるミセス・ヒンチの家を見たら、それにひきかえ我が家はと落ち込んでしまった。だからフォローをやめた」

同じような批判は、きちんと片づいた近藤さんの家にも向けられてきた。ただでさえストレスだらけの生活なのに、また一つ余計なストレスが増えたという声が目立つ。

アメリカのニュースサイト「バズフィード」のライター、アン・ヘレン・ピーターソンさんは、「ミレニアル(2000年以降に成人あるいは社会人になる)世代はどのようにしてバーンアウト(燃え尽き)世代になったか」と題した記事の中で、こう指摘した。

「私たちは今、メディアからの声に取り囲まれている。ソーシャルメディアも主流メディアも声をそろえて、私たちは自己やキャリア同じく、自分の部屋も最高の状態に保つべきだと言っている。ネットフリックスで始まった近藤さんの新番組や、ライフスタイルを発信するインフルエンサーの経済効果からも、同じメッセージが伝わってくる」

「その結果、私たちは疲れ切ってしまう。それだけでなくバーンアウトが全身を包み、いったん家に帰ってもまだつきまとってくる」

これよりさらに深刻な事態があるだろうか。とにかく何事も、やり過ぎはかえって害になりかねないということだ。

「片づけはためこむことの反対だから、いいことに違いない。私たちは単純にそう決めつけているのでは?」と問い掛けたのは、米ニューヨークの心理学者、ビビアン・ディラー博士だ。ディラー博士は2015年に米誌アトランティックで、片づけの強迫観念にとりつかれた患者の例を取り上げた。

「散らかった状態に耐えられない。じっと座っていることができず、掃除したり物を次々と捨てたりせずにはいられない。これはもう病気の症状だ」

片づけが苦手な偉人も

一方で私たちの多くは、少しくらい散らかっていてもそれほど気にならない。この先きっと、自分のソックスに本気でときめくかどうかなんて、考えてみることもないだろう。こんな私たちはどうすればいいのか。

ありがたいことに、その道にも(ちょっとした)権威がいる。コラムニスト兼ラジオ番組司会者で、「ひらめきを生み出すカオスの法則」の著者、ティム・ハーフォードさんを紹介しよう。

Image copyright Library of Congress
Image caption 米建国の父ベンジャミン・フランクリン。机が散らかった偉人もいるということが証明された

ただし、ハーフォードさんは最初にこう認めている。

「近藤さん方式で自分の服を片づけてみた。確かにうまくいく」

だが机が散らかっていてもこの世の終わりというわけではないと、ハーフォードさんは主張する。どんな物でもたちまち、収まるべき場所へひとりでに分類されるという説は、必ずしも当たっていないという。

ハーフォードさんはBBCのインタビューで「人が創造性を発揮している時、つまり何かに取り組んでいる時は、物が散らかるものだ」と指摘した。

「片づけようとするタイミングが早すぎたり、回数が多すぎたりすれば、自分自身を無駄に責め立てることになってしまう」

がらくたを退治できない、ピカピカの家で暮らせない、受信ボックスをゼロにできない。そんな自分に落ち込んでいる人には、著述家で発明家、アメリカ建国の父でもあるベンジャミン・フランクリンというお手本がいる。

ハーフォードさんによると、フランクリンは自分がより良い人間になるための方法を全部、教訓として日誌に書き留めていた。

「人生の終わりに振り返ってみると、その日誌は確かに成果を挙げていた」と、ハーフォードさんは説明する。

「でも一つだけ、どうしてもできなかったことがある、とフランクリンは言った。それが片づけだったのだ」

(英語記事 Does tidiness really equal a clean mind?

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