英下院、きょう「示唆的投票」へ メイ首相の協定支持に回る離脱派も

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英下院(定数650)は27日、欧州連合(EU)から離脱する方法について、複数の選択肢から議員の過半数が支持するのはどれかを判断するための「示唆的投票」を行う。

示唆的投票では、EUとの関税同盟締結や2度目の国民投票、ブレグジット(イギリスのEU離脱)中止を含むさまざまな案が採決にかけられる予定で、審議と投票は来週までかかる見通し。

しかし示唆的投票に拘束力はなく、テリーザ・メイ首相は投票結果に従う保証はないとしている。

こうした中、これまでメイ首相の離脱協定に反対してきた保守党の中でも特に強硬なEU離脱派議員が、協定支持に回る動きも出てきた。

離脱協定はこれまでに2度、下院で否決されているが、メイ首相は今週中に3度目の「意味ある投票」を行うとしており、ブレグジットの行方はなお混沌としている。

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イギリスは3月29日にEUを離脱する予定だったが、下院審議とEU加盟国の承認を得て延期が決まった。

EUとメイ首相がまとめた離脱協定を下院が3月中に承認すれば、新たな離脱日は5月22日となる見込み。一方、協定が承認されなかった場合の離脱日は4月12日で、イギリスはこの日までに引き続き協定可決に向けて動くか別案を示す必要がある。

英下院は25日夜、こう着状態を打破するために、EU離脱をめぐる27日の審議の主導権を政府から下院に移すという異例の修正案を329対302の僅差で可決した。

これを受け、さまざまな議会グループがブレグジット後のEUとの関係について案を提出している。多くは、こう着状態の原因となったアイルランドと北アイルランドの国境をめぐる「バックストップ」に関する修正を含んでいる。

27日に審議されるブレグジット案の一部

  • 関税同盟:EU離脱後、イギリスはただちにEUとの新しい関税同盟について交渉を始めるというもの
  • 単一市場2.0:欧州自由貿易協定(EFTA)に再加入し、欧州経済領域(EEA)にとどまることで、ブレグジット後も単一市場にとどまる案。北アイルランドについては、バックストップに代わる「包括的関税パートナーシップ」が交わされる。また、条件付きで人の自由な移動を認める
  • EFTAおよびEEAへの加入:EFTAに再加入し、EEAの既存ルールには従うものの、施行にはイギリスの裁判所の承認を必要とする案。北アイルランドについてはEUとの関税同盟関係にはならず、代わりとなる合意を模索する
  • モルトハウス妥協案A:メイ首相の離脱協定からバックストップを除外し、代わりの合意を加える案
  • 2度目の国民投票:議会を通過した離脱協定に対し、批准の前に国民に是非を問う案
  • ブレグジット中止:EU基本条約(リスボン条約)第50条を破棄し、EUから離脱しない選択肢。条件として、政府が協定への支持を取り付けられなかった場合、議会は離脱日の2日前に合意なしブレグジットについて採決する。この採決で合意なしブレグジットが否決された場合に限り、ブレグジットを中止するというもの

どの案を審議し投票にかけるかは、ジョン・バーコウ下院議長が決定する。

最大野党・労働党のヒラリー・ベン議員が提出した動議によると、これらの案は5時間かけて審議される予定。

投票は午後19時(日本時間28日午前3時)に行われ、この日のうちにバーコウ議長が結果を発表する。ただ、議会で過半数支持を得られる条件を見つけ出すため、このプロセスは来週まで続く見通しだ。

メイ首相の協定に支持も

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メイ首相は離脱協定が議会で承認されるだけの支持が集まれば、今週中にも3度目の「意味ある投票」を行うとしている。

これまで協定に強く反対してきた離脱強硬派のジェイコブ・リース=モグ議員は26日、現時点での選択肢はメイ首相の協定か離脱中止しかないと述べ、協定支持に回る可能性を示唆した。

示唆的投票によって、首相の協定よりもさらにEUと緊密な関係を維持するブレグジットの形が選ばれる可能性があり、それをリース=モグ氏をはじめEUを強く嫌う議員たちが警戒しているからだとみられる。

デイヴィット・デイヴィス元EU離脱相も、首相の協定は他の案より優れており、3度目の採決では承認される「かすかな望み」があると話した。

「メイ首相の協定は決して良い内容ではないが、他の案は混乱の嵐に過ぎない。首相の協定より悪い提案ばかりが出てくる」

一方、示唆的投票を支持するために国際開発次官を辞任したアリステア・バート議員は、今こそ首相は「違う答え」が必要だと認めるべきだと述べた。

バート議員はBBCのローラ・クンスバーグ政治編集長に、「首相の今の使命は、自分が求めてきた答えとは別の答えを探すことかもしれない。このことを首相は認めた方がいい」と話した。

メイ首相に閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP、10議席)は保守党議員に対し、協定に「大きな変更」がない限りは否決を「貫く」べきだと訴えている。

今週の動き、その後は?

27日: この日に示唆的投票が行われる見込み。各党が党議拘束をかけるかは明らかになっていない。一方、超党派の合意が形成される可能性は低い。また、国内法から3月29日の離脱を削除するかどうかを採決する。メイ首相は保守党の1922年委員会(保守党党首の不信任動議を扱う委員会)で演説を行う予定

28日: 3度目の「意味ある投票」の候補日。メイ首相には離脱派議員から協定への支持が取り付けられる可能性がある

29日: 法的には、イギリスはこの日にEUを離脱する予定となっている。メイ首相は第2次立法でこれを変更する方針。成功すれば、現段階で最も近い離脱予定日は4月12日となる

27日の示唆的投票で過半数支持を得られる条件がまとまり、メイ首相がこれを認めれば、イギリス政府はこの方針に従ってEU離脱を進めることになる。

一方、示唆的投票で条件がまとまらなかったり、メイ首相がこれを認めない場合は、首相の協定について3度目の採決が行われる見通し。

協定が承認されれば、イギリスはこれを国内法にするプロセスを経て5月22日にEUを離脱する。

協定が否決された場合は、4月12日に合意のないままEUを離脱する、EU離脱を中止する、EUにさらなる延期を求めるなどの選択肢がある。

さらなる延期が認められた場合、イギリスは5月末の欧州議会選挙に参加する必要がある。また、その後に再交渉となるか、総選挙や国民投票を行うかなどは現時点では不明だ。