トランプ氏はムラー氏の解任を命令していた=ロシア疑惑捜査報告書

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60秒でわかるムラー報告書 時間のないあなたが知っておくべきこと

米司法省は18日午前(日本時間同日深夜)、2016年米大統領選へのロシア当局による介入とトランプ陣営の関与を捜査していたロバート・ムラー特別検察官の報告書を公表した。448ページに及ぶ報告書によると、ドナルド・トランプ米大統領はホワイトハウス法律顧問に、ムラー検察官の解任を命じていたという。トランプ氏の関係者は報告書の内容を「全面勝利」と歓迎する一方、野党・民主党は、大統領の司法妨害はなかったと報告書発表に先駆けて発表したウィリアム・バー司法長官を強く批判している。

1年10カ月にわたる捜査の結果をまとめたムラー報告書は、ロシアとトランプ陣営の共謀を裏づける証拠はなかったとしつつ、トランプ氏による司法妨害については、犯罪行為はなかったと確定的に結論できなかったと書き、司法妨害罪に相当するかどうかを検討した大統領の行為10件を詳述した。

報告書発表に先駆けて記者会見したバー司法長官は、3月末に要点を発表した際と同じように、ロシアによる選挙介入はあったもののトランプ陣営との結託を裏づける証拠はなく、司法妨害についてムラー検察官は判断を避けたものの、自分が司法長官として訴追に相当しないと判断したと説明した。

大統領の司法妨害疑惑に関するバー氏のこの説明について、民主党幹部は「ミスリーディング」だと強く批判している。

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特別検察官事務所は2017年5月から1年10カ月の間に、ロシア人やロシア法人3社を含む計37人を正式起訴し、そのうち7人が有罪を認めた。ロシア人やロシア法人は共謀やハッキングなどに関する罪状で起訴されたが、トランプ陣営関係者の罪状は詐欺罪や偽証罪などがほとんどでロシアの選挙介入に直接関与したという罪状での起訴ではない。

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特別検察官、トランプ氏を司法妨害で訴追せず 理由は

ムラー報告書の新事実

報告書でムラー検察官は、ロシア当局とトランプ陣営の間に複数のつながりがあることを確認したものの、犯罪に相当する共謀行為は特定しなかったと書いた。一方で、ロシアの選挙介入とトランプ陣営との関係について、司法当局の捜査をトランプ氏が妨害しようとしたかについては、「無罪を認定するわけではない」としつつ、確定的な法的判断を避けた。

特別検察官によるこの異例の判断回避はバー司法長官が3月に示した要旨でもすでに明らかになっていたが、報告書はこの文章の前段として、「事実関係を徹底的に捜査した末、大統領は明らかに司法を妨害していないと自信を持てるならば、我々はそのように断定するところだ。事実関係と、適用可能な法的基準をもとにすると、我々はそのような判断に至ることができない」と書き、その上で、「この報告書は大統領が犯罪を行ったとは結論していないものの、無罪を認定するわけではない」と説明していた。

その上でムラー特別検察官は、「大統領が憲法第2条に則り自らの権限を行使した結果、司法を妨害したと言えるかどうかについて、我々は、司法遂行の厳正性を守るために大統領の権限乱用を防ぐ権限は、連邦議会にあると結論した」、「大統領の権限乱用に対して連邦議会が司法妨害に関する法律を適用しても良いという結論は、この国の憲法が保障する三権分立の仕組みと、なんびとも法を超越しないという原則に見合うものだ」と書いた。

報告書によると、2017年6月の時点でトランプ大統領はホワイトハウスのドン・マギャン法律顧問(当時)に、ムラー氏の解任を司法省に求めるよう指示した。ムラー氏の「利益相反」を理由にしていたという。

これについてマギャン弁護士は特別検察官に、「自分は大統領の命令に従うつもりはなかったので、にっちもさっちもいかない」と感じたし、トランプ氏からまた電話がかかってきたら何を言えばいいか分からなかったため、辞任を決めたと話した。トランプ政権は2018年8月に、マギャン弁護士の退任を発表した。

ほかに報告書では、複数の新事実が明らかになった。その一部は次の通り――。

  • 特別検察官の捜査着手が発表されると、トランプ氏は「ああもう最悪だ。これで自分の大統領政権は終わりだ」と述べ、罵倒語を使って「自分はもうおしまいだ」と嘆いた
  • ムラー氏は、司法妨害が疑われる大統領の行為10件について詳細に点検した。ジェイムズ・コーミー連邦捜査局(FBI)長官の電撃解任など、その行為のほとんどは「衆目の中で」行われたものだった
  • 大統領による司法妨害行為は実際に捜査を妨害しなかったが、これは単に政権関係者が大統領の「命令を実行しなかった」からだった。この政権関係者の中には、コーミーFBI長官も含まれる
  • 大統領は特別検察官による直接の事情聴取には応じず、質問には書面で回答した。捜査陣は回答内容を「不十分」と判断したものの、大統領を事情聴取に召喚するには法的手続きに時間がかかりすぎるため、見送った
  • 大統領選前の2016年夏にニューヨークのトランプタワーで、トランプ氏の長男や義理の息子など陣営幹部がロシア人弁護士と面会した。トランプ陣営はその面会内容について事実を曲げた説明文を発表したが、内容はトランプ氏の口述筆記によるものだった。この点は以前、トランプ氏の顧問弁護士とホワイトハウスのサラ・サンダース報道官が、トランプ氏が説明内容を指示した事実はないと否定していた
  • 特別検察官は、大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏と、大統領の義理の息子のジャレッド・クシュナー大統領顧問を訴追するか検討したものの、司法省が定める故意性の構成要件を満たせないと判断し、起訴を見送った

トランプ氏の反応は

Image copyright POOL

この日、退役軍人のためのイベントに出席したトランプ氏は、「今日は良い日だ」と述べ、「結託などない」、「妨害などない」と繰り返した。

またトランプ氏はツイッターで、最終回を目前にした人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」を真似た画像を投稿。「結託などない、妨害などない。憎む連中や民主党の極左にとっては、ゲーム・オーバー」と書かれている。

大統領の関係者たちも、ムラー捜査は「でっちあげ」で、報復捜査が必要だというトランプ氏の主張を繰り返した。

2020年大統領選での再選を目指すトランプ氏のブラッド・パースカル選対委員長は、「またしても、完全に全面的にトランプ大統領の無罪が確定した」とコメントを発表。「これで立場は逆転する。政治的報復を動機に、根拠となる証拠がまったく何もないにもかかわらず、このでっちあげ捜査を実施させた嘘つきどもを、今から捜査すべきだ」と強調した。

民主党はムラー氏の証言を要請

民主党が多数を占める連邦下院では、司法委員会のジェリー・ナドラー委員長(民主党)が、ムラー特別検察官に「できるだけ速やかに」議会証言するよう要請したと明らかにした。

下院情報委員会のアダム・シフ委員長(民主党)も、ムラー氏に正式に議会証言を求めたと発表した。

トランプ氏の指名で就任したバー司法長官は、報告書全文(進行中の裁判に関する内容など一部黒塗り)の発表に先駆けて記者会見し、大統領や陣営の行為に問題はなく、司法妨害に当たるかもしれないと思われた行為はいずれも、捜査が政権運営を阻害するという大統領の「怒りといら立ち」によるものだったなど、トランプ氏の心情を擁護した。

この会見を受けて、民主党幹部は司法長官が中立でもなければ政権から独立もしていないと厳しく批判した。

下院司法委のナドラー委員長は、「バー司法長官は、トランプ大統領を守るためなら自分が率いる司法省の足を引っ張っても構わないと意思表示をしたようで、懸念される」と述べた。

委員長は、情報が伏せられていない報告書の完全版を提出するよう、司法省に正式に召喚したと明らかにした。

民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長とチャック・シューマー上院院内総務は共同声明で、実際の報告書と、バー司法長官の要点説明には大きな食い違いがあると批判した。

民主党議員の間では、バー長官の辞任を求める声も上がっている。

<解説> なぜ大統領は起訴されなかたのか――ジョン・ソープル北米編集長

ロバート・ムラー氏は、ドナルド・トランプ氏が書面で提出した回答は不十分だと書いた。

それが事実なら、なぜ特別検察官は召喚権限を使い、大統領を事情聴取に呼び出し、捜査陣の質問に直接答えるよう要求しなかったのか。

そのようなことをすれば、自分の捜査は決定的に打ち切られてしまうと懸念したのだろう。ムラー氏は大統領との直接対決をあえて回避した。

ほかにも、「一定の司法妨害があったと思うなら、なぜ起訴相当と言わなかったのか」という疑問の声も上がるかもしれない。

これについてムラー氏は(アメリカ式のたとえを使うなら)、野球のバットをホームプレートに置いて立ち去ったのだろう。実際にバットをつかんで振るのは、他の人の役割だと。

要するにムラー氏は連邦議会に、「自分は問題を検討した。解決はしなかった。大統領を無罪放免にもしなかった。けれども皆さんが皆さんで対応したいなら、それは別の話ですよ」と言っているのだ。

(英語記事 Mueller report: Trump 'tried to get special counsel fired'

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