米アカデミー賞、英オリヴィア・コールマンが主演女優賞 作品賞は「グリーン・ブック」

Olivia Colman at the Oscars

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主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンさんは感極まった様子ながら、スピーチ切り上げを促されると舌を出して「ベー」とするなど、明るいスピーチで会場を沸かせた

24日夜(日本時間25日午前)に行われた第91回アカデミー賞授賞式で、イギリスの女優オリヴィア・コールマンさんが主演女優賞を受賞した。注目の作品賞は大方の予想に反し、1960年代のアメリカ南部の人種差別問題を題材にした「グリーン・ブック」が受賞した。

コールマンさんは、18世紀イングランドの王室を描いたヨルゴス・ランティモス監督の「女王陛下のお気に入り」で同賞を受賞。涙を浮かべた感極まった様子ながらも、スピーチ切り上げを促されるとあっかんベーをするなど、明るいスピーチで会場を沸かせた。

主演男優賞は、イギリスのロックバンド「クイーン」の軌跡を描いた「ボヘミアン・ラプソディ」で、フレディ・マーキュリーさんを熱演したラミ・マレックさんが勝ち取った。

助演男優賞は「グリーン・ブック」のマハーシャラ・アリさん、助演女優賞は無実の罪で投獄された黒人の苦悩を描いた「ビール・ストリートの恋人たち」のレジーナ・キングさんだった。

監督賞は、メキシコのアルフォンソ・クアロン監督が自伝的な「ROMA/ローマ」で受賞した。米動画配信サービス「ネットフリックス」製作の映画が初めて、監督賞や作品賞の候補になり、劇場公開から間もなく世界配信されたことも注目を集めた。

もう爆笑

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俳優部門の受賞者。左からラミ・マレックさん、オリヴィア・コールマンさん、レジーナ・キングさん、マハーシャラ・アリさん

コールマンさんはイギリスのシットコム(シチュエーション・コメディー=コメディードラマ)「ピープ・ショー」などでキャリアをスタートさせ、近年では英ITVドラマ「ブロードチャーチ」などで注目された。米ネットフリックス「ザ・クラウン」の新シーズンでは、エリザベス女王を演じる。

主演女優賞の最有力候補は「天才作家の妻 40年目の真実」のグレン・クローズさんだった。7度目のオスカー・ノミネートで今度こそクローズさんが受賞するという前評判だっただけに、コールマンさんは自分の名前が呼ばれてしばし呆然としていた。

受賞スピーチでコールマンさんは涙をこらえながら、「本当にストレスいっぱいで。もう爆笑。私がオスカーを取るなんて!」と切り出し、会場を笑わせた。

さらに「テレビでの受賞スピーチを練習している小さな女の子たち……何が起きるか分からないから!」と付け加えた後、スピーチを早く終わらせろという合図には、舌を「べー」と突き出して反抗した。

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イギリスの女優が主演女優賞を受賞したのは、2009年のケイト・ウィンスレットさん以来となる。

自分らしくありたいと苦しむ人を称え

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主演男優賞のラミ・マレックさんは、クイーンのリードボーカルで1991年に亡くなったフレディー・マーキュリーさんを演じた

主演男優賞のラミ・マレックさんは、クイーンのリードボーカルで1991年に亡くなったフレディ・マーキュリーさんを演じた。

マレックさんはスピーチで、「子どもの頃の自分に、いつかアカデミー賞をとる日が来ると伝えたらどうなるだろうと考えました。あの子の巻き毛の頭は爆発したはずです」と話した。

「あの子は自分のアイデンティティーについて悩んでいて、自分が何者なのか知ろうとていました。自分の声を探そうと苦労している人たち、聞いてください。私たちはゲイの男性で移民で、言い訳せず、自分らしく生きたあの男性の映画を作りました」

「今夜こうして彼と彼の物語を皆さんと祝えること、そのこと自体が、こういう物語を私たちが求めていたことの証拠です」

クイーンはこの日、歌手のアダム・ランバートさんを迎えて授賞式のオープニングパフォーマンスを務めた。「ウィ・ウィル・ロック・ユー」と「伝説のチャンピオン」を演奏し、著名俳優たちは座席で足を踏み鳴らしたり手を振って楽しんだ。

「ボヘミアン・ラプソディ」はこのほか、編集賞と音響編集賞、録音賞と、今回のアカデミー賞で最多の4冠を達成している。これに「ブラックパンサー」と「グリーン・ブック」、「ローマ」がいずれも3冠で追随した。

愛と支援の賜物

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マハーシャラ・アリさん(左)とレジーナ・キングさん

マハーシャラ・アリさんは2年前にも「ムーンライト」で助演男優賞を獲得している。

「グリーン・ブック」で実在のジャズピアニスト、ドン・シャーリーさんを演じたアリさんは、「彼の人間性と人生を反映した、人間としてのエッセンスをとらえようと必死だった」と話した。

「グリーン・ブック」は、1960年代に人種差別の多かった米南部でコンサートツアーを行ったシャーリーさんの人生を描いたもの。しかし監督の差別発言や、事実と異なるとして遺族が抗議するなど、問題が続出したため、受賞の可能性は低いとみられていた。

「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督による、「ビール・ストリートの恋人たち」は、ジェイムズ・ボールドウィンの小説が原作。初ノミネートされたレジーナ・キングさんは、助演女優賞を獲得した。

キングさんはスピーチで、「人に愛と支援を注ぐとどうなるか、私がその一例です。ママ、愛してる」と涙ながらに語った。

スパイク・リー監督初受賞

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「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」や「ドゥ・ザ・ライト・シング」といった代表作から30年以上を経て、スパイク・リー監督はついに「ブラック・クランズマン」でアカデミー賞脚色賞を獲得した。

一方、個人としてノミネートされた監督賞は逃した。リー監督はこのほか、2016年にアカデミー賞名誉賞を受賞している。

「ブラック・クランズマン」は、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン」に潜入した黒人刑事の実話を題材している。

リー監督はスピーチで、黒人が奴隷としてアメリカに連れて来られて400周年になることに言及。また、「2020年の大統領選挙がそこまで来ています。みんなで一丸となって、歴史の正しい側に付きましょう。愛と憎悪の戦いの中で、人道的な選択をしましょ」と、政治に絡んだ発言をした。

「正しいことをしましょう(Do the right thing)。どうしてもこれは言っておかなきゃね」と、監督は代表作のタイトルを引き合いに出した。

また、授賞式後に「グリーン・ブック」の作品賞受賞について聞かれたリー監督は、「選考委員は悪い選択をした」と語った。

#OscarsLessWhite(アカデミー賞は白くなくなった)

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ジェイ・ハートさんとハンナ・ビーチラーさんは「ブラックパンサー」で美術賞を獲得した

米アカデミー賞では2015年と2016年、俳優部門の候補者が2年連続して白人ばかりだった。この問題をきっかけにソーシャルメディアでは「#OscarsSoWhite(アカデミー賞はあまりに白い)」というハッシュタグが広がった。

これを受けて米映画芸術科学アカデミーは近年、会員の多様性を拡大したほか、今年の受賞者は以前に比べると人種の多様性が広がった。

脚色賞のリー監督、助演女優賞のキングさん、助演男優賞のアリさんに加え、カメラに映らない職種でもアフリカ系アメリカ人の受賞が相次いだ。

ルース・カーターさんは「ブラックパンサー」で衣装デザイン賞を獲得。ハンナ・ビーチラーさんはジェイ・ハートさんと共に、同作で美術賞を受賞した。

イギリス人も健闘

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リチャード・E・グラントさんと娘のオリヴィアさん

俳優部門では、「ある女流作家の罪と罰」のリチャード・E・グラントさん、「女王陛下のお気に入り」出演のレイチェル・ワイズさん、「バイス」のクリスチャン・ベールさんはいずれも受賞を逃した。

一方、技術部門ではイギリス人の受賞者が相次いだ。

月面着陸を描いた「ファースト・マン」からは、ポール・ランバートさんとトリスタン・マイルズさんがアメリカ人2人の同僚と共に視覚効果賞を受賞した。

「ボヘミアン・ラプソディ」からは、音響編集賞にジョン・ワーハーストさんとニーナ・ハートストーンさんが、録音賞にポール・マッシーさん、ティム・カヴァジンさん、ジョン・カサリさんが輝いた。

その他の受賞者

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  • レディー・ガガさん主演の「アリー/スター誕生」は主題歌賞を受賞。ガガさんは授賞式で共演のブラッドリー・クーパーさんとデュエットを披露した
  • アロン監督は「ローマ」で監督賞と撮影賞を獲得した。「ローマ」は外国語映画賞も受賞していた
  • 長編アニメーション賞は「スパイダーマン スパイダーバース」が受賞した
  • インドで生理用品を作る女性たちを取材した「ピリオド 羽ばたく女性たち」が短編ドキュメンタリー賞を獲得した。ライカ・ゼタブチ監督はスピーチで、「生理を取り扱った作品がアカデミー賞を取るなんて信じられない」と語った
  • 短編実写映画賞は、人種差別問題を取り上げた「Skin」が受賞した。英2歳児殺人事件の犯人を描き、遺族から抗議を受けていた短編「Detainment」(拘束の意味)は受賞を逃した

司会者なしはどうだった

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マーヤ・ルドルフさん、ティナ・フェイさん、エイミー・ポーラーさん

授賞式冒頭は伝統的な司会者モノローグの代わりに、映画「ブライズメイズ」で共演したティナ・フェイさん、マーヤ・ルドルフさん、エイミー・ポーラーさんが登場し、最初の受賞者を発表した。

フェイさんが「私たちは今年の司会者ではありませんが、もしそうだったらこういう感じだったでしょう」と言うと、3人は今年の候補者の物まねを披露した。これは通常、司会者が最初にやるパフォーマンスだ。

その後、授賞式はそれぞれの賞をさまざまな映画スターたちが発表する形で行われた。全体を取り仕切る大役はいなかったものの、式の進行に影響はなかったようだ。