米下院、トランプ氏の国家非常事態宣言の無効可決 国境の壁建設めぐり

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野党・民主党幹部のペロシ下院議長は、党派対立ではなく愛国心の問題だと主張した
野党・民主党が多数を占める米下院は26日、ドナルド・トランプ米大統領による国家非常事態宣言を無効にすると可決した。トランプ氏は、選挙公約のメキシコ国境の壁建設費用を軍事予算から捻出するため、今月15日に非常事態を宣言していた。
非常事態宣言の無効化決議案は次に、与党・共和党が多数を占める上院の審議に移る。一部の共和党上院議員は、民主党提出のこの決議案に賛成する姿勢を示している。
トランプ氏は上下両院が決議案を可決した場合には、拒否権を行使すると表明している。
下院(定数435)はこの日、賛成245、反対182で、大統領の非常事態宣言を無効にすると決議案を可決した。共和党議員197人のうち、13人が造反し、民主党提出の決議案を支持した。このままでは、大統領の拒否権を無効にするために必要な両院の3分の2の支持は得ていないことになる。
議員たちは国家非常事態法の規定を使い、大統領の宣言を無効にしようとしている。両院は18日以内に採決を終えなくてはならない。
民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は25日、「これは国境の問題ではない。これは合衆国憲法の問題だ。これは政治の問題ではない。党派対立の問題でもない。これは愛国心の問題だ」と、非常事態宣言の無効化を強く求めていた。
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トランプ氏は15日、メキシコとの国境での状況を「危機」と呼び、連邦予算決定権を握る議会を迂回(うかい)するため、軍事予算から壁建設費約80億ドル(約9000億円)を工面するために非常事態を宣言した。
民主党は、トランプ氏の言う国境での「危機」は大統領による作り事で、議会権限を不当に奪うのは憲法違反だと反発している。民主党は昨年11月の中間選挙で下院の多数党となったため、壁の建設費承認を拒否。政府予算をめぐるこう着から、昨年暮れから今年1月まで連邦政府機関が予算切れで一部閉鎖する事態となった。
上下両院で一部の共和党議員が、民主党と共に非常事態宣言に反対している。一方で、かつては非常事態宣言に反対していたものの、今は大統領は憲法によって与えられた権限を行使しているに過ぎないと意見を変えた共和党議員もいる。

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ミッチ・マコネル上院院内総務(共和党)は、非常事態宣言に至ったのは民主党がトランプ氏との交渉を拒否したからだと批判した
共和党のケヴィン・マカーシー下院院内総務(カリフォルニア州選出)は、民主党が国境での危機を無視しているいと批判した。
米紙ワシントン・ポストによると、ウォーレン・デイヴィッドソン下院議員(共和党、オハイオ州選出)は、「非常事態を宣言する必要はなかったと思うが、宣言したし、それは合法だ」と述べた。
一方で、トマス・マッシー下院議員(共和党、ケンタッキー州選出)は、「国境では危機が発生しているが、大統領の思うとおりに議会が金を使わないからといって、それは非常事態ではない。大統領に認められている憲法上の権限は、自分の意に沿わない予算案に拒否権を行使することだ。しかし、大統領は壁の建設費を含まないたくさんの法案に署名している」とツイートした。

上院(定数100)では、危険な前例を作ることに懸念を表明する共和党議員が増えている。上院は現在、共和党53人、民主党45人(2議員は無所属だが投票傾向は民主党寄り)。上院議長でもあるマイク・ペンス副大統領は26日、共和党議員団と非公開の昼食会合を開いた。
共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務は、大統領の非常事態宣言を支持しており、「民主党が国益よりも党利党略による妨害を優先させた」のだから、「十分に予想できたことだし、理解できる結果だ」と述べた。
非常事態宣言によって、トランプ氏は壁建設費として約80億ドルを軍事費から振り向けることができるようになるが、約3200キロにおよぶ国境全てに壁を建設する場合の費用は230億ドルと試算されている。ただし、80億ドルは、連邦議会がフェンス建設費として認めた13億7500万ドルは大きく上回ることになる。