北アイルランド暴動で女性記者が死亡、警察は「新種のテロリスト」懸念

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将来有望なジャーナリストだったというリラ・マキ-さん(29)はクレガン地区で起こった警察に対する暴動の現場で、銃に撃たれて亡くなった
英・北アイルランドのロンドンデリーで18日に起きた暴動で女性ジャーナリストが亡くなった事件を受け、北アイルランドでは新手の過激派への懸念が浮き彫りになると共に、警察への支持が高まっているという。
記者のリラ・マキ-さん(29)はクレガン地区で起こった警察に対する暴動の現場で、銃に撃たれて亡くなった。
警察は、マキーさんを撃ったのは、アイルランドとの統一を目指す共和派の反体制組織、新アイルランド共和軍(the New IRA)とみており、テロ事件として捜査を進めている。
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北アイルランドの警察は18日、武器および銃弾所持の疑いで、デリーにある住宅を家宅捜索。これを受けて警察に対する暴動が起き、他のジャーナリストと共に警察車両の近くに立っていたマキーさんが巻き込まれた。
監視カメラの映像には、群衆の中にいるマキーさんが映っているほか、携帯電話で撮影された動画には銃を持った犯人と思われる人物が映っていた。
この動画では、覆面姿の犯人が身を乗り出して、警察や群衆に向かって発砲している様子が見て取れる。
北アイルランド警察が公開した監視カメラなどの映像
新たなテロ組織が台頭
警察は事件後、18歳と19歳の男性をテロ行為の疑いで逮捕していたが、共に21日に不起訴で釈放された。
捜査を主導するジェイソン・マーフィー警視は20日、証拠を持つ人は名乗り出るよう訴えた。
マーフィー警視は、今回の事件も含めて広く「新種のテロリストの台頭」という問題を「とても心配している」と述べる一方、事件を機に治安維持に対する市民感情に「大きな」変化が「実感」できると話した。
「北アイルランド全土の大半のコミュニティーが治安維持と警察、そして和平プロセスを支持していることが分かった」
「クレガンでもきのう、目に見える形でそれが示された。地域の代表を勝手に名乗るテロ組織にずっと長いこと押さえつけられ、おびえていた地域が、態度を示した」
ベルファスト合意から21年
マキーさんが殺されたのは、1998年のイースター聖金曜日に交わされたベルファスト合意(イギリスとアイルランドの和平合意)の21周年に当たるイースターの直前だった。
北アイルランドでは20世紀後半、イギリスの統治に反対する共和派による暴動が30年以上続き、ベルファスト合意までに約3600人が亡くなったとされる。
ベルファスト合意によって、北アイルランド自治政府の発足と議会の設置などが決まった。イギリスとの一体性を求める親英派とアイルランドとの統一を求める共和派が、敵対から一転して協力し合うことになったが、今なお反体制派の活動は続いている。
マキーさんに発砲した疑いのある新アイルランド共和軍は2012年、複数の共和派反体制組織がひとつに統合して発足。共和派の反体制組織としては最大規模とされる。
また、フェイスブックでは共和派政党「シーラ(Saoradh)党」が18日の暴動を擁護。警察による不当な家宅捜索の後、マキーさんが「有志の者」によって「誤って」撃たれたと主張した。
2016年結党のシーラ党は、「イギリスによるアイルランド6州の不当な支配を終わらせ」、アイルランド全32州による社会主義共和国の設立を目指すと公約。新IRAの受刑者たちの支持を集めている。
「Saoradh」とは、アイルランド語で「解放」を意味する。

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事件現場には、マキーさんをしのぶ花やメッセージが手向けられている
マキーさん殺害は、国内外から多くの批判を浴びている。
マキーさんのパートナーのサラ・キャニングさんは19日に行われた追悼集会で、マキーさんはLGBT(性的少数者)コミュニティーの「活発な支持者であり活動家だった」と語った。
キャニングさんは、マキーさんの夢は「1度の残虐な行為でかき消され」、自分は「一緒に年を取ろうと思っていた女性」を失ったと話した。

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マキーさんのパートナーのサラ・キャニングさんは、マキーさんの死で悲しみに暮れていると話した
クレガン地区で行われた追悼集会には北アイルランドのシン・フェイン党のメアリー=ルー・マクドナルド党首や民主統一党(DUP)のアーリーン・フォスター党首が参加したほか、19日にはイギリスのカレン・ブラッドリー北アイルランド相が弔問の記帳に訪れるなど、党派を超えてマキーさんの死を悼んだ。
国外からは、ビル・クリントン元米大統領がツイッターで、「リラ・マキーさん殺害とデリーでの暴力事件に心を痛めている。北アイルランドが直面している問題は現実だが、過去21年間、一生懸命維持した平和と進歩を失うわけにはいかない。この悲劇は(ベルファスト合意による和平を失った場合)、私たちがどれだけ多くのものを失うかを示した」と追悼の意を述べた。
アイルランドのマイケル・D・ヒギンズ大統領はベルファスト市役所で弔問帳に記帳し、国内では大勢がこの事件に「激怒」していると語った。
欧州連合(EU)のブレグジット(イギリスのEU離脱)首席交渉官を務めるマイケル・バルニエ氏はツイッターで、マキーさん殺害は「北アイルランドの平和が以下にもろいかを示すもの」だと述べた。