探査機「はやぶさ2」、リュウグウへのタッチダウンに成功

ポール・リンコン、科学編集長、BBCニュースウェブサイト

Hayabusa-2

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はやぶさ2は今年6月、3年半の航行の末にリュウグウに到着した(画像はイメージ)

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は22日、探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」の地表から岩石標本を採取するための着陸に成功したと発表した。

タッチダウンと呼ばれる今回のミッションは、あらかじめ決められていた地点から標本を採取し、直後に離陸するというもの。タッチダウンは22日午前8時過ぎに行われた。

はやぶさ2は今年6月、3年半の航行の末にリュウグウに到着した。帰還は2020年を予定している。

はやぶさ2には標本(サンプル)採取のための「サンプラーホーン」という装置が組み込まれている。タッチダウンの際、金属製の5グラムの弾丸が、秒速300メートルの速さで地表面に撃ち込まれる。

その弾丸の衝撃で放り出された岩石の破片がサンプラーホーンの中に納まるという仕組みだ。

高度20キロメートルの「ホームポジション」からの降下が始まったのは21日午後1時45分。予定よりも5時間遅れていたが、高度5キロメートルまでの降下速度を上げて、当初の降下計画に間に合わせた。

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赤い矢印部分が、ターゲットマーカが降ろされた地点

はやぶさ2は昨年10月、リュウグウに小さな反射性のある「ターゲットマーカ」を降ろした。このターゲットマーカが、でこぼこした地表面へのタッチダウンのガイドとなった。

タッチダウンは、ターゲットマーカの位置から4、5メートル離れた直径約6メートルの円を目指して行われた。

JAXAは当初、このタッチダウンを昨年10月に行う予定だったが、リュウグウの地表面には想像以上にボルダー(岩塊)が散らばっており、広く平らな場所を見つけられなかった。

タッチダウン地点としては直径100メートルの平地を想定していたものの、最終的には直径6メートルの円にまで狭めなくてはならず、「ピンポイント・タッチダウン」を行うことになった。

はやぶさ2の底面に取り付けられたサンプラーホーンの長さは1メートル。つまり、はやぶさ2がボルダーにぶつからないためには、50センチ以上のボルダーがない地点に着地しなければならなかった。

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はやぶさ2のサンプラーホーン

地表面が想定と異なるものだったため、採取できる標本の量にも影響が出た。リュウグウに到着する前、科学者たちはその地表面が粉状に砕けたレゴリス(軟らかい堆積物)に覆われていると考えていた。

しかし、実際に地表面を覆っていたのは砂利に近いもので、数センチ以上の大きさのものもあった。

英ベルファスト・クイーンズ大学のアラン・フィッツシモンズ教授はBBCニュースに、「これは驚きだった。これまでに人類が到達した地球近傍小惑星(NEA)の地表は細かい破片に覆われていた」と話した。

「これは炭素の多さによるのかもしれない。これまでのNEAは珪酸塩の多い岩でできており、地球に近かった。一方でリュウグウはその形からも分かるように、かつてはもっと速く回転していた。それが、地表の破片の大きさにも影響を与えたのかもしれない」

日本ではその後、はやぶさ2でサンプルが採取できるか、追加の実験が行われた。

実験では、リュウグウに存在するものと同じくらいの人工の砂利が使われ、真空状態の中ではやぶさ2に搭載されているものと同じ金属の弾丸を砂利に撃ち込んだ。

JAXAによると実験結果は期待を超えるもので、弾丸によって岩石はサンプラーホーンを容易に通り抜けるサイズにまで破壊された。

これにより、はやぶさ2がサンプルを採取できることが確認された。

生命の誕生に迫る

リュウグウは、NEAの中でも特に初期にできたとC型小惑星に属し、太陽系の創成期の名残りと考えられている。

フィッツシモンズ教授は、「我々はすでに、炭素の多いC型小惑星が小惑星帯から離れてNEAになる過程を理解しているつもりでいるが、リュウグウのサンプルはその歴史をさらにひも解いてくれる」と話した。

「欧州宇宙機関 (ESA) の彗星探査機『ロゼッタ』によって、地球上の大半の水が太陽系の初期に彗星から来たわけではないことがはっきりした。今は、C型小惑星の岩石の中に大量の水分が含まれていると考えられている。こうした小惑星が地球に水と、生命の誕生に必要な成分を運んできたのかもしれない」

「この可能性を探るのに、リュウグウのサンプルは非常に重要だ」

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探査ロボット「ローバー1A」によるリュウグウの地表面の画像

はやぶさ2は昨年9月、分離した探査ロボット「ミネルバII-1」を小惑星「リュウグウ」に降ろすことに成功した。2台の探査ロボット「ローバー1A」と「ローバー2A」は現在、リュウグウからデータや画像を地球に送信している。

また10月には、ドイツ航空宇宙センター(DLR)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)が共同で開発した探査ロボット「マスコット」を展開している。

JAXAはさらに、リュウグウ表面に小型クレーターを作るため、今年の3月か4月には爆発物の点火を計画している。

その後、はやぶさ2はこのクレーターに着陸し、地表面で風化していない新たなサンプルを採取する予定だ。

フィッツシモンズ教授は、「小惑星の地表面は長い間、太陽や宇宙からのエネルギー粒子にさらされて変化している」と説明した。

「一方で、炭素の多い小惑星と珪酸塩の多い小惑星では『宇宙天気』による影響が違うことが、望遠鏡での調査で明らかになっている。その理由はまだ分かっていないが、リュウグウの地中サンプルがその仕組みを明らかにする重要な役目を果たすかもしれない」