インドネシアのオランウータンが絶滅危機、生息地にダム建設計画

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インドネシアの保護活動家はダム建設に出資する中国銀行に抗議している
インドネシアの裁判所は4日、世界で最も絶滅の危機にさらされているオランウータンの生息地におけるダムの建設計画を承認した。保護活動家が明かした。
総工費22兆ルピア(約1738億円)のダムは、インドネシア・スマトラ島北部のバタントル森林地帯に建設が予定されている。この地域は、2017年に新種として確認されたタパヌリオランウータンの生息地。
公判の専門家証人だった科学者はBBCに対し、今回の決定は「タパヌリオランウータンに絶滅への一途をたどらせる」だろうと述べた。
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最悪の場所の建設計画
2020年に完成予定の水力発電ダムは、アジルテナガザルとスマトラトラの生息地でもあるバタントル熱帯雨林の中心に建設される。
インドネシアの電力会社、PTノース・スマトラ・ハイドロ・エナジーが運営し、スマトラ島北部に電力が供給される。同社によると、発電量510メガワットのダムによって、この地域にクリーンな電力を提供できるようになる。
インドネシア紙ジャカルタ・ポストによると、ダムの建設を手がけるのは中国国有企業のシノハイドロ社。複数の外国銀行が建設計画に出資しており、中国銀行もその一つだ。
インドネシアの環境保護NGOのインドネシア環境フォーラム(WALHI) は今年初め、北スマトラ州政府に対し訴訟を起こした。
しかし北スマトラ・メダンの地方裁判所はこの訴えを退け、ダム建設への道が開かれた。
ジャカルタ・ポストによると、ジミー・C・パルディディ裁判長が「裁判官は原告側の訴えを全て退けた」という。
裁判官は、環境への影響について詳述した計画案は、既存の環境規制にかなったものだと判断を示した。と述べた。
WALHIは上訴する方針を示しているほか、中国銀行に対し出資中止を求めている。
WALHIのダナ・タリガン氏は、「原生林が目下、ダム建設のために伐採されている。オランウータンがこの地域から逃げる様子を、研究者が確認している。もうすぐに時間切れになってしまう」と述べた。
一方の中国銀行は、方針策定や決定を下す際には「全ての関連する要因を考慮」するとしている。
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スマトラオランウータンもまた絶滅の危機に瀕している
2017年にタパヌリオランウータンを新種として確認した科学者の1人、英リバプール・ジョン・ムーア大学のセルジュ・ウィック教授は、今回の決定には「がっかりした」という。
「ダムが建設される場所は、タパヌリオランウータンが最も生息している地域だ。つまり、バタントル森林地帯の中で最悪な場所に建設することになる」
教授は、建設計画がオランウータンにどのような影響を与えるか評価するため、公判に呼ばれた。建設計画の背後にある環境アセスメントには「間違いなく問題があり」、計画が承認されたことに「まったく驚いた」と言う。
建設予定地は「まさに、この種が最も集中してい生息している場所だ。なのでダムの建設としては最悪だ」と教授は指摘し、「インドネシアには、ダムを建設できる場所が他にもたくさんある。なぜここに建てなければならないのかが分らない」と述べた。
さらにウイック教授は、ダムの建設は「タパヌリオランウータンを絶滅に向かわせてしまう」と警告した。
インドネシアの首都ジャカルタ(Jakarta)とスマトラ島の北スマトラ(North Sumatra)の位置関係
スマトラ・オランウータン保全プログラム(SOCP)によると、生息数わずか800頭とされるタパヌリオランウータンはすでに、世界で最も絶滅の危機に瀕している類人猿。